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君を君たらしめる手作りの魔法  作者: 天海 七音
第二部 一幕 学院生活
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48.人は見かけによらない

「大変失礼かとは思いますが、琳先輩はお幾つで?」

「今年二十よ」

 新事実発覚。師匠、二十歳でした。は?少なく見積もって五つくらい上かな〜?って思ってました。すみませんでした。私と三つしか差がないんですね。

 琳先輩は二十歳とは思えぬ色気を放っているが、師匠は師匠で余りに達観しているというか。人は見た目で判断してはいけない。否、中身を知っても分からなかったわけなんだけれども。

「分かるわよ、あの顔で同い年とか言われても信じられないわ。老けすぎよ」

 い、否、そこまでは言ってないです。そんなこと言ったら絶対にどつかれる。

 琳先輩は美しいかんばせを歪ませて舌打ちをした。意外と表情が豊かである。

「そんなことはどうでもいいわ。ふふん、『縹組(はなだぐみ)』だかなんだか知らないけど、達華を師匠と呼ぶあなたを今年はこき使ってあげるわ!」

 琳先輩は私を人差し指でびしっと差して、そう高らかに宣言した。

「『縹組』ってなんですか?」

 とりあえず琳先輩の言っていることが半分も分からないので、一つずつ質問してみることにする。

 元気良く右手を挙げると、琳先輩は少しだけ顔を歪めてぺちりと私の額を叩いた。

「あう」

「話の腰を折るんじゃないわよ。とにかく年末の創立記念祭は戦いなんだから、白衣の完成度によってあなたに振る役割を決めるわよ」

「創立記念祭?」

「分かったら白衣なんてものは、さっさと仕上げておしまい。そのあとに地獄を見せてあげるわ!」

 そうして琳先輩は、言いたいことを一方的に告げて教室から立ち去ってしまった。抱えた疑問が宙に浮いたので、とりあえず教育係であるつーちゃん先輩に助けを求めて視線を投げた。

「琳先輩は、まあ、ああいう人だから適当に流しておくといい」

「流していいんですか」

「気にしたら負けよ」

 つーちゃん先輩は疲れたように、こめかみを揉んでいる。

 確かにいちいち相手にしていたら疲れそうな人だった。過去に何があったかは知らないが、あの調子なら師匠と性格は合わなさそうである。

「ではつーちゃん先輩は『縹組』が何だかご存知ですか」

「ご存知も何もあんたたちのことなんでしょう?詩苑様たち、定期発表を一緒にやってる人を先生がまとめてそう呼んでるって話。遊梨ちゃんもそう呼んでたし」

「先生が言ってるんですか」

 それは予想外だ。精々芸術クラスの学生の間で話題になっている、くらいの呼び方だと思った。先生たちにとってもあの集団が異端過ぎるのか、それともそういった呼び方で集団を表すのが一般的なのか。

「お前本当にあの衣装仕立てたんだな…」

 面倒くさいことが起こると、基本的には黙ったまま様子を窺っている椹火が、久しぶりに口を開いた。信じていないのであればそのまま曖昧にしておきたかったが、何故か若干舐められているような気配を察知した。

「だからそうだって言ってるでしょ。…って言っても去年の前後期、合わせて二回だけだけど」

「嘘だろ…」

 絶望みたいな顔になってきたけど、これは褒めているのか貶しているのかどちらなのだろうか。見られないほど酷い衣装を仕立てた記憶はないのだが。

「ここで嘘吐いて何になるのよ。まあでも騒ぎになるようならこのことは黙っていてよね」

 私が椹火に釘を刺しておこうと睨むと、つーちゃん先輩が言葉を継いだ。

「詩苑様の周りは何かと話題が尽きないからね。他学科の、ましてや他クラスの人たちが被服科に近づくことなんて滅多にないけど、あんたは詩苑様とも関係があるみたいだし、平和に過ごしたいなら暫くは大人しくしてた方が身のためなんじゃない?」

 つーちゃん先輩は何かを察したのか憐れむような視線を向けてくる。

 おかしい、私が悪いことをしているわけではないのに。薄々感じてはいたけど、やっぱり詩苑との関わりは公にしない方がいいのかもしれない。

「一年生は学科の必修科目が多いし課題もあるし、他学科に絡まれる隙もそうそうないと思うけど」

 実技が多い芸術クラスの中でも、被服科は特に課題が多い学科らしい。他学科に比べて暢気に過ごす時間が少ない分、貴族より平民の割合が多いのも特徴だそうだ。

 そうはいっても時期が来れば嫌でも関わるし、わざわざこっそり談話室の話をしに来たということは、あちらも対策をしてのことだろうとは思う。

 こそこそ隠れるのも性に合わないが、面倒事を起こしたいわけでもない。

「うーん」

 …やめだ。考えても分からないことは、流れに身を任せるしかないのだ。とりあえず楽しいことでもしておこう。

 課題に取り組むのが学生の本分、そう思って授業の合間は一先ず白衣制作に集中することにした。


 *


「あれ?」

 ふと周りを見渡すと、教室からはほとんど人がいなくなっている。今日は午後の授業が早めに終わったので、食堂が混まない早い時間帯に夕食を取ってしまい、再び教室に戻って課題制作に勤しんでいた。

 課題の提出期限までは幾らか余裕があるものの、課題に取り組めることが嬉しくてつい作業を続けてしまう。

 教室では二年生が大きなタペストリーらしきものに刺繍を刺しているし、三年生はせっせと毛糸を編んでいる。特殊な織物を制作している四年生は隣の作業室にいるらしい。作業仲間がいるとつい嬉しくて捗ってしまうのだ。

 先日まで師匠の店でアルバイトという名のお手伝いと師匠からの課題に明け暮れていた私にとっては、むしろやることが減ったくらいなもので、ひたすら課題に取り組んでしまうのは仕方がないことでもあった。

 そんな中、さっさと課題を終わらせた椹火はいつの間にかいなくなっていた。作業の速さが尋常じゃなかった。

 入学試験のときにやたら細かく型紙をとって組み立てるものだと思っていたが、あれは多分遊んでいたのだ。時間が余ることまで見越して不必要な工程を見せつけ、こちらをおちょくっていたに違いない。本当に何から何まで腹立たしい男である。それでいて作業は正確なのがさらに憎たらしい。

 椹火は余計な装飾をつけないとはいえ、私との明確な技術差が悔しくて追いつきたくて、没頭して作業を続けてしまった。

 改めて自分の手の遅さと未熟さに嫌気がさす。それでも毎日遅くまで教室に残って作業を続け、課題の白衣は順調に完成に近づいている。

 キリのいいところで手を止めると、教室内には先輩も数人しか残っていない。固まった身体を解すべく、ぐるぐる肩を回しながら時間を確認すると、寮の消灯時間まではまだ暫く余裕がある。

 一度切れた集中を取り戻すのにも体力が要るなあ、今日はもう寮に戻ろうかなあ、でもこのまま戻るのもなんとなくもったいないなあ、そろそろ舞台衣装考えたいなあ、と、取り留めもなく思考を巡らせて、詩苑の言葉を思い出した。


『俺たち、普段は芸術クラス棟の第三談話室にいることが多い。空き時間があったら顔出して』


 つーちゃん先輩には大人しくしておけと言われたし、こんな時間にいるのかは謎だけど、行ってみるだけ行ってみようか。

 ずっと白衣に掛かりきりになっていたが、そろそろ脳は新しい刺激を求め始めていて、急に好奇心が湧いてきてしまった。

 もしかしたらそろそろ前期発表について考え始めるかもしれないし、場所の確認もしておきたいし、昼間の賑やかな時間に行くよりは今の方がまだましだろう。

 椹火に対抗すべく白衣は早めに仕立てあげようと思っているが、つーちゃん先輩に言いつけられたところまでの目処も立ってきた。今日くらい早く切り上げてもそんなに影響はないだろう。

 思い立てば行動が早いのが私の良いところだ。手早く作業台を片付けて教室を後にした。


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