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君を君たらしめる手作りの魔法  作者: 天海 七音
     七幕 君が祈ること
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【幕間】腕の良い刺繍職人

 達華(たちばな)の仕立て屋は、アルブメリ王国の都の外れにある。中心街からそれなりに離れた、更に大きな通りから一本入った目立たない場所だ。

 そこは知る人ぞ知る、隠れた名店である。

 今日もまた、白髪混じりの常連客が達華の仕立て屋を訪れている。


「こんにちは」

 扉を開けると、ちりんと涼やかな音をたてる呼び鈴に誘われて、店主である達華が気だるそうに奧の作業場から顔を出した。

「ああ、夫人。いらっしゃい。あいつならもう…」

「やだ最後まで言わないでちょうだい。分かっているのよ。でもなんだかいつもの癖で足が向いてしまったものだから」

 夫人と呼ばれた常連客は、眉尻を下げて寂しそうに語尾を弱めた。

 達華は受付台の端に立つ。大きい図体の隣に空間を残した定位置は妙に収まりが良く、常連客は頬を緩めた。

「その帽子、大事に使ってるんだな」

「もちろんよ。せっかくあなたに直してもらったんだもの。今度こそどこにも飛ばさないわ」

 常連客が被ってきた薄い紫の帽子は、以前に達華が修理を依頼され、木に引っ掻けて空いてしまった穴を直した物だ。

「ああでも、あなたのお仕事がなくなってしまうかしら?」

 常連客が悪戯げに顔を覗きこむと、達華も張り合うように強気に笑った。

「そのくらいじゃ仕事はなくならねえよ。大事に使ってもらった方が帽子が喜ぶ」

 この店が、知る人ぞ知る名店と噂されるのには理由がある。達華とは、目立たない場所に店舗があっても仕事が途切れないくらいには、確かな技術を持った職人なのだ。

「今だって日傘の修理と、ズボンの丈直しと、子どもの一張羅と、ジャケットの作り直しと…ひっきりなしに仕事をもらってんだ」

 作業場を親指で差しながら言う達華に、常連客は一層笑みを深めた。

「まあ、忙しいじゃない」

 常連客がおどけて言うと、達華は大袈裟に肩を竦める。

「それが不思議なことに、前より静かで仕事が捗るんだ」

「ふふ、本当かしら。じゃあまたドレスでもお願いしにくるわね」

 常連客が外に出ようと扉に手をかけると、達華は申し訳なさそうに口を開いた。

「…ああ悪い。ドレスは暫くやんねえことにしたんだ」

「あらそうなの?どうして?」

「…腕の良い刺繍職人が出ていっちまったもんでな」

 達華は自分の白いシャツの裾に施された、白いダリヤの刺繍を見ながら目を細めた。

4月は再び毎週水曜日更新です。

季節は少々ずれますが、萌稀と一緒に新生活を始めませんか?

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