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君を君たらしめる手作りの魔法  作者: 天海 七音
     三幕 震える心
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【幕間】詩人の苦痛

蛇足かなと思いつつ、思いついたものは出していこう主義を捨てられず、とりあえず番外編的な感じで掲載してみます。

前期発表「僕に咲いた花」解釈の話です。

 師匠の店に帰り、屋根裏に許された自室で寝台に転がった。薄く開けた窓からは星空が見え、月光が淡く室内を照らしている。

 目を瞑ると舞台上の光景が蘇り、私の仕立てた衣装を着た詩苑さんの声が、鼓膜を揺らす。うっとりとその感覚に浸っていると、片付けをしながら詩苑さんと話したことも一緒に思い出された。


「課題が終わったから萌稀に訊いてみたいことがあるんだけど」

「なんでしょう?」

 少し気まずそうな詩苑さんに私は首を傾げた。

「萌稀はこの曲の女ってどんなイメージ?」

 それは唐突な質問であった。しかしながら衣装を仕立てながら想像していたことをまとめて、私はこう結論づけた。

「うーん、正直嫌な女だと思います」

 この歌を教えてもらったときに、同じ作詩家の詩集を読んだ。それなりに古い言葉が使われていたことをぼんやりと思い出す。

「それはどうして?」

「そもそもですけど、この曲に使われてる詩って、百年くらい前の西の方の国の人が書いているでしょう?あの地域って『黄色』に良いイメージがないはずなんですよね、確か宗教的な理由で。だとしたら初めからこの女は、男と純粋な恋をしようと思ってるはずないなって」

「……なるほど……確かに……?」

「どう考えても男の純粋さを利用して遊んでたんだろうなと……もしくは、色んな男に声をかけていて、同時に複数と遊んでも、その人と共有した思い出を忘れないように一人一色、目印になる色を決めてたのかも、とか」

「…………なる、ほど……」

「あくまで私の想像ですけど。男の生真面目な贈り物攻撃を受け流して消えるって、なかなか血も涙もないと思いませんか?」

「女って恐いんだな……って今の萌稀の話を聞いて思った」

 私の率直な分析に、詩苑さんの声がだんだんと重苦しくなってきたのが少しおかしかった。ともすれば女慣れしていそうな振る舞いに見える詩苑さんも、実際は同年代の男の子。もっと純粋な気持ちで表現していたのか気になってこう返してみた。

「詩苑さんはどういうイメージだったんです?」

「単純に男の何かが気に入らなくて避けてたら、贈られてくるものの花言葉が不穏になってきて恐くなったのかな、とか思ってた」

「そういう受け取り方もありますね。本当は黄色が好きになった感動的な話があったかもしれないですし、または現実には男の執着はとてつもなく気持ち悪いものだったかもしれないですし……でも」

 確かにそんな世界もあるのだろう。たまたま私の性根が詩苑さんより腐っていたがために発展した想像の可能性も否めない。

「でも?」

 でも人が表現したものというのは、必ずその人の経験が反映されるものということを私は知っている。だから、少しだけ踏み込んだ意見を言ってみることにする。

「この詩人、実は結構女性に騙されているんですよね」

「へ?」

「女運がないんだか、見る目がないんだか、特に晩年の詩集は女性から受けた苦痛のせいで、この世の絶望を全て煮込んで固めてすり潰して飲み干しましたみたいな暗さで、落ち込みたいときに読むのに最適なのですよ」

 女に裏切られた話を事細かに詩で表現したり、女のせいで受けた絶望を謳ったり、それはもう誰が見ても不幸だと思うような詩集が何冊か残っている。

「落ち込みたいときって……でもそうか、そういう解釈の仕方もあるのか」

 詩苑さんは私の意見を素直に受け取って何やら考え込んでいる。

「女に何かあるんですか?」

「いや、詩の分析が苦手すぎて担当の講師に課題を出されてて……確かに作者の考え方とかは重要だな」

「それ私が何か言っちゃって大丈夫なやつですか…?」

 課題に口を出してしまったことに慌てると、詩苑さんは穏やかに笑ったあと目を伏せた。

「もう講師にはあの発表で俺がどんな男女を想像して歌ったかバレてるから大丈夫。単純に俺が萌稀の見解を聞いてみたくて」

「なにがしかのお役に立てたのなら何よりですが…」

「あー!まだまだだなー!歌の練習は永遠にできるのにこの頭の使い方は苦手……」

 詩苑さんはぐしゃりと頭を掻きむしり遠い目をしている。

「縹さんとか山蕗さんは何も言わないんですか?」

「いつもなら打ち合わせの段階でいろんな意見を出すんだけど、今回は俺の課題のために口止めしてた」

「それは私にも口止めした方が良かったのでは……今回は女の方にまで言及しませんでしたが、うっかりしてたら危なかったと思いますよ?」

「危なくなったら途中で止めようかとは思ってたよ」

 詩苑さんは呑気に言っているが、私にスイッチが入ったら止められるかなんて私自身にもわからない。本当に大丈夫だったのだろうか。結果的には大丈夫だったわけだけれど。しかし私にはそんなことより気になる事象が発生した。

「ていうか、分析苦手なのにあの表現力なの……?こわ……」

 普通に引いた声をだしてしまった。正直な感想なんだけど、流石に失礼だったかと思いおそるおそる隣を見上げると、私の意に反して笑顔の詩苑さんと目が合った。

「萌稀にそう言って貰えるのはちょっと嬉しいかも。もちろん詩の分析は今後の課題だけど」

「そ、そう…ですか?」

「萌稀の情熱については信頼が厚いから」

 こんなとき上手い返しができないのが悔しい。

「ぎ、技術でも信頼されるように、が、頑張ります」


 目を開けて窓の外の月を見遣ると、記憶の中の髪色と重なる。

「分析苦手なのに何を意識して歌ったらああなるんだろう…それよりちゃんと分析ができるようになったらどんな歌になるんだろう」

 疲れた頭で思考を巡らせながら再び目を閉じると、意識はあっという間に暗闇に溶けた。


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