40サイ、コロブ。~人生はサイコロなのか~
「やばいやばい、仕事に遅れる!」
カイは、駅の階段を駆け降りていた。20代の頃だったら2段飛ばしできたであろうこの階段も、今となっては転ばないように急ぐのが精一杯だ。
「プルルルル」
ホームまで、あと一段。
(よし、乗れる!)
そう思った矢先、カイの視界がぐるっと反転して、天井が目に入った。
(ああ、昨日、雨だったなあ)
そんなことを思いながら、カイは後頭部に強い痛みを感じた。
目に光が差し込む。
(ここは、どこだ?)
ぼうっとしていると
「あ、目を覚まされました」と覗き込まれた。帽子と服装からして駅員のようだ。
「ここは駅員室です。転倒されて意識がなくて。この方と運んだんですよ」
女性がカイのことを覗き込む。
「大丈夫ですか?」
「あ、すみません、ご迷惑をおかけして」
女性はにっこりと笑う。(きれいな人だな)なんて思ってしまう。
「いえ、私はただの通りすがりなんで。目を覚まされてよかった」
じゃあ、失礼します、と言って、女性はにこやかに駅員室を出て行った。
カイも駅員に礼を言って、慌てて駅員室を出た。女性を見つけ、声をかけようとしたところで、はたと立ち止まる。
(なんだ、あれ。)
空に浮かぶ、無数の巨大な人間が、机を囲んで何か楽しそうに騒いでいる。慌てて周りを見渡すが、ほかの人には見えていないようだ。
「よし、やるぞ」
空に浮かぶ男の一人が、何かを回す。
「げえ!6かよ!」
「あっははは!残念!」
空の女が笑う。
「せっかく育ててきたのに」
男は「はあ」とため息をつくと、こちらににゅっと手を伸ばした。
その手の先に、先ほどカイを助けてくれた女性がいた。
男は手でその女性の頭をつかむ。そして。
そのままホームの端まで連れて行くと、線路の上にポトンと落とした。
(え?)
キキー!
ものすごいブレーキ音とともに、複数人の叫び声がこだまする。
カイの後ろの駅員室から、駅員が飛び出してきた。
あの女性が線路に落ちる直前、カイと目が合った。(え?)という顔をしていた。その顔が、カイの脳裏に張り付いている。
カイが真っ青な顔で空を見上げると、
「あーあ。また新しいの育てないとなあ。次お前だよ」
と空の男が言う。
「私は何がでるかな」
空の女がウキウキしたような口調と共に何かを転がした。
(あれ、見たことあるぞ)
そうだ。人生ゲームのサイコロだ。
(俺たちは、あいつらの、コマ、なのか?)
阿鼻叫喚が飛び交う駅のホームで、カイは立ち尽くした。




