パーティーを追放された俺が、本当にただの無能で使えなかった件
パーティー追放ものを書いてみました
「お前、俺達のパーティーから抜けろ」
ある日の事。
俺はパーティーのリーダー、勇者にそう宣告された。
「えっ」
唐突な話に勇者の顔を見ると、その顔には明らかな怒りと軽蔑を浮かべている。
「い、いきなり何を言うんだよ……!!なんでそんなことを言われなきゃいけないんだ!!」
声を荒げる俺に、勇者は嘆息をつく。
「……なあ、一つ聞きたいんだが」
勇者は、まるでゴミを見るかのような目で俺を見て。
「お前が今まで役に立った事が、一度でもあったか?」
言葉に詰まる俺を尻目に、勇者は更に言葉を続ける。
「魔法使いは魔法、僧侶は回復、戦士は攻撃ーー勇者はそれらをバランス良く。そういう形で俺達は戦ってきた。……お前は何だ?魔法は使えない、打撃も駄目、回復だって出来やしない。お前は一体、何が出来るんだ?」
「お、俺だって盾代わりくらいなら……!!」
俺の言葉に勇者は、更に深い溜め息をつく。
「……そうだな。魔法も攻撃も出来ないなら盾になる。それが一般的な考え方だよ。……お前、戦闘中どう動いてた?攻撃からひたすら逃げて、時には戦士を盾代わりにして、戦闘が終わればさも自分も戦ってたような顔をしてたよな?気付かれてないとでも思ってたのか?ええ?」
「…………」
言葉もなくうなだれる俺と、二度目の溜め息をつく勇者。
「勇者としてパーティーの人間をぞんざいに扱うのはどうかと思って、俺だってずっと我慢してきたさ。魔法使いも僧侶も戦士も、皆口を揃えてもうお前がパーティーにいるのは嫌だ、いるだけでイライラすると言うのをどうにか宥めて何とか此処までやってきたんだ」
勇者は一度言葉を切って、鋭い双眸で俺を睨む。
「だがもう限界だ。皆もそうだが、俺もお前が皆と同じくらいーーいや、その十倍は嫌いなんだ。お前なんかにこれ以上、神経を使いたくないんだ」
「ちょっと待ってくれ!!だったらなんで俺をパーティーに入れたんだ!嫌だったら最初から断ってーー」
「ーーそれができたら、最初っからそうしてたに決まってるだろうがッ!!!」
俺の言葉に怒りの限界を通り越したのか、激昂した勇者が叫ぶ。
「嫌だったら最初から断れば良かった、だと?……お前、自分がどうやってパーティーに入ったのか覚えてすらいねえのか、ああ?」
語気を荒げ、勇者は俺の胸ぐらをつかむ。
「土下座してきたんだよ、お前。俺が、仲間を集めてる酒場で。勿論俺はお前なんか入れるつもりはなかった。もう俺のパーティーは揃っていたし、聞けば何の取り柄もないという話だったからな。足手まといをわざわざ仲間にいれる物好きなんか、必要なはずないだろう?」
覚えていないわけがない。
俺は勝ち馬に乗るために、俺を見下してきた全てを見返すために、一番それが可能そうな勇者達に声をかけたのだ。
荷物もちでもなんでもする、だから俺を仲間に入れてくれ。
首を縦に振ってくれるまで、俺は此処を一歩も動かないぞ、と。
出口に陣取って勇者達にそう言った。
「俺達は酒場の出口に張り付いたお前を無視して、冒険に出た。……だが、お前はいつの間にか付いてきていた。俺たちがどんなに撒こうが付いてきていて、盾にしてモンスターに殺させた時も、暫くしたら何事も無かったかのように蘇っていた」
「…………」
「後から精霊に聞いた話によると、お前が無理矢理引っ付いてきたことで、お前にも精霊の加護が付いてしまったらしい。つまりお前はパーティーの一員として、どんなに撒いても付いてくるし、どれだけ死んでもしばらくすれば蘇ってくるーーそういう存在になったわけだ」
そう、勇者が忌々しげに吐き捨てた。
「だから抜けろ、今此処で。俺達のパーティーから外れればお前の精霊の加護も消えるだろう。言っておくが、これは俺の独断じゃない。全員の意思を確認した上で、俺はお前に話をしているんだ」
「…………もし、嫌だと言ったら?」
俺の言葉に、勇者は呆気に取られていた。
「お前……正気か?ここまで言われて、まだパーティーに残りたいのか?……だがそうだな、もしお前が嫌だって言うなら……」
勇者は再び、俺を見下げ果てるような顔で。
「ゴミみたいに扱ってやるだけさ。戦闘が始まったら、真っ先にお前を敵陣に放り込んで、ぶち殺されたところを俺や魔法使いの範囲攻撃で巻き添えにして吹き飛ばし、戦闘が終わったら皆で踏みつけてその辺に投げつける。……そうしたって、いつの間にか蘇ってきてるんだ。だからそうしたところで、何の支障も無いよなあ?飯だってお前には食わせない、宿屋に泊まる時もお前は外にいてもらうし、王への謁見の時もお前だけは城の外で待機させておく」
一通り言葉を並べて、勇者は笑顔で俺の肩を叩いてきた。
「そんな扱いは、お前だって嫌だろう?……だからな、これは俺達の為だけじゃない。お前の為でもあるんだ。……お前にはもっと相応しい場所がある。ここはお前のいる所じゃないんだ。分かってくれるよな」
何も言えず立ち尽くす俺から踵を返し、勇者は歩いていく。
遠ざかっていく背中。
全く振り返ることもなく、清々した足取りで勇者は俺の視界から消えていった。
それから数ヶ月後。
「お前、パーティーから抜けろ」
やっとの思いで入ったパーティーからも、同じような通告を受けて俺はパーティーから追い出されていた。
その次のパーティーも、またその次のパーティーも、更に次のパーティーでも。
「あなたの出入りを禁止させていただきます」
ある日、俺は酒場の責任者にそう言われた。
「苦情が多すぎるんですよ、あなた。私どもとしても、これ以上苦情を言われるわけにもいきませんから。悪しからず」
ついにパーティーにさえ入れなくなった俺は、力なく街中をさ迷う事となった。
それから、何年経っただろう。
町の片隅で座り込み、ただ景色を見るだけの俺の視界に見覚えのある人間が入ってきた。
「勇……者……?」
それは、最初に俺をパーティーから追い出した勇者だった。
朧気に入ってきた情報によると、俺がパーティーから消えた後の勇者一行はどんどん戦果を上げ、何人も魔王軍の幹部を屠ったらしい。
勇者は俺に気付くことなく、堂々とした足取りで歩いていった。
また、俺をパーティーから追い出した別の人物も、笑顔で町を歩いている。
よく見れば誰も彼も、一度は関わったことのある人物が大半だった。
「ああ……ああ…………」
もう、言葉さえ出なかった。
皆がきらびやかに成功し、笑える中で、俺一人だけが地を這いずって皆の成功を呪っている。
俺の人生は何なのだろう。
俺は何のために、今まで生きていたのだろう。
無意味に生きて、無価値である事を思い知らされて。
その結果が、このザマだった。
「……みんな、みんな死んじまえ」
青空を見上げて、そう呟く。
その言葉は誰に届く事もなく、ただ青空に溶けて消えていった。
現実はこんなものではないでしょうか