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クエスト1 ハーレム候補を見つけ出せ 1人目 その5

メロス:主人公の少年、邪神が宿っている。職業は『奴隷』。

邪神 :メロスに憑りついている。現代知識となろうに詳しい。ハーレムを作りたい。土下座と三下ムーブは得意。

グリ :王都でスリをやっている孤児の子供。冒険者になってお金を稼ぎたい。

ストア:王都でスラムの子供たちの面倒を見ている少女。

この王都はどうやら貴族や金持ちが暮らす上層街と、その下であくせく働く労働者が生活する下層街に分かれているらしい。冒険者ギルドがあった場所は荒くれ者がたむろするそれなりに治安の悪い場所で下層街と呼ばれる区画のようだが、その下層街からさらに治安の悪い区画がスラム街になっている。王都を守る高い街壁は一つの弊害として日の当たらない区画を街の外周に作ってしまうらしく、そこに位置するスラムはジメジメしていかにも生活するには向いていない。

そんなスラム街を邪神はストアたちの案内で進んでいく。ストアたちが暮らす家はこの先にあるようだ。

本来は人が生活する場所ではないのだろう、ゴミの集積所や下水から流れ込む川が近くにあるせいで、臭いもなかなかにきつい。思わず鼻を抑えた邪神だったがストアの視線に気づいて慌てて手をどかし平気な顔をする。

「いやあ、いい場所ですね。なんというか独特な空気で、いやこういう癖になる臭いって言うんですかボクは好きなんですよ。」

(邪神様、あんまり無茶は。)

さすがは邪神、女の子の好感度を稼ぐためなら明らかに体に悪そうな臭いも我慢して肺一杯に吸い込む。

「やめた方がいいよ兄ちゃん。ここであんまり呼吸すると肺の病気になるって評判なんだぜ。」

グリが言った忠告に邪神はむせ返り、すぐに服の袖で口を押える。そういうことは早く言えとグリを睨むが怪しむストアの視線にすぐに誤魔化し笑いの表情を変えた。


「ここがあたしたちが暮らしている家よ。」

なぜか先ほどのやり取りでストアの口調がぞんざいになった気がする。だが大丈夫だここから一気に挽回して見せる。ギャルゲーで鍛えた嗅覚を持ってすれば、ふふ、こんな小娘いちころだ。邪神は心の中で余裕の態度を崩さずに家の様子を見る。スラムでは珍しくない腐りかけた木製の壁とどうにか雨風をしのげるわらの屋根。しかし、そんな気分が落ち込みそうな建物に反して中からは元気のいい子供の声が響いている。

「こら、お前らちゃんと手伝いは終わらせてきたんだろうな。」

グリはスラムの子供たちの中では年長に属するらしく子供たちが家の仕事をさぼって遊んでいないか注意している。そんなグリにも負けない声で子供たちが反論している。

「ちゃんと野菜くず集めてきたよ。」「クソ掃除は終わらせたって。」「お前くっせー、水浴びして来いよ。」「うるせー、明日はお前の番だぞ。」「あのねー、あたしねー、木のみ拾いがんばったのー。見て見てー。」

子供たちは年に合わせてそれぞれの仕事があるらしい。だいたいが子供でもできるようなものか、汚くて大人がやりたがらないものではあるが、それでも元気が有り余った様子は不幸を感じさせない。

「よしよし、オイラはな、ほらこの財布を拾ってきた。ほらお金がいっぱい入ってるだろ。お前らがんばったから今日は腹いっぱい食わせてやるぞ。」

グリが年長らしくいい所見せようと今日の収穫で大盤振る舞いしようとする。その言葉に子供たちも喜びはしゃぐ。しかし、そんなグリの耳を引っ張りストアが怒り顔で叱りつけた。

「こら、グリ。あんた、これ、またスリしたんでしょ。返してらっしゃい。」

「違うよ、ストア姉ちゃん。これは本当に拾ったんだよ。」

あくまでスリではないと主張するグリ。確かにメロスから財布をスリ取ったグリの腕を考えれば財布一つで済むはずがないから、本当にあれだけは拾ったものかもしれない。あくまでもあの財布だけは、だが。

「じゃあ、拾ったものは兵士の詰め所に届けなさい。」

「「えー。」」

グリだけでなく他の子供たちも一斉に不満を口にする。しかし、ストアの視線に渋々うなずく。皆、財布に入った金貨よりもストアに嫌われる方が嫌なようで財布を詰め所に持っていくことになった。

「はっはっは、坊やたち、いいことを教えてあげよう。拾ったものは拾得物と言って拾った人には三割もらえる権利があるんだ。だから、その財布から三割先に貰っておけばいいだよ。」

邪神が子供たちの好感度を稼ごうとこの世界で通用するのかわからないルールでアドバイスする。城を墜としたいならまずはそこで働く下男から、ギャルゲーで培った経験が邪神に無駄な自信をつけさせていた。

「やめて。この子たちに悪いことを教えるのは。そうやって争いの種を蒔くと本当にこの子たちは簡単に死んじゃうんだから。」

ストアは邪神が軽口のつもりで言った言葉に真剣な顔で怒った。スラムという危険な場所ではリスクを冒すのは必要最小限にしなければならない、それを知っているストアにとっては邪神の冗談半分の言葉も看過できなかったのだ。

「い、いや、俺が言いたいのは、つまり、あれだ。そう、その三割分をボクの財布から出そうって話さ。なに遠慮はいらないよ。」

邪神の思惑とは違うストアの反応に慌てて軌道修正する。だが、ストアは納得した顔ではない。突然の険悪な雰囲気に一番小さな子供は泣きだしてしまった。

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