クエスト1 ハーレム候補を見つけ出せ 1人目 その2
メロス:主人公の少年、邪神が宿っている。たまに体を乗っ取られる。
邪神 :メロスに憑りついている。現代知識となろうに詳しい。ハーレムを作りたい。
冒険者ギルドの中へ入ると先ほどメロスから財布をスった子供の声が響いていた。
「なぁ、これでオイラも冒険者になれるだろう。」
子供はカウンターに身を乗り出し、受付の中年男性に冒険者登録をせがんでいるようだ。カウンターの上にはメロスの財布が一つ置いてある。とりあえず状況を理解するためにコッソリと冒険者ギルドに入ったメロスだったが、それを見ておおよその事態を悟った。どうやら、あのスラムの子供は登録に必要なお金欲しさに、メロスの財布をスったらしい。
「どうしましょう邪神様、僕たちのお金が。」
(まぁ落ち着けメロス。ここは俺が何とかしよう。)
そう邪神が言うとメロスの意識がすっと遠のく。邪神に体の制御を譲るときに感じるいつもの感覚だ。邪神が表にでるとメロスの遠慮深げな表情は打って変わって自信満々になり大股でカウンターへと近づいていく。
「よおクソガキ、俺の金でなぁにしようとしてんだ。たっぷり利子付けて返してくれるんだろうな。」
カウンターに身を乗り出していたスリの子供は背後からのガラの悪い声にぎょっとして振り返る。
「なっ、兄ちゃん。ちゃんとまいたはずなのに。」
飛び跳ねるようにして逃げ出す子供を、すかさずメロスの体を使って邪神が捕まえる。
「おぅおぅ、クソガキ、大人の恐ろしさ、たっぷり教えてやるよ。」
(邪神様、可哀そうですよ。お金は戻ってきたんだから、放してあげましょうよ。)
メロスの取りなす声にも構わず、調子に乗った邪神は悪役になり切った口調で財布をスった子供を脅していた。
「おぅおぅ、命が惜しかったら、お前の姉ちゃんのパンツをな、グエッ。」
邪神が子供に大人げなく何かを要求しようとしたところで、横から丸太のように太い腕が邪神の顔を殴りつけた。思わず邪神は舌を噛み台詞が中断する。
見上げるとそこには禿げ上がった頭に髑髏の刺青を入れた強面の巨漢が立っていた。巨漢は邪神を殴った右拳をさすりつつ、邪神の嘘くさい脅し文句とは違う本物のドスの効いた声を響かせる。
「お前ぇら、うるせぇぞ。ここはお前ぇらみたいなしょんべん臭ぇガキが来るところじゃねぇ。さっさと出ていけ。」
巨漢の声に、今までギルドの中で飲んだくれていたガラの悪い大人たちが、一斉にはやし立てる。
「そうだ、ジョルトの兄貴に痛い目合わされたくなかったら、さっさと出てけ。」「ここにゃ、ミルクなんて出ねぇぞ。」「もっとバルクアップしてから、出直してこい。」
ギルド中から浴びせられる罵声に内側に引っ込んでいたメロスが怯えて邪神に話しかけた。
(邪神様、まずいですよ。早く、逃げましょう。)
「まあ待てメロス。こういう時の対処には慣れている。大船に乗ったつもりで俺に任せろ。」
邪神はそう言うと、堂々とした態度で巨漢へと近づいていく。周囲のはやし立てる声に一向に動じない邪神に次第に周りの声は止みギルドは一転して静まり返った。先ほどまでもめていたスリの子供も固唾を飲んで成り行きを見守っている。
ジョルトと呼ばれた巨漢は無遠慮に近づく邪神に緊張した様子で身構える。腕を伸ばせば届く距離まで無遠慮に近づいた邪神は、ジョルトを下から一瞥し一呼吸置くと、その場の誰もが見失うような速さで、その場に這いつくばった。
「ジョルト様、もーしわけありませんでしたー。」
邪神は土下座の姿勢でジョルトの足元にへばりつく。
「おみ足が汚れています。わたくしめがこの舌で清めさせていただきます。」
邪神はそう言うと、返事も待たずにジョルトの泥で汚れたブーツを舐め始めた。
「お、おい。止めろ。気持ち悪い奴だな。」
「へへへ、そう言わずに、わたくしめにはジョルト様に奉仕することは無上の喜び、どうぞ、靴と言わず、もっと舐めさせてくださいよ。」
邪神が舌をべろんべろんいわせながらにじり寄ると、ジョルトはひるんだように後ずさった。
「や、止めろ。俺にそんな趣味はねぇ。」
ジョルトは気味悪さに上ずった声で拒否する。そんなジョルトに邪神はいかにも残念といった顔でため息をついた。
「はぁ、心底残念ですがジョルト様のたっての頼みとあっては仕方ありません。しかし、もし気が変わりましたら、いつでも声をかけてくださいよ。」
そう言うと邪神は、踵を返し冒険者ギルドのカウンターへと向かった。他の荒くれ者たちも気色の悪いターゲットにされないよう邪神から目を背ける。
「どうだ、メロス。こればクレバーな対処法だ。」
(さすがです邪神様。戦わずに勝つなんて、流石です。)