クエスト2 ハーレム候補たちを口説け 2人目 その6
メロス :主人公の少年、邪神が宿っている。職業は『奴隷』。
邪神 :メロスに憑りついている。現代知識となろうに詳しい。ハーレムを作りたい。土下座と三下ムーブは得意。
ルート姫 :邪神を偶然に馬車で轢きかけたことで知り合う。王都の民に人気がある。脈あり(邪神視点)
スクート王子:石化した王の代行。生意気系プリンス。
大司教 :汁字教の派閥、新父派の王都における代表。急進的な濡れT実践派でもある。
新父派の教会には大勢の一般信徒が詰めかけていた。
メロスが提案したのはより広く新父派の祭典が受け入れられるよう、一部の上級聖職者だけでなく市井で働く人々にも選ぶ機会を与えることだった。上級聖職者は自分の派閥に対して責任感と危機感が強くそのことがより過激な意見に流される原因になっていたように感じたからだ。実際に一般信徒の意見はもっと温和なもので壇上で語る王子の提案にも好意的だ。
「我が諸君に提案する古妹服は言葉では魅力が伝わり難いであろう。ここに我が妹に着せることで諸君らから理解が得られることを期待している。」
王子はあれから悩みぬいた結果、姫の協力を得て視覚に訴えることを思いついたらしい。姫の可憐な魅力に地味ではあるが仕立ての良い古妹服はある種のフェティシズムを生み出し多くの人の心を掴んだ。
「おお、すばらしい。」「こういうのでいいんだよ。」「ちょっと最近のは直接的過ぎて俺には合わなかったんだよな。」「露骨過ぎるのは抜けない。」
一般信徒の意見に上級聖職者たちの風向きも変わる。大司教の強烈なプッシュでその気になっていたが、思い返せば真冬に濡れたTシャツというのはさすがに頭が悪過ぎるのではないかという意見が出てきた。
「どうやら私の考えは急進的に過ぎたようですね。」
メロスの隣に立つ大司教が眩しいものを見るように壇上の王子と姫を見る。大司教も意固地にはならずにすんなりと王子の提案を受け入れてくれそうだ。
ただ一つ気になるのは大司教の足元にさっきから水滴がぽたぽたと落ちていることだ。体をすっぽりと覆う法衣の下に大司教がいったい何を着ているのか、メロスはそれ以上考えるのをやめた。
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王城に戻ると姫は難事を乗り越えて疲れた表情を見せる王子を労わっていた。
今回の件はとても危なかった。あのまま、新父派が暴走を始めれば黒騎士団が制圧に動くの間違いなかっただろう。王族の守護を責務とする白騎士とは異なり黒騎士は王都全体の治安に責任を持つ。白と黒、立場は違えど両方とも王都の兵士全てが憧れ尊敬を持って語られる存在だ。それ故に妥協する姿は想像できない。
王都の民を守護する黒騎士に対して王子には指揮権が存在しないのだが黒騎士がやり過ぎればその不満は王族へと向かうだろう。城の文官たちは事態を軽視していたが、対応を誤れば王都の統治に重大な問題が生じる一歩手前だったのだ。
「メロス様、本日は、なんとお礼を申し上げればよいか。」
大司教への確認を終えたメロスが王城へと報告に戻ってきた。王子はぞんざいな礼しか返さなかったが本心では深く感謝していることを姫は知っている。だからこそ王子の代わりに自分がメロスとの関係を繋ぎ留めて置かなければいけない。メロスに近づきその手を握る。
「あの、メロス様。わたくしはもちろん、お兄様も本当に今回は感謝申し上げております。ですから、何かお望みがあれば何なりと、あの、わたくしにできることでしたら遠慮なくおっしゃってください。」
メロスは今回の件で大司教との繋がりを得ている。ここは好意を持たれるように慎重に振舞わなければ。前回はメロスを馬車で轢いてしまい、王都の人々が見ている前だったのでなるべく丁重に扱った。しかし、今回はそれ以上が求められる。相手に好意がある様に振舞い相手から好意を引き出す姫にとっては慣れた手管を相手に悟られないよう使おうとする。
姫は計算と責任感で理想的なまでに可憐な微笑みを顔に浮かべるとメロスの手を握る。その手のぬくもりで相手に好意を伝えるように、あえてゆっくりとした動作で相手の目を見つめる。大丈夫、こうすれば大抵の男性は好意があると勘違いして、こちらに好意を向けてくる。もう慣れている。
「あの、姫様。」
メロスが何度かためらった後、姫に話しかける。
「どうしました、メロス様。何なりとおっしゃってください。」
のこき込むようにして姫は首をかしげる。鏡の前で毎日確認している所作だ。相手に対して無防備と思わせる仕草は信頼を勝ち得るのに重要だ。
「姫様、大丈夫です。」
「?」
何が大丈夫なのだろうか。話が飛んでしまっている。失礼にならないようにここは聞き返すべきだろうか。
「あの、僕は難しいことはわからないですが、でも姫様と王子様がみんなのためにがんばっているのはわかります。そのために、他人に好かれるようにがんばっているのも、大変なことだと思います。」
見透かされた。姫は背中に冷たいものが走るのを感じた。自分が行っていることが浅ましいことだと、指摘する者たちがいる。そうやって人に媚びることは自然なことではないと。そうやって今までにいろんな人がわたくしたちを傷つけて行った。何も知らずに。
「あの、僕はその努力はすごいことで、苦労してやるだけの価値があるのだと思います。人から好かれるって大変だし、それを無視するのは楽だけど、でも楽をすることが許されない人がいるって、姫様や王子様がそういう人だって、僕はわかります。」
何故だろう、何故かわからないけど涙が出てくる。
涙は武器だ。民たちの前で哀悼の儀では必ず涙を見せるようにしている。最大限の感謝を示すのに涙は必須だ。それを見て人は感動して、こちらの真摯な気持ちを信じることができる。信じさせることができる。でも、今はその自由にできるはずの涙を止めることができない。
「僕は、なんて言えばいいのかわからないですけど。姫様と王子様に他人からの好意を信じて欲しいんです。信じられないと苦しいんだと思います。姫様と王子様の努力を見て、好きになる人はたくさんいます。その人たちはきっと、本当に姫様と王子様のことが好きだから、だからうまく言えないけど、姫様と王子様がうまくいかないときは、必ず助けますから、だから無理はしなくちゃいけないんでしょうけど、苦しい時はそう言ってください。姫様と王子様を好きな人たちがぜったいになんとかしますから。僕も手伝いますから。」
何も言えない。いつもならすらすらと出る言葉が何も出てこない。頭の中でたくさんの思いがあふれてきて、ただ目を伏せてうなずくことしかできなかった。
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(ていうかさ、『濡れT大会』ってなに、メロス、詳しく説明してくれる?)
「いえ、邪神様。それはもう終わったので。」
(全然終わってないよ、今から説得すればまだいけるって、ぜったいいけるって。)
「いえ、邪神様。もうなんか感動的な感じに終わったので。」
(感動ってのはさ、『濡れT大会』のことなんだよ。メロスさ、君そういうところあるよね。とにかくさ、まだいけるから、ぜったいいけるから。)
「いえ、邪神様。空気、読んでください。」




