クエスト2 ハーレム候補たちを口説け 2人目 その5
メロス :主人公の少年、邪神が宿っている。職業は『奴隷』。
邪神 :メロスに憑りついている。現代知識となろうに詳しい。ハーレムを作りたい。土下座と三下ムーブは得意。
ルート姫 :邪神を偶然に馬車で轢きかけたことで知り合う。王都の民に人気がある。脈あり(邪神視点)
スクート王子:石化した王の代行。生意気系プリンス。
大司教 :汁字教の派閥、新父派の王都における代表。
悪魔 :大司教を操り王都に混乱をもたらそうとしていた。
「じうぅうう。」
メロスの渾身の右拳を腹に突き立てられ大司教は言葉にできないうめき声を漏らした。大量の脂肪は拳の衝撃を受けてあり得ないほどに歪む。そして、その腹に刻まれていた紋様も腹の引き攣りに引っ張られ原型を留めぬほど崩壊した。
「ばかな、そんな方法で。」
悪魔がその場に現れてから初めて驚愕した表情を作る。その顔を見てメロスは邪神の助言が正しかったことを確信した。紋様が崩壊した大司教から悪魔の術式の影響が抜けていく。
「くっ、これはやはり一度持ち帰る必要がありそうですね。」
先ほどとは異なる余裕のない焦った態度で窓から悪魔が飛び立った。
後を追いたいのは山々だが大司教をこのままにしておく訳にはいかない。それに本来の目的は部屋の外で待っている姫を大司教と引き合わせることだ。そういえば、姫のことをすっかり忘れていたが大丈夫だろうか。
扉の方を見ると、同じタイミングで姫の声がかかる。
「あの、メロス様。すごい音がしましたが大丈夫でらっしゃいますか?あの、わたくしにもお手伝いできることがございませんか。」
姫は盛大な物音に不安になった様子で扉を開ける。そこで目にしたのは上半身にスケスケのTシャツを着た大司教を床に横たえ、そこに馬乗りになってお腹をまさぐるメロスの姿だった。
姫は自分に手伝えることがないことを悟ると静かに扉を閉めた。
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「あの、メロス様。わたくし、他の方には口外いたしませんからご安心なさってください。あの、恋愛の形は人それぞれですから。」
「はい、いえ、口外しないでくださるのはありがたいのですが、そういう意図があってやったわけではなく、あれは姫の勘違いで。」
メロスの説明にうなずく姫だったがちゃんと理解できているだろうか。不安になりながらもメロスは本来の依頼を達成すべく目の前に座る大司教に話を振る。
「大司教様、こちらが姫様です。姫様は今日の講堂で話し合われていた再誕祭についてお願いがあっていらっしゃいました。」
「大司教閣下、このような夜分に失礼したことご容赦ください。わたくしは神聖アルス王国の第一王女、王位継承権第2位のルート・アルスでございます。本日は祭典について再考いただきたくお願いに参りました。」
「これはご丁寧に。私は汁字教、東王都大司教区を治めるロシュです。教会は常に迷える者に門戸を開くものです姫殿下。何も失礼なことはございません。」
憑き物が落ちたように冷静さを見せる大司教にメロスは胸を撫でおろす。あの悪魔の術式から脱したのだ、姫が心配していた問題は解決したも同然だろう。しかし、一抹の不安が残る。
悪魔に強制されていたはずのあの濡れTシャツ姿を大司教は未だにさらし続けている。立派な法衣は椅子に掛けられたまま手を付けようとはしない。
「姫殿下におかれましては、さぞ驚きのことでしょうが、これが私が神に祈るときの最も真摯な衣装です。『濡れティー大会』は確かに悪魔にそそのかされ私は皆に提案しました、それは事実です。しかし、私はそれを恥じてはいない。この機会にあまねく迷い子たちに啓蒙したいのです、信仰のあるべき形を。」
大司教の突然の宗教告白に姫は動揺を隠せなかったが、しかし自分の使命を思い出し奮い立つ。
「それでは大司教閣下はそのお姿で衆目の前に立とうと、そうおっしゃるのですね。」
大司教はうなずく。自らの信じる信仰の形を貫く固い決意がそこにはあった。覚悟を決めた姫は、立ち上がると震える手を自分の衣服に襟にかける。
「大司教閣下、これ以上教会が過激化することは民心の平穏な生活が脅かされます。そして、必ず黒騎士が介入してくるでしょう。わたくしたち王家はそれは絶対に防がねばなりません。そのためなら、わたくしは、わたくしは、閣下の代わりにその衣装を纏う覚悟があります。」
姫は震える唇を噛みしめ後ろに引いてしまいそうな体を意志の力で踏みとどめる。
「姫様、そんなこといけません。あんな頭のおかしい格好をしたら、むしろ王家の威厳とか、それに恥ずかしいでしょ。」
メロスの説得の言葉に姫は心がくじけそうになるが、頭を振りその誘惑を振り払う。
「閣下、お願いします。わたくしがその姿になりますので、どうか、祭典について再考をお願いいたします。どうか、お兄様の、スクート王子の提案を、どうかお願いいたします。」
深々と頭を下げる姫に大司教は真剣な顔を向ける。己の信念と姫の覚悟を心の中で天秤にかけている。それがついにどちらかに傾いたのか、大司教は時間をかけ一つうなずき言った。
「私は、メロス殿に恩義があります。もしメロス殿がお口添えするのであれば、私は姫の提案を受け入れましょう。」
姫が縋る眼でメロスを見る。そんな目で見られなくてもメロスの答えは決まっている。
「あの、姫様がその恰好するのはなしで。お願いします。」
大司教は頷き、姫は安堵して椅子に座りこんだ。




