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クエスト2 ハーレム候補たちを口説け 2人目 その4

メロス   :主人公の少年、邪神が宿っている。職業は『奴隷』。

邪神    :メロスに憑りついている。現代知識となろうに詳しい。ハーレムを作りたい。土下座と三下ムーブは得意。

ルート姫  :邪神を偶然に馬車で轢きかけたことで知り合う。王都の民に人気がある。脈あり(邪神視点)

スクート王子:石化した王の代行。生意気系プリンス。

大司教   :汁字ジルジ教の派閥、新父ニューファーザー派の王都における代表

メロスと姫が教会に着いた時にはすっかりとあたりは暗くなっていた。新父派の教会は昼間見たギラギラとしたきらびやかさが鳴りを潜めた代わりに月の光を受けて怪しげな魅力を放っている。

人気のない教会にメロスとルート姫が侵入する。意外にも姫の動きは機敏でそれなりの訓練を受けていることがわかる。

申し訳程度にいる気の緩んだ歩哨をメロスが順に眠らせていき、姫と目的の部屋、大司教の寝室へと向かった。

抜き足で寝室の扉の前に二人が着くと静まり返った教会の中で水が跳ねる音だけが響いていた。その音は間違いなく大司教の寝室から漏れている。

メロスはその音から危険な気配を感じると、姫の先に立ち扉の隙間から差し込む光に目を凝らした。


「ふん、ふん。」


雪が降るのももう間もなくという季節に大司教はたるんだ体に冷水を浴びせている。身を切るような冷たさに耐えるその行いは神への祈りをささげる精神統一の一種といえばそうなるのだろうが、しかし異様な光景だった。

なぜか大司教はぴっちりとした真っ白のTシャツを着て冷水を浴びていた。そして、何故かはわからないがTシャツから透ける自分の体に何かの興奮を覚えている様子だった。


「はあ、はあ、すばらしい。これを今度の祭典で披露すれば、我ら新父派に信徒が殺到するであろう。」


大司教の口からは妄想の未来が語られている。その言葉は無人の部屋に木霊し、返事はない。その様子を見てメロスは即座に決断した。


「帰りましょう、取り込み中のようです。」


後ろで待つ姫にメロスは言った。自分の体を盾にして姫に中を見せないように気をつける。

これはやばい人だ。今は邪神に相談できないがメロス一人でも断言できる。特に誰もいない宙に向かって話しかけるのは危ない人の兆候に違いない。ああいうのはきっと孤独を抱え過ぎて存在しない心の中の人格に話しかけているに違いない。今度、いいお医者さんを紹介してあげよう。だが今はこの場から姫を引き離すことが優先だ。


「いいえ、メロス様。もう一刻の猶予もございません。わたくしは大司教閣下とお話にならねばならないのです。」


事情を知らない姫は、しかしメロスの説得に応じることなく切羽詰まった声で部屋に入ろうとする。


「いや、いやいやいや、いけません、姫。わかりました。それではこうしましょう。僕が先に大司教にお話しします。急に姫が現れては、あちらも動揺して冷静な話ができないでしょう。いいですね、何が聞こえても決して中を覗いてはいけませんよ。いいですね。」


姫が頷くまで念を押すとメロスは大司教の寝室へと足を踏み入れた。


「貴様、何者だ。まさか、私の、私の体が目的か、くっ、どのような辱めを受けても私の信仰は決して折れることはない。いいか、決してだ。さあ、好きにするがいい。」

「あの、すいません。取りあえず、何か着ていただけませんか。大司教様。」


メロスが大の字で立ちはだかる大司教をなるべく見ないようにしながら床に落ちていた法衣を差し出す。


「ふん、そういう趣味か。お前、まさか善音よいね派が送り込んだ工作員だな。奴らの悪趣味な作品とやらを読んだことがあるぞ。制服フェチというやつであろう。まったく度し難い連中だ、理解に苦しむ。」


大司教は言いたい放題言うと、なぜか法衣を着ることを拒否してそのままの格好でメロスに相対した。仕方なくメロスもそのまま話を進める。


「いえ、僕は今、姫様の依頼でこちらに来ています。とういか、今日、講堂でお会いしたと思うのですが。いえ、それはもういいのです。姫様が今回の件で大事なお話があるとのことです。それで、その、今の大司教様の格好は女性には刺激が強すぎると思うので、その、何か上から着てくれませんか。」


メロスはとにかく大司教が今のぴったりと素肌に張り付いたスケスケTシャツ姿のまま姫に会わせる事態にだけはならぬよう説得を試みる。しかし、大司教は頑なだった。


「ふん、王家の人間か。所詮はこの美しさを理解しない田舎出の王家よ。ちょうどいいここで私が直々にこの美をわからせてやろうではないか。」


扉に向かい外で待つ姫にその姿を見せようとする大司教をメロスは押しとどめる。本当は触りたくないが、背に腹は代えられない。体温で生ぬるくなった濡れたTシャツの感触に鳥肌を立てる。


「あの、本当にまずいんで。あの、それ一発で不敬罪になるんで、」


言いかけたメロスだったが途中で違和感を覚えた。

大司教は正気なのだろうか?最近はちょっとおかしな人たちに会い過ぎたせいで慣れたというか感覚がマヒしていたが、こんなことを正気の人間がするだろうか?

そう考えた刹那、メロスは右手で剣を抜き寝室の中心、何もない空間を袈裟切りにする。感触は間違いなくあった。だが、致命傷を与えられた手応えはない。メロスは油断なくそのなにもないはずの空間を睨む。


「ふむ、よもやこの都市にわたしを見破るものがいようとはな。」


何もなかった空間が歪み、そこから悪魔が姿を現す。黒くぬめる肌に枯れ木の様にボロボロの翼、そして見たことのない仕立ての良い服装。

もし邪神が彼の姿を見たならそれがこの世界には存在しないスーツの呼ばれる衣服であることがわかっただろう。悪魔は尊大な態度を崩さぬままメロスに向かって立つ。

メロスは自分が切ったはずの傷が相手にないことを訝しみながらもそれは顔には出さず口を開いた。


「あなたですね。大司教様をこんな風にしたのは。」


メロスが視線を向けると悪魔の登場とともに大司教の表情は虚ろになり腹には複雑な紋様が浮かんでいた。


「ふむ、それは正しいとも言えるし間違っているとも言える。観測者がどの視点から見たかによって答えの代わる問題だ。」

「わからないことを。」


悪魔の煙に巻くような物言いにこれ以上の問答は無駄だと悟ったメロスは残りの左手でも剣を抜く。

狭い室内では相手の出方を待っていると壁際に追いつめられ不利になる。相手のステータスはわからないがこそこそ隠れていたのだからそこまでの強敵ではあるまい。むしろ隠蔽系のスキルで隠れられる前に先手必勝でメロスは切りかかった。


メロスは体をひねり左から右へと右手の剣『艶肌あではだ』を振り切る。相手の対応次第で左手の『巌肌いわはだ』を変幻自在に使う。メロスが接近戦で最も得意とするパターンだ。

相手が避ければ態勢を整える前に巌肌による突きで追い打ちをかける。防ぐようなら艶肌を滑らせ相手の防御をかいくぐり裏に回って巌肌でなで斬り。どちらも相手に致命傷を負わせられる。しかし、悪魔は予想外の行動に出た。

人と変わらぬ右手を艶肌の軌跡の先に置くとそのまま吸い込まれるように伸びた艶肌の切っ先を指で挟んだのだ。


「そんな、艶肌を掴めるはずないのに。」


メロスは驚愕する。艶肌の一切摩擦を起こさない滑らかな刀身とメロスの剣速は例え剣を指で挟めても止めることはできずにそのまま手を真っ二つに切り裂くはずだった。しかし、現実には指に挟まった艶肌はそこで止められ、滑ることはない。よく見れば艶肌を挟む指にはわずかな空間がある。指そのもので止めているのではない、そこで発生させている力場が艶肌を止めているのだ。


「くっそっ。」


メロスは動揺からいくらか立ち直ると巌肌で相手を牽制し後ろに飛ぶ。悪魔は圧倒的に有利な立場だったにもかかわらず追撃してこない。


「ふむ、その剣は、いやその可能性は重要であるとも言えるし無いとも言える。一度持ち帰る必要があるな。」


悪魔は独り言のようにそう言うと一人納得し身を翻し窓を割った。そのまま飛び立つのを見逃したほうが安全だったかもしれない、しかしメロスは剣で悪魔を止めようとする。


「待て、お前の目的はなんだ。」

「それをここで言うのは、ふむ、構わないのだが、しかし、わたしの一存で決めてよいことではない。であるなら、おいお前、この少年を止めろ。」


悪魔が大司教に命令すると、うつろな目をしていた大司教はその太った体型からは考えられない素早さでメロスに飛び掛かった。


「くそ、大司教様、正気に戻ってください。」

「それは無理であろう。わたしの術式は改良を重ね問題点を全て解決している。この男はもう正気に戻ることは無い。」


悪魔が無慈悲に事実だけを言っている。だがメロスには考えがあった。


「いいえ、違います。あなたにとって完璧であっても、あなたよりすごい人にとっては完璧でなない。邪神様はこの事態を見抜いていました。」


そのまま立ち去ろうとしていた悪魔はそのメロスの言葉に何かを感じたのか振り返る。


「見ていなさい。これが邪神様の言っていた、壁にどんして、」


そう言うとメロスは悪魔の操り人形にされている大司教の体を持ち上げ壁に叩きつける。衝撃に目を回した大司教は仰向けに倒れ、そして脂肪で膨れ上がったお腹が無防備にさらされる。それを確認したメロスは右手を振り上げた。


「チューです。」


全力でメロスは右手で作った拳を大司教の腹に突き立てた。

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