クエスト1 ハーレム候補を見つけ出せ 1人目 その1
メロス:主人公の少年、邪神が宿っている。たまに体を乗っ取られる。
邪神 :メロスに憑りついている。現代知識となろうに詳しい。ハーレムを作りたい。
ここはアーカディア大陸の中心、神聖アルス王国の王都ニューアルセス。眩しいばかりに白い大理石で作られた王城を中心に、赤レンガの軒並みが囲い、さらにその周りを同心円状に広がった藁葺屋根が雑多に敷き詰めている。王都を覆う城壁の周りは川から水を引き込んだ堀が一周し、四方の城門から伸びた跳ね橋が唯一、外界との往来を可能にしている。今、その跳ね橋を渡り15~16歳の少年が王都の地へと足を踏み入れた。
「凄い人だかりですね、邪神様。」
少年が隣に誰もいないにも関わらず、話し出した。すると、少年以外には聞こえない、心に直接語り掛ける声が返事を返す。
(メロス、俺たちの二人の野望は、まだ始まったばかりだ。こんなところで立ち止まっている暇はないぞ。)
メロスと呼ばれた少年はその言葉にうなずく。メロスを追い抜いていく人々は独り言を言って勝手にうなずくメロスを一瞬気味の悪いもののように見るが関わり合いにならぬようすぐに前を向いて離れていく。
そんなメロスの胸ポケットでゴソゴソと小動物が動いた。顔を出したのは銀色に輝くネズミだ。金属のような光沢をしたそのネズミは一言チューと鳴く。
「邪神様、ネズミ師匠も忘れないでください。」
(いや、そいつは寝てるだけだろう。)
邪神が言う通りポケットから周りを見て一瞬で飽きた銀ネズミはすぐにポケットの中に戻り眠りだした。
(そんなことより、メロス、ついに王都だ。ここなら俺たちのハーレムも夢ではない。)
急かすように言う邪神にメロスは慌てたように同意する。
「そうですね、邪神様。でもハーレムってどこに行けば手に入るんでしょうか。」
(いい質問だ、メロス。ハーレムパーティーを作るなら、いや焦ってはいけない、まずはギルドで冒険者に登録するのが、手順だ。)
冒険者ギルドですか。そうメロスが相槌を打ち、とりあえず人波に従って、それらしい建物を探し始めた。どうやら今日は市場が出ているらしい、メロスは目の回るような人混みの中をきょろきょろ見回して歩く。いかにも田舎から出てきた、世慣れしていない少年といった風情だ。
(いいか、メロス。ギルドではまず出会いがある。だがそう簡単にはハーレムをゲットできると思わないことだ。最初は好感度がマイナスのところから始まるのがセオリーだ。大抵は第一印象は最悪と相場が決まっている。そこからイベントをこなして徐々に距離を縮めていき最後の大事件でいっきに落とす、これがハーレムへの道だ。)
なるほど。やっぱり邪神様はすごいな。メロスは時々出てくる知らない単語のせいで半分も内容を理解できないなかったが、相槌を打ちながら歩いていた。そうやって気が散っていたせいだろう。突然、人とぶつかる。
「いってーな、ちゃんと前見て歩けよ、兄ちゃん。」
ぶつかった相手、みすぼらしい恰好をした見るからにスラム出身のその子供が悪態をついてくる。メロスがいかにも大人しそうな外見をしているせいだろうか、少年とは言え帯剣したメロスに、その子供は随分と挑発的な物言いをしていた。
「ごめんね、大丈夫かい、怪我はしてないかい。」
お人好しのメロスは、そんな子供の態度を気にせず、倒れたその子供の怪我を心配している。
そんなメロスの様子に拍子抜けしたのか、子供はがなり立てていた口を閉じると、石畳の上をひょいっと身軽に飛び起きて、あれだけ痛がっていたのが嘘のように軽口を叩いた。
「兄ちゃん、そんな調子じゃ、都会で生きてけないぜ。」
そう、からかうように言うと、子供は軽業師のように人混みの中を縫って走り去っていく。
あっけにとられたように、それを見送るメロスに邪神が言う。
(メロス、財布、スられてるぞ。)
「あっ、しまった。どうしましょう、邪神様。早く捕まえないと。」
財布がなくなっていることに焦るメロスに邪神が落ち着いた声で返す。
(まぁ待てメロス。これはチャンスだ。俺のハーレムセンサーがびんびんに反応している。あのクソガキを泳がせるんだ。)
自信満々に言う邪神にいまいち納得できないメロスだったが最後には邪神の言葉に納得した。ため息を一つつくと今までとは違う流れるような足取りで人混みの中に入っていく。不思議なことに道行く人々はメロスを避けて歩く。メロスを忌避しているのではなく、そこに壁があるから避けるといった具合にそれが自然なことのようにメロスが歩く先から人が消えていく。そうしてできた人混みの中の道を何でもないかのようにメロスは歩いて行った。
麦粒ほどにも見えなくなったスリの子供だったが、メロスは彼が残した足跡や僅かな人波のゆらぎの変化を観察し正確に追跡していく。その先に赤レンガでできた、飾り気のない殺風景な建物が見えてくる。看板には「冒険者ギルド」と、それだけが書かれていた。