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クエスト2 ハーレム候補たちを口説け 2人目 その2

メロス   :主人公の少年、邪神が宿っている。職業は『奴隷』。

邪神    :メロスに憑りついている。現代知識となろうに詳しい。ハーレムを作りたい。土下座と三下ムーブは得意。

ルート姫  :邪神を偶然に馬車で轢きかけたことで知り合う。王都の民に人気がある。脈あり(邪神視点)

内務卿   :王都の内政を取り仕切る不気味な老人。スラム街の子供に執着している。

スクート王子:石化した王の代行。生意気系プリンス。

今回の特別クエストの依頼はメロスを指定したものだった。本来なら実力と実績を兼ね揃えた冒険者が指名されるのだが、まだこのギルドに加盟して日も浅いメロスが指名されたのにはもちろんちゃんとした裏があった。


「きっしっし、それではメロス殿、王子と姫を頼みましたぞ。」

「ふん、こいつになど気を使う必要など無い。所詮はどちらの宗派にも属していない都合のいいのがこいつしかいなかったというだけの話だろう。」


王子がメロスを見下しながら言う。実際、今のところは大した実績も無いメロスを指名した理由はそういった政治的な事情でしかない。

これから王子たちは話題に合った新父ニューファーザー派の集会に参加する。目的はもちろん彼らの暴走を止めるためだが、表向きには宗教的対立の中で中立的立場にいる王家の人間が視察し、平和的な祭りであることをアピールする狙いがある。そのため、王家の武力である騎士団を護衛として引き連れていくのは控える必要があり、かといって民間の護衛である冒険者を連れて行くのはある事情から障りがある。


「お兄様、冒険者の方々は前回の再誕祭で皆、善音よいね派に一時入信してしまいました。今、新父ニューファーザー派の集会に参加することはできないのですから。メロス様に今回は助けていただきましょう。」


姫のとりなしに不承不承ふしょうぶしょうといった体で王子がうなずく。


(なるほど、そういった事情か。しかし、俺たちにとってはお姫ちゃんに接近できる絶好のチャンス。むしろありがたいと言ってもいい。やはり日ごろの行ないが良いとこういうところで報われるものだな。)

「そうですね、邪神様。やっぱり神様は見ていますね。」


これからその神様を奉る総本山に乗り込むわけだが、邪神にとりつかれているメロスと等の邪神は特に危機感も無く喜んでいた。


******


(ぐおー、なんという、神々しさ。くそ、このままでは浄化されてしまう。)


新父ニューファーザー派の王都支教会、そこに一歩足を踏み入れた邪神はメロスの中で苦しみのたうち回った。


「大丈夫ですか、邪神様。僕はなんともありませんが、今回は引き返しますか?」

(いや、お姫ちゃんとの距離を縮めるまたとないチャンスこれを逃すのは邪神として名折れ、俺は這ってでも行く、這ってでも。)

「邪神様、僕だけで何とかしますから。邪神様は奥で休んでいてください。大丈夫です。僕も邪神様の下でちゃんとハーレムについて学んできましたから。」

(ぐう、不安だが仕方ない。いいか、メロス。チューだ。壁にどんしてチューすればもう後はこちらのものだ。俺はここまでだが、この言葉を忘れるなよ。)


邪神は無念そうに言うとそのまま気配を消してた。おそらく初めて邪神らしい要素を見せた瞬間だったがメロスはそこには気付かず邪神の怪しいアドバイスを復唱していた。


「壁にどんしてチュー、壁にどんしてチュー。・・・チューってなんだろう。」


肝心なことを聞き忘れたメロスは一人首をかしげる。


「おい、何をしている、さっさと行くぞ。」

そんなメロスを睨み、王子は護衛役を置いてさっさと教会の中へと踏み入ってしまった。


「メロス様、どうかなされましたか。」


心配げに見つめてくる姫に、取りあえずメロスは聞いてみた。


「あの、姫殿下。チューって知ってますか?」


******


新父ニューファーザー派の教会の中は金箔がいたる所で壁を飾り、雲一つない快晴の空よりも眩しく部屋を照らし出していた。盤石な財政基盤とそれを誇示する余裕がその建物からは感じられるが、中にいる人間たちからはむしろ追い詰められたネズミにも似た凶相を見せている。

教会の中にある天井の高い講堂には宗教的装飾で身を飾った人々が揃っていた。特に高位のものに特有の無駄に豪華だが実用性が分からない服装を身に着けた者がその中心に集まっている。

そんな彼らの間で今まさに激論が交わされていた。


「我々にはもう選択の余地はない、あのにっく善音よいね派が前回何をしたのか覚えているだろう。あれのせいで我々は大敗の屈辱を味わったのだ。やり返さねば、それこそ背信行為だ。」

「皆の中にはこのような行為が神の意に適うとは思わぬ者もいるだろう。しかし、それこそこのまま負け続けて我々新父ニューファーザー派の権威が失墜すれば、あの罰当たりな善音よいね派が汁字ジルジ教を牛耳れば、神はこの世をお見捨てになるかもしれない。」

「これは聖戦だ。神のご意志を世界に伝えるためならば、我々がこれから行うこともお許しになられるだろう。大司教様、御裁可を。」

「では、皆良いな。」


どうやらメロスたちの到着はいくらか遅かったようだ。既に新父ニューファーザー派の総意は決していたらしい。その場の最高権威者らしい大司教と名乗る男が高らかに宣言する。


「次の我々の祭に出すイベントは『どきっ、すけすけ濡れティー大会』に決定する。」


万雷の拍手が講堂を埋め尽くした。皆が立ち上がり、隣と抱き合う者までいる。


「これで新父ニューファーザー派の権威も回復される。」

「ああ、そうだな奴等、善音よいね派のあの頭の悪い『サンタ水着コス祭り』への屈辱、何倍にもして返してやろう。」

「ふん、この寒い時期に水着など堕落した善音よいね派の考えそうなことだ。」

「それに引き換え我々の『濡れティー大会』はすばらしい。雨季への感謝と期待が込められた、品位を感じる。」


メロスにはどちらも大した違いは無いように感じられるが当人らにとってはそこに重大な隔たりがあるのだろう。とにかく王子たちが懸念していた教会の危険な企みというのはただのエッチな祭りの企画だったようだ。


「よかったですね、王子殿下。どうやら危険なことをするわけじゃないみたいですよ。」


しかし当の王子は厳しい顔を崩さない。隣にいる姫も暗い表情をしている。王子は意を決し大司教に呼びかけた。


「待たれよ、大司教殿。我にもこの会議で発言する権利があるはず。我の提案を聞いてから、再考してはくれぬか。」


既に状況が決した中で、講堂の騒ぎにも負けずに、王子は堂々とした態度で前に進む。それは王城で見せる神経質な態度とは違う王子に相応しい風格を見せていた。

だが、講堂に集った信徒たちは感銘を受けた様子は無い。


「成り上がりの王子が、」

「人気取りに参上とは、ご苦労なことだ。」

「所詮はあの王の息子、高が知れている。」


ヒソヒソと陰口が聞こえる。その声は王子や姫にも届いていそうなものだが二人は顔色一つ変えない。メロスは心配そうにそんな二人を見ていた。

王子が壇上に立つ。


「諸君、諸君は誇り高き新父ニューファーザー派である。その歴史を振り返れば数々の栄光のまばゆさが諸君を照らしていることに気づくだろう。」


王子がまず講堂に集まった新父ニューファーザー派に向け露骨な褒め言葉を投げかける。いつもの態度からは想像がつかないが、そういった配慮を示せるのはそれなりの帝王学を叩き込まれている証左であろう。


「そんな、諸君らが何ゆえ『濡れティー大会』などという俗世に媚びる真似をするのか。それは諸君らの高邁な精神を本当に体現しているのか。」


王子は信徒たちが次第に聞き入ってくる様子に安心した。かすれていた唇が滑らかになっていく。だが、王子は見逃していた。王子が『濡れティー大会』を酷評するたびに大司教の頬が苛立つようにひくつくのを。


「諸君らは婦女子たちのTシャツが塗れ肌に張り付くのを見て、宗教的な高揚感を覚えるような性倒錯者ではあるまい。諸君らはもっと堂々と自らの信仰に自信を持ち、それに相応しい祭典を開くべきだ。我が今日、諸君らに提案するのは、地方で受け継がれてきた古きよき清楚さを纏う、この古妹オールドシスター服である。」


王子が自信満々に懐から黒と白のみの地味な女性服を取り出し広げた。見るからに露出が少ない、おそらくは体をすっぽりと覆い顔と手先だけが外界に触れる女性服だった。

王子はその古妹オールドシスター服を信徒たちに見せながら続けようとする。


「これにより、古くからある格調高い、」

「それのどこが我々の信仰を表現しているのかね、王子よ。」


しかし、その王子の言葉は遮られた。大司教が立ち上がる。


「王子殿下におかれましては、随分とご高説を並べられていらっしゃるが、それでその地味な色気の無い衣装で、我々は勝てるのかね。」

「いや、それは、」

「勝てぬのだろう。そうして今年も我々新父派は正統の座を追われみすぼらしい一年を繰り返すのだ。違うかね。」


大司教は最後の言葉を王子にではなく信徒たちに向けて煽る。

敵意をむき出しにする大司教に王子は何も反論できない。


「我々は勝たねばならないのだ。品位などといった糞の役にも立たないものにすがり付いて、落ちていくことに満足する者はここにはいないのだ。まあ、所詮は田舎から担ぎ出された成り上がりの王家、こういった王都の政治に疎くても責めることはできませんがね。」


その大司教の言葉に嗜虐的な笑いが広がる。メロスにはわからないが、恐らく今の言葉のどれかに王子たちを侮蔑する定型句が潜んでいたのだろう。

壇上の王子は何も反論せず黙っている。だが、王子たちとまだ親交の浅いメロスにもわかる。王子は必死に涙をこらえている。狼狽し醜態を晒すことは自分ではなく王家の権威を失墜させる行為だと、その一念だけで立っている。

メロスはそれに気付いたからこそ、どうにかしたかった。


「僕はそうは思いません。」


メロスは立ち上がり笑う信徒たちに言い返していた。


「僕は、昔、子供だったとき。近所のお姉さんが古妹服を着て、汁字教のお祭りで聖歌を歌ってくれました。その姿がきれいでどきどきしたのを覚えています。そういう、色気とかじゃなくてもドキドキすることってあると思います。そういうのを大切にした方がいろんな人に訴えかけるものがあると、僕は思います。政治とか難しいことはわかりません。だけど、もっと王子の話をちゃんと聞いてください。お願いします。」


そう言って頭を下げる。

メロスは講堂を埋め尽くす群衆の興奮した熱気でのぼせそうになる頭で必死に考えながら言葉をつむいだ。一人でも多くの人を説得し、王子の助けになろうと、そんな必死さがわずかながらだが聴衆の心を打った。だが。


「それで、君はどこの高貴な家の出なのかね。」

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