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クエスト2 ハーレム候補たちを口説け 1人目 その4

メロス :主人公の少年、邪神が宿っている。職業は『奴隷』。

邪神  :メロスに憑りついている。現代知識となろうに詳しい。ハーレムを作りたい。土下座と三下ムーブは得意。

グリ  :王都でスリをやっている孤児の子供。冒険者になってお金を稼ぎたい。

ストア :王都でスラムの子供たちの面倒を見ている少女。順調に好感度を稼げているはず(邪神視点)。

邪神教団のアジトの奥深く。厳粛な雰囲気が漂う扉の隙間から光が漏れている。どうやらここがこの邪神教団の幹部がいる部屋のようだ。メロスとグリは緊張につばを飲み込むとそっと中の様子を伺った。


「それではこちらのプランからお選びください。このデビュープランは毎月1GBゴッドバイトの邪神様の声が頭の中で話しかけます。初心者の邪教徒はまずこちらを試す方が多いですね。おっと、こちらのプランは2年縛りになっていますので、途中解約は違約金が請求されます。ご注意ください。」


どうやら先ほどの司会の男が邪教徒に邪神との契約を勧めているようだ。廊下から声のする部屋を覗き込むと、そこには男と向き合う邪教徒、そして二人からは離れて立つ邪神もいた。よく見れば相手の邪教徒はさっきメロスの隣にいた人だ。


「あ、あの、今なら邪教乗り換えで割引が受けられるって聞いたんですけど。」

「その件ですか、申し訳ありません。こちらの手違いで、お客様は対象外でした。こちら全て説明しましたね、では確認のサインをいただくことになっていますので。」

「あ、あの、私、やっぱりもう一度、家で考えてからにしようかと。」

「ふん、そうですか、今契約希望者が多く、大変受付が混みあっていますので、次の機会となりますと・・・、半年後になりますね。本当によろしいのですか?」


司会の男は急に冷淡になるとペンを片手に邪教徒に詰め寄る。その圧力に負け、邪教徒がついそのペンを受け取ってしまう。これは止めなければ。


「も、もうやめてください。ボナーさん。」


しかし、メロスが飛び出す前に他の制止する声が上がる。高い、少女のような声は今まで黙っていた邪神のものだ。司会の男、ボナーが邪神の方を振り向く。


「またですか、邪神様。もういい加減に慣れてもらえませんかね。」


うんざりした声でボナーが言う。言葉は丁寧だがその口調には明らかに邪神を侮る態度が出ている。


「そんな、詐欺みたいなこと。もうやめてください。ボナーさん。」

「ふん、いいですか。そもそも邪神を信仰するなんて輩は、自分が特別で、賢くて、他人より抜けん出ていると思っているような奴らなんですよ。そう言うやつらほど騙しやすいカモだ。カモを狩って食べるのは人間にとって当たり前なんですよ。」


何度も同じ問答を繰り返したのか、ボナーがイライラして本音をぶちまける。サインしそうになっていた邪教徒はその言葉にペンを捨て逃げ出した。


「や、やっぱり邪神なんて嘘っぱちだったんだ。」

「むっ、しまった。おい待て。」


邪教徒が扉を開けて逃げようとするのをボナーが捕まえる。邪神教団の幹部らしく、黒い毒ナイフを取り出すと邪教徒の口を封じようと首筋へと一突きする。

だが、そのナイフは寸でのところで片刃の剣で受け止められた。


「やらせませんよ。」


メロスは扉が開くと同時に死角を縫うようにして部屋に侵入し、ボナーの注意が逸れている隙に背後をとっていた。

もう一本の剣がボナーの首筋をなぞる。


「参りました。降参です。」


メロスの威嚇にボナーは意外にもあっさりと観念して邪教徒を離した。その様子にメロスは安心し、そして気が緩む。

そんな気の良い少年を見てボナーがにやりと笑い、隙を突いて毒ナイフを投げた。標的はメロスでも邪教徒でもない、グリだった。扉の陰に隠れているように言っておいたのだが中で暴れる音についグリは出てきてしまったのだ。


「しまった。グリくん。」


メロスにとってそれは完全に計算外だった。しかし、その毒ナイフも隣から突き出された杖によってはじき落される。

グリを守ったのは邪神だった。グリの盾になって立っている邪神は緊張からか震えている。

そんな殺気立った雰囲気に助けられた邪教徒は逃げだした。


「ひえー、お助けー。」


ボナーはもはや一介の邪教徒など興味は無いのか彼を無視して邪教徒に話しかける。


「ふん、今更正義の味方気取りですか。邪神様。あなたはもしかしたらそう思い込んでいるのかも知りませんがね、邪神なんて存在しないのです。邪神なんて名乗っている輩が人を幸福にできるわけないんですよ。今まで、あなたが信じていたものもねえ、全部詐欺何ですから。」


ボナーが破れかぶれになったのか邪神に向かって悪態をつき始める。今まで胸に秘めてきたことが溢れたのか、それとも自分を裏切った邪神を言葉で傷つけようとでもいうのか、ボナーの口は饒舌に悪意を吐き散らす。

そんなボナーの意図が叶ったのか、邪神が傷ついたように後ずさる。その様を見てボナーは嗜虐的な笑いを浮かべる。


「ははっ、これは傑作だ。本当にあなたは気付いていなかったんですか。あなたがやっていたことは、」

「黙れ。」


しゃべるごとに滑らかになるボナーの言葉を止めたのはメロスだった。メロスは怒気を孕んだ声でボナーの言葉を遮った。

底知れぬ迫力がメロスから漂ってくる。本物の殺気、森に住まう凶悪なモンスターたちとの死闘で積み重ねられた、都でぬくぬくと育ってきた人間には受け止めきれない圧力にボナーは腰が抜け立てなくなる。そんなボナーを上から見下ろしゆっくりと近づきながらメロスは続ける。


「お前が、お前ごときが、邪神様を愚弄するな。邪神様だけが僕を救ってくれたんだ。邪神様だけが僕に希望を与えてくれたんだ。邪神様だけが僕を信じてくれたんだ。邪神様だけが僕に幸福への道を教えてくれたんだ。それを。」


メロスはボナーに剣を振り下ろす。

剣はぎりぎりボナーの顔を避け床を切り裂く。柄まで食い込んだ剣がようやく止まる。ボナーの目と鼻の先まで顔を近づけたメロスは静かに言った。


「僕が信じる邪神様を、お前は信じられないのか?」

「ひー、信じます、信じます。」


ボナーは鼻水と涙で汚れた顔を何度も頷かせる。股の間からは水たまりが広がっている。

その様子を、邪神はぼうっと、何かに心が奪われたように見ていた。


「兄ちゃん、兄ちゃん。早く、名簿を探そうよ。」


後ろから遠慮がちにグリが言う。メロスは気が済んだのか、剣を収めるとグリと名簿探しを始めた。

そもそも、幹部をここまで脅して邪神もやる気を無くしているのだから邪神教団はこれで終わりのような気もするが、もしかすると他にも隠れ支部があるかもしれない。教祖が捕まっても末端の信者たちが暴走して先鋭化するのはよくある話だ。それを防ごうと思ったら一網打尽にできる名簿は是非とも手に入れたい。メロスとグリは本棚や机の引き出しを引っ張り出してそれらしい本を探す。


「ひっ、ひっ、終わりだ。もう終わりだ。本当に邪神が降臨したんだ。」


ボナーは気でも狂ったのか意味の通らない言葉を繰り返している。そんなボナーを全員が甘く見ていた。最早何もできないと無視されていたボナーが床板に隠されていた魔法陣を起動する。同時に建物全体が震え出した。


「ひっ、ひっ、これで邪神共々ここは終わりだ。私は英雄になるんだ。」

「まずいよ兄ちゃん。ここ崩れるよ。」

「いけない、脱出しよう。」


メロスはたまたま手に取っていた本を片手に出口へと急ぐ。グリは持ち前のすばしっこさでもう先に行っている。部屋を見回すと邪神を名乗る少女はいつの間にか消えていた。メロスにはよだれを垂らし気がふれたボナーを連れ出している暇も義理もない。メロスは刻一刻と迫るタイムリミットの急かされ部屋を出た。




メロスが明るい外に転がり出ると背後で轟音が響いた。間一髪、建物の倒壊に巻き込まれる前に二人は脱出できた。


「ふう、怪我はない?」

「うん。だけど、これじゃあ、掘り返すのは無理だね兄ちゃん。」


建物はボナーの自爆装置を中心に倒壊したらしく、あの部屋のあたりが一番被害がひどい。仮に掘り返せても、質の低い紙は無事では済まないだろう。


「仕方ない。とりあえずギルドに報告に行こう。」


ギルドにはなんて説明しようか。教団を討伐してアジトごと崩壊させたと言おうか。いやそんなこと信じてもらえるだろうか。むしろ、あそこで幹部らしきボナーを捕まえて引き渡した方がよかったのではないか。

そういえば。ふとメロスは周りを見て邪神を名乗る少女を探す。アジトから脱出するときにはもう見失っていた彼女はちゃんと脱出できたのだろうか。もう一度見回すが視界にそれらしい影は見当たらない。

代わりに建物の陰にストアがいる。確か、あの会場からアジトの奥に潜入するときもずっと後をつけてきていた。あの隠密技術はなかなかのものだ。もしかしたら斥候系の職業なのかもしれない。

幸いグリはストアに気付いた様子もなくギルドへと歩いて行った。


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