クエスト0 二人が出会ってから その3
畑仕事を終えると、昼食のためにあの司祭たちがいる拠点へと戻った。相変わらず司祭たちは朝から飲んだくれ、メロスに労働を押しつけていることに何の罪悪感も見せない。メロスが食事を頼むとめんどくさそうに机の上の残飯を押しつけてくる。
「あの、僕。もっと欲しいです。」
意を決してメロスが司祭たちに言う。無視する司祭たちにメロスはなおあきらめずに続ける。
「さっき、僕。レベルが上がったんです。筋力が2になりました。もっとレベルが上がればもっと働けます。だから、あの・・・。」
メロスが必死に言葉を続けるが、それを聞いた司祭たちは笑い出した。
「はっ、何を奴隷風情が言いだすかと思えば。」「しょせんは無知な田舎の出、仕方あるまい。」「では、我が良いことを教えてやろう。感謝して聞くがよい。」
一際偉そうな司祭が前に出る。おびえるメロスを見下ろすと嗜虐心でゆがんだ口が開く。
「奴隷という職業はな、なぜ蔑まれるかというと、まずその基礎ステータスが低いからだ。本来、職業によって得られる初期ボーナスがついていない。つまり全てのステータスが1なのだ。さらに成長率が低い。職業によって成長しやすいステータスがあるが奴隷はどれも成長率が低いのだ。さらにさらに、奴隷には常に状態異常がつく。それも7つ。限界いっぱいまでだ。そして極め付けが特殊スキルが何一つない。いやひとつあったな。」
いじわるな司祭の言葉にメロスは目に涙を滲ませ震えていた。そんなメロスの手を司祭は無理やり握る。
「さあ、行ってみろ。『経験値譲渡』と。」
「ひっ、け、けいけんち、じょうと。」
メロスがその言葉をつぶやくと司祭に握られていた手が光り、そしてメロスから力が抜けていく。
「くくっ、これが『経験値譲渡』、奴隷はな全てを主人に差し出さねばならないのだ、稼いだ経験値も例外ではない。」
司祭はひとしきり笑うと、酒を注ぎ飲みだした。メロスはうつむき残飯だけ抱えると、とぼとぼと自分の部屋、いやあてがわれた倉庫に向かう。メロスの顔からはさっきまであった希望の光がすっかり消え暗く淀んでいた。
そんな落ち込むメロスに邪神はなぜか興奮してしゃべりかけてくる。
(なあ、なあ、今、メロス、お前すごいことしなかったか?)
「ぐすん、何がですか?」
(メロス、よし、いいか。さっきのをもう一度やるんだ。そうだ、あのネズミがいい。)
邪神が言っているのは、倉庫の隅にいる痩せたネズミのことだ。残飯すらあさる元気のないネズミが他人のように思えなくてメロスは少ない食事をそのネズミによく分けていた。
「はい、『経験値譲渡』」
メロスがそう言うと手が光り、その光がネズミに分け与えられる。その光を受けてネズミが少し元気になった。
(やっぱりだ、よく聞けメロス。)
興奮した邪神はメロスの返事も聞かずに続ける。
(今、お前のレベルが下がった。もちろんステータスも下がった。いやいや、落ち込むないいかここからが重要だ。今、お前は経験値1ポイントでレベルが上がる状態だ。そうださっきの鍬で地面を削れば1ポイント入るからやってみろ。)
邪神に言われるままメロスは鍬を振る。だが、何も起きない。さっきのレベルアップで力がましたような気がしたが今回は何も感じない。
(やっぱりだ、やっぱりだ。いいか、前回のレベルアップでは筋力が上がったが今回は上がらなかった。つまりレベルアップで上がるステータスはランダムということだ。)
良く分からずにメロスは首をかしげる。
(つまり。何度もレベルアップをやり直せばその度に上がるステータスが変わるということだ。これで厳選すれば、理論上レベルを1上げるごとに全てのステータスを1上げることができる。)
すごい。メロスは思わず飛び上がる。それはつまり他の人よりもどんどん成長するということだ。だが邪神の次の言葉で冷や水を浴びせられた。
(とりあえず。千回レベルアップをやり直そう。それで各ステータスの成長率がわかる。)
「とりあえず。」
さらにメロスの頭に氷水が浴びせられる。
(ああ、仮に各ステータスの成長率が10%なら。全ステータスを上げるには10の9乗だから10億回繰り返せばいけるだろ。)
邪神がメロスの体を操り、地面にさっき教えた数字という文字で10億を書く。
その数字を見てメロスはこの厳選という作業がどれだけ恐ろしいのかを理解した。
「邪神様、ホントにやるんですか、これ。」
(いいか、メロス。レベルというのはな、上がれば上がるほど上がりにくくなるんだ。しかし1回のレベルで上がるステータスはレベルごとには変わらない。あいつら司祭のステータスを見たが間違いない。つまり、低レベルのうちから厳選することが重要なんだ。わかるな。)
邪神は熱を込めてメロスを説得する。大丈夫だ、すぐ気持ち良くなる、厳選はイイゾ。邪神の言葉にメロスはしぶしぶ頷いた。
メロスはあの時なぜ頷いたのかすぐに後悔することになる。そしてその後悔は今も王都の宿の中で続いていた。
宿の主人は困っていた。客が一向に部屋から出てこないのだ。毎日の食事代と宿代を1月分受け取っているから問題ないとはいえ、宿の主人は気味が悪かった。意を決して主人は食事を部屋の前まで届けたときに扉に聞き耳を立てた。
「邪神様、8ピンですよ、8ピン。もう良くないですか?」
「わかった、俺が代わる。いいか、8ピン何ぞに価値は無い。9ピン以外はクソだ。1回の妥協が今までの努力を無駄にするんだ。」
一人二役で行われる会話と何か硬いものをほとんど聞き取れない速さで叩く音、いっそう気味が悪くなった宿の主人は文句を言うこともできずにさっさとその場を離れた。




