クエスト0 二人が出会ってから その1
メロスは王都の中でも貧乏人向けだがそこそこ掃除が行き届いている宿に泊まることにした。なかなか激動の1日だった。ポケットから銀ネズミをだすとメロスは邪神に話しかける。
「邪神様、うまくいきましたね。」
(ああ、ハーレムに向けて、なかなかの滑りだしだ。)
旅装のマントを壁にかけ、剣と革製の防具を外すとメロスはくつろいだ格好になる。あとは寝るだけだ、明日からは本格的に冒険者として動き出す。しっかりと休息を取っておかないと。メロスは少し早いがもう寝ることにした。
(なにをしているんだ?メロス。)
「いえ、もう寝ようかと。」
(おいおい、メロス。気付いていなかったのか?あのジョルトとかいう冒険者を倒した時にレベルアップしてたんだぞ。)
邪神のレベルアップの一言にメロスはビクリと肩を震わせる。その顔は若干青ざめている。
「えっ、レベルアップしちゃったんですか。あの、ステータスはどうなったんですか?」
恐る恐る尋ねるメロスに邪神は短く答えた。
(一ピンだ。)
それだけでメロスは理解した。崩れるように両手を床につけると諦めたようにノロノロと銀ネズミを起こす。
「師匠、ネズミ師匠。起きてください。修行を始めますよ。」
銀ネズミは眠たそうに顔を上げる。
どうやらしばらくは、いや当分は休めそうにない。メロスはこの『修行』がはじまったきっかけを思い出しため息をついた。
メロは森の浅い外縁部で集めた枯れ枝を背負子に集めた。ここからあの拠点まで10キロはある。そのあとの畑仕事のことも考えると、薪の量はこれくらいにしておきたいが、ノルマのことを思うともう少し集めるべきか。悩んでいるとメロの心の中でまたあの声が話しかけてくる。
(メロスくんは好きな娘とか、いないのかな。)
メロをメロスと呼ぶその声は、あの儀式の日からずっと話しかけてきていた。儀式の後、司祭たちはメロスを取り囲み問いただしてきた。
「邪神様は、邪神様は降臨されたのか。」
その真剣な質問にメロはうなずくことができなかった。メロにささやきかける声は周りの大人たちには聞こえない様子で恐らくこれは心に語り掛けているようだと、メロは理解していた。そして、メロの理解では司祭たちが言う邪神様というのは、昔話に出てくるあの邪神のことだろう。人界の7つの国を滅ぼし、唯一残ったアルス王国の7人の将軍によって討ち取られた、破壊と欲望と邪悪の化身。だがメロには自分の心の中で先ほどから語り掛けてくる存在がその邪神とは思えなかった。
(きみは、女の子のパーツだとどこが一番好きかな。俺はね太ももの、あのニーソックスできゅって絞めつけたところのへこみから膨らんでいく曲線がどちらかというと、まあまあ好きかな。)
メロが知らない単語がちょくちょく出てきて、全てを理解することはできない。だが、その存在が語り掛ける内容は主に女の子のことで、メロが想像する血に飢えた残虐な邪神像からはかけ離れていることだけは確かだった。そして、メロにはこの存在が語り掛ける内容を大人たちに伝えるのが、恥ずかしかった。メロはそういう年頃だった。
何も降臨しなかった。そうウソをつくと司祭たちは失望したように嘆きメロから興味を失うとその場から去っていった。一人ぽつんと地下壕に取り残されたメロに心の中の存在が話しかける。
(やあ、ごめんごめん、つい興奮してオタクみたいなしゃべりかたしちゃったよ。ところで、きみはなんていう名前なのかな。)
「僕はメロって村では呼ばれていました。」
そう答えると、その存在は嬉しそうに返事を返す。
(へぇ、メロスくんか、奇遇だな。あっ、ぼくは邪神、よろしくね。ところでメロスくんはハーレムとかって興味ないかな。)
メロはその返答に衝撃を覚えた。あまりに驚きすぎて名前の間違いを指摘することも忘れたほどだ。
えっ?邪神?吟遊詩人の定番の七獄大戦の悪役のあの邪神?気さくというか軽い感じのするこの声が本当に邪神なのか。混乱したメロはとりあえず気になっていたことを質問した。
「あのっ、ハーレムって何ですか?」




