クエスト2 ムカつく冒険者の狼藉者をわからせろ その2
メロス :主人公の少年、邪神が宿っている。職業は『奴隷』。王都に来て冒険者になった。
メロ 奴隷 Lv.30 双剣
HP40 筋力30 守り30 技量30 速度30 MP30 知力30 悟り30 運否30
邪神 :ハーレムを作りたい。スラム街のストアに一目惚れ。王城のルート姫に一目惚れ。商館でラミスに一目惚れ。
ジョルト:荒くれぞろいの冒険者たちの顔役。冒険者ギルドで鼻にかかる態度をしたメロスを夜中にわからせにきた。
ジョルト 斧戦士 Lv.40 戦斧
HP60 筋力45 守り30(20) 技量30 速度15 MP3 知力30 悟り20 運否5
メロスが腰に下げた鞘から二本の剣を抜く。右手の剣は油を塗ったかのように艶やかなのに対し、左手の剣はまるでやすりの様に無数の模様が刻まれている。ジョルトは未だかつてそんな剣を見たことが無かった。
「坊主、珍しい剣を持ってるな。名はなんという。」
「さあ?これは僕たちが逃げる時についでに盗ってきた剣ですから。でも、あの人たちは色々と珍しいものを持っていましたから、もしかしたら名のある名刀かもしれません。」
「ふん、ふざけたやつだ。」
ジョルトはそう言うと斧を大上段に構え、いつでも振り降ろせる態勢を作る。それに応えるようにメロスも両手の剣をそれぞれ構える。
「でも一応、僕たちの間で通じる名前は付けてありますよ。」
体を半身にして、右手の艶やかな剣を体の陰に隠し、
「艶肌と、」
左手のやすりの様な剣を体の前面に相手の額を狙うように構える。
「巌肌、です。」
その言葉を合図に両者は動き出した。
最初に仕掛けたのはメロスだった。左手の巌肌を囮のようにわかりやすくジョルトの額目掛けて突く。明らかに体重の乗っていないその攻撃の威力などたかが知れているとジョルトは回避の動作一つしない。むしろ射程に入ったメロスの脳天を狙い斧を振り降ろす。地面が爆発したように土埃が舞い上がり周囲一帯を覆う。誰もがメロスが地面に叩き伏せられる姿を幻視した。それほど完璧なタイミング。いつもなら多少の手加減は忘れないジョルトの全力の攻撃に冒険者たちは驚く。
「おいおい、ジョルト。さすがにやりすぎじゃないか。」「適当に小突いて、泣いて田舎に帰るのを拝もうっ話しだったろ。」「兄貴、ペロンちゃんに振られたからって、やつあたりは良くないっすよ。」
ジョルトがメロス相手に遊ぶ姿が今日の宴会の余興になると楽しみにしていた冒険者たちは、あまりにあっさりと終わってしまったので次々とからかう言葉を投げる。だがジョルトは厳しい顔のまま彼らを無視している。見ているのはただ一点。いまだ立ちこめる土煙の中心だ。
おかしい、まるで手ごたえが無かった。ジョルトはあの一瞬、斧がメロスの頭に吸い込まれる瞬間にメロスが体を捻り右手の艶肌で防いだのを見た。当然、そんな力の入らない態勢で防げるほどジョルトの一撃は軽くない。その防御ごと吹き飛ばすつもりで斧を振り降ろした。だが返ってきた感触はまるで磨かれた巨大な鉄塊にぶつかったような、一片の傷も与えられないまま滑りいなされる感触だけだった。ジョルトはメロスを冒険者ギルドで殴った時のことを思い出した。岩を殴ったのかと一瞬錯覚した。拳闘士ではないとはいえジョルトは素手でもそれなりに戦える自信があった。だが結果は拳を痛めただけだった。たかが『奴隷』の小僧、だがそいつの底を早く知る必要があるとジョルトの本能が告げていた。
土煙が晴れると当然のようにメロスが無傷で立っている。
「おいおい、何はずしてんだジョルト。」「兄貴ー、酔っぱらうにはまだ早いですよー。」
取り巻きの冒険者たちがジョルトをはやし立てる。メロスが避けたのではなくジョルトがはずした。『奴隷』の少年と帝都でも指折りの武等派冒険者、その実力差を考えれば当然の結論だ。だがそうは思っていない人間がこの場には二人いた。一人は当然、涼しい顔をしているメロス。そして、もう一人は頬に冷汗が一筋流れているジョルトだ。頬をぬぐうことも忘れジョルトは集中力を研ぎ澄ませる。
「俺は、『不動のジョルト』。職業は斧戦士だ。」
ジョルトが姿勢を保ったまま、名乗りを上げる。メロスは困った顔をしてからその名乗りに答える。
「僕は、メロス、まだ二つ名はありません。職業はただの『奴隷』です。」
「ふん、嘘をつけ。」
メロスの名乗りにジョルトは軽く笑うと表情を引き締める。
「参る。」
『不動のジョルト』その二つ名は決して自分からは動かず相手の先に対して後の一撃で圧倒する、その戦闘スタイルから名付けられたと言われている。そのジョルトが先に動く。相手を一撃では仕留めきれないと、そう踏んだからだ。巨大な斧による嵐のような連撃。それをメロスは時にかわし時に剣で受けながら渡り合う。
ジョルトにとって一番厄介なのはこの二つの剣だ。最初の一撃をいなした艶肌はおよそ摩擦というものが存在しない。触れる先から滑り力を一切通そうとしないのだ。一方で巌肌は剣の先が触れただけでそのすさまじい摩擦力が全ての速度を殺してしまう。斧が次の動きを封じられるのだ。
ジョルトは右に左に斧を振るいメロスに隙きが生まれるのを待つ。しかし、その連撃にメロスは余裕を持って応えてくる。ジョルトは確信した。
ジョルトとメロスの技量が伯仲している、だからこそ武器の差が勝敗を分ける。メロスの扱う不可思議な剣、力をいなされる艶肌はジョルトとは相性が悪い。だが、力を全て受け取ってしまう巌肌はむしろジョルトには都合がいい。左右の武器の差、そこにジョルトは勝機を見た。ジョルトは斧を振りながら笑う。攻めるなら左側。そこにメロスの隙がある。