クエスト2 ムカつく冒険者の乱暴者をわからせろ その1
メロス :主人公の少年、邪神が宿っている。職業は『奴隷』。王都に来て冒険者になった。
邪神 :ハーレムを作りたい。スラム街のストアに一目惚れ。王城のルート姫に一目惚れ。商館でラミスに一目惚れ。
ジョルト:荒くれぞろいの冒険者たちの顔役。巨漢の実力者でギルドでメロスに絡んだ。
メロスと邪神がラミスと別れてから今夜の宿を探していた。安全を考慮すれば上流階級が暮らす上層街で宿を求めるべきだがこれからの収入がまだ不確定の二人は荒くれ者が集まりやすい冒険者ギルドの近くでしばらくは逗留することにする。すっかりと暗くなった通りを宿の看板を求めて歩く。
「よお、ようやく来たか。冒険者が泊まれる手頃な宿なんてこの辺ぐらいだからな。悪いが待ち伏せさせてもらった。」
冒険者ギルドとスラム街でメロスに絡んできた巨漢、ジョルトが路地裏から現れる。ジョルトが話し出すのが合図だったのか、メロスを取り囲むようにギルドでたむろしていた連中がぞろぞろと出てくる。真新しい足跡や隠し切れない物音で最初から気付いていたメロスは特に驚きもなく彼らが揃うのを待つ。
「へへっ、こいつビビって声も出せねえみたいですよ。」「坊主、悪いことは言わねえ。怪我しねえうちに家に帰るんだな。」「くくっ、何なら俺たちが送ってやってもいいぜ。」
口々に脅し文句を並べる彼らにメロスは一々反応はしない。メロスは周りを見て人数を心の中で数えていた。数字は邪神から教わっている。5、6、7人。通りは広く、1人を囲むには十分な幅がある。だがそうすると前衛が道を塞いで後衛が一方的に攻撃を浴びせる、モンスターもよく使う戦法はとれない。相手はどう出るつもりだろうか。メロスは周囲に気取られない程度に腰を落として予想される上位の可能性3つに対応できるようにする。
「ふん、坊主。まさか俺たちが全員でお前を袋叩きにするつもりだなんて考えてるんじゃないだろうな。」
ジョルトの言葉にメロスは黙って頷く。
「はっはっは、こいつは傑作だ。まさかお前ごときに俺たちが束になんねえと相手にならねえなんて、自惚れも大概だ。」
そう言うとジョルトは笑い出し、周りの取り巻きも同調する。だが、その口ぶりに反してジョルトの目に油断は見えない。むしろ邪魔が入らない方が全力が出せると、そんな計算された意図が見え隠れしている。
「いいですよ、それではジョルトさんと僕の1対1でやりましょうか。」
「ああ、俺に負けたら、大人しく田舎に帰るんだな。」
ジョルトは顔から笑みを消すと背中に担いだ戦斧を両手に握る。リーチの短いことが一般的な欠点の戦斧だがジョルトが握るそれは体型に合わせるように見たことも無いほど大きい。リーチは長剣を超えるほどもある。ジョルトの盛り上がる腕の筋肉がその重量と威力を物語っている。
「邪神様。」
(ああ、ステータススキャン。)
邪神の言葉をトリガーにしてメロスの視界に記号と数字が映る。
ジョルト 斧戦士 Lv.40 蛮族の戦斧 ただの革の鎧
HP60 筋力45 守り30(20) 技量30 速度15 MP3 知力30 悟り20 運否5
(どうやら防具には気を使わないタイプらしいな。素の守りが30あるのに上限が20の防具を使ってる。技量はなかなか高い、俺たちと同等ってところか。おそらくカウンタータイプだな守りを下げて敵の攻撃を誘ったところに強力な一撃で仕留めにくるやつだ。知力が高いのもその辺の駆け引きができるって証拠だな。)
さすがはパワータイプの斧戦士、筋力勝負では明らかに相手に分がある、かと言って技量と知力は同等、守りは防具が劣っているおかげで何とか攻撃は通るがカウンターが恐ろしい。明らかに優っているのは速度と悟り、それに運否か。メロスは頭の中で戦闘のシミュレーションを行う。正直勝つだけならば容易い。
(俺たちには対人戦の経験が全くない。なにせ田舎でモンスターばっかり狩っていたからな。今回は俺たちがどれだけ人間相手にやれるのかそのための訓練だと思え。)
モンスターの中には明らかに人間よりも賢いもの、人型や人よりも手数が多いものたちもいたが、それらのモンスターと人間の大きな違いは恐らく戦闘経験だろう。種族としての戦闘経験を口伝や書物の形で大規模に蓄積してきたのは人族をおいて他にいない。メロスはそういった戦闘訓練を受けるチャンスが無かった、それがどれほど不利に働くのか。
「意外と早く試す機会が来ましたね。」
(ああ、やはり俺たちは運がいい。)