クエスト1 ハーレム候補を見つけ出せ 3人目 その3
メロス :主人公の少年、邪神が宿っている。職業は『奴隷』。王都に来て冒険者になった。
邪神 :ハーレムを作りたい。スラム街のストアに一目惚れ。王城のルート姫に一目惚れ。商館でラミスに一目惚れ。
バーザン:王城に出入りする派手な商人。王都で強引な商売をして恨みを買っている。奴隷は扱っていない。
ラミス :バーザンの娘。普段は騎士学校に通っている。生真面目な性格でバーザンの商売のやり方に不満を持つ。
「メロス殿せっかくだ、我がバーサル商会を案内しよう。本当の商会の姿を見てもらえれば妙な噂も否定できるだろう。」
ラミスはメロスと話すことで父バーザンへの不満を一時忘れることができたのか、表情を明るくして提案してきた。
ラミスが先導してメロスを連れて館の中を紹介して回る。
「あそこの作業場では冒険者が狩ったモンスターから素材を切り分けて商品にしている。うちの職人は王都一の腕前でなどんなモンスターもきれいに解体してみせる。」「あの調合所では冒険者から買い取った薬草を成分ごとに分けて各種治療薬を作っている。うちの調合師は王国一でな、素材さえあればどんな怪我でも呪いでもたちどころに治してしまうのだ。」「あそこは鑑定所だな。大陸中から集められた財宝を鑑定し値付けしている。うちの鑑定師は大陸一でな、贋作など一目で見抜いてしまうのだ。」「ここは我が商会の胃袋を支える厨房だ。普通の食事だけでなく商会で扱う食料品も開発している。ふふ驚くなよ亡くなられた先代の王女陛下がお忍びで通っていたこともあるのだ。うちの料理人は世界一なのだ。」
ラミスの口から出るのは自慢というよりは、商会の仲間を褒めたくて仕方なくつい出てしまう本音のようだった。厚かましさはなく聞いているこちらが恥ずかしくなってしまうほどラミスは無邪気に館を案内していく。そんなラミスに商会の職員たちもにこやかに挨拶する。ただ、商会の主人の一族がされるように丁重に扱われるときだけは何故かラミスの表情が曇った。何となくその理由を聞けずにメロスは黙って後について行った。
(おい、風呂場だ。風呂場に案内してもらうんだ。そこで、事故を起こして水浸しになるんだ。ちょうどいいから風呂で温まる流れからの事故で風呂場で遭遇するイベントが待っている。知っているかメロス。風呂場で裸を見てしまったらもう結婚するしかないんだ。ふふ、これでラミスちゃんはハーレム入り確定だ。あの青い狸が活躍する漫画でも証明されている由緒正しい習慣なんだ間違いない。)
「あの、邪神様。それだと、あの商人のおばちゃんの家のお風呂で背中を流されたのはどうするんですか。あのおばちゃんと結婚するんですか?」
(ババアはノーカンだ。)
思い出したくないことを指摘されたせいか、それ以降は邪神は静かになった。
「随分と遅くなってしまったな。商会の馬車で送っていこう。」
下層街の宿を取ろうと考えていたメロスたちはそのラミスの好意に甘えることにした。まだ王都に慣れていないメロスたちは暗くなった町の中で目的地まで迷わず行ける自信が無かった。
「すまないな、うちの馬車は父上の趣味でどれもこんなものしかないんだ。」
メロスとラミスが乗っているのは館に来た時のものよりは大分小ぶりだが金ぴかであることは変わらなかった。やはり仏の人は悪趣味だと思うものなのかとメロスは納得する。
しばらく馬車に揺られると見覚えのある街並みが見えてきた。冒険者ギルドがある荒れた雰囲気が染みついた下層街だ。目的地に到着しメロスに続いてラミスも馬車を降りる。
「初めての町で不安も多いだろう。何か困ったことがあれば何でも言ってくれ。」
「ええ、僕も冒険者として恥ずかしくないよう頑張ります。」
二人は握手して、そこで今日は気持ちよく別れるはずだった。
「おっなんだ、バーサル商会の娘じゃねえか。よくも面出せたもんだな。」
一人の酔客が去ろうとするラミスに絡む。相当に酔っているらしく足元が覚束ないその男は何が可笑しいのか自分の言葉に笑い出す。
「ぎゃっはっは、バーサルの連中にそんな分別初めから無いか。」
「貴君、随分と酔っているようだ。今日は冷える、早めに宿に戻ることをお勧めする。」
「うるせー、お前らが、お前らのせいで、俺は、俺は。」
男は酔った勢いで拳を振り回しラミスに突っかかる。地面をフラフラと踏む足では目的地の届くのかも怪しい、その拳がラミスの体に届いたのは奇跡だろう、メロスも何の脅威も感じなかったのでただ見ているだけだった。案の定、余裕を持って避けたラミスを追随することもできず男は無様に地面に転がった。そんな自分が惨めだったのか男は泣き出し、そして興奮から嘔吐し始めた。
「おいおい、何だあれ。」「ははっ、バーサル商会がまた庶民をいじめて楽しんでるのか。」「かわいそうに、これだから金のことしか考えていない連中は。」
最初から見ていた連中は事の経緯を把握していただろう。しかし、日頃の不満をぶつけるいい口実をわざわざ捨ててやろうとは思わず、それを理不尽とすら思わないでラミスを口さがない噂の標的にする。
自分が対応しておけばよかった。メロスは後悔しラミスを心配して声をかけようとした。しかし、それをラミスはやんわりと拒否する。
「ああ、気にしないでくれ。全てはうちの商会が、いや父上が悪いのだ。だから、気にしないでくれ。」
やんわりと慰めを拒むその態度は気丈さ故か自分への罰のつもりなのか、詳しい事情を知らないメロスにはわからず、口の中で用意していた言葉が役には立たないことだけは理解できた。
(いいか、ラミスちゃんの攻略方法がわかったぞ。カギはあのバーザンだ。あの毒親を俺たちがカッコよく成敗してやればラミスちゃんはもうメロメロよ。)
「えっ、でもラミスさんのお父さんですよ。他に家族はいないって言ってましたし。いいんですか、そんなことして。」
(かまわん、俺が許す。ああいう毒親をわからせることは絶対的な正義だからな。間違いないからな。いいか女の子を落とすっていうのはな弱みにつけ込むのが一番なんだ。ラブコメの主人公はだいたいやってる。)
「うーん。本当にそれでいいんでしょうか。」
自信満々の邪神に対してメロスは少し不安を感じた。