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クエスト1 ハーレム候補を見つけ出せ 3人目 その2

メロス :主人公の少年、邪神が宿っている。職業は『奴隷』。王都に来て冒険者になった。

邪神  :ハーレムを作りたい。スラム街のストアに一目惚れ。王城のルート姫に一目惚れ。

バーザン:王城に出入りする派手な商人。王都で手広く商売をしている。奴隷は扱っていない。

(なあ、さっさと宿を探そうぜ。)

「邪神様がついていくって言っちゃったからじゃないですか。」

馬車に揺られながら向かいに座るバーザンに今度こそ聞かれないよう小声でメロスが言う。邪神は獣っ娘がいないとわかると途端にやる気を無くして引っ込んでしまった。仕方がないのでメロスが表に出てバーザンのご機嫌取りをしていたのだが、そんなことでは一向にバーザンの機嫌は治らない。そんな空気にいたたまれずメロスは馬車の外を流れる景色に目を移した。

街を行く人達の目がバーザンの馬車を時折睨むように見ている。確かにこの金ピカの馬車は悪趣味ではあるが、町人の視線にはもっと悪意と嫌悪が込められていた。今まで気にしていなかったが街にでよく見る派手な看板を掲げた店にはバーサル商会の名が記されている。

(これは、相当に悪どい金儲けをしてるな、こいつ。)

「そうなんですか?」

(ああ、間違いない。あの目を見ろ。人を金を運んでくるネズミぐらいにしか思ってない人間の目だ。俺の予想が外れたことがあったか?」

邪神の自信満々の言葉にメロスは、はあ、としか答えなかった。


バーザンの馬車は上層街の端にある一軒の館の門をくぐった。馬車を出迎える使用人の列が、そこがバーサル商会の所有物であることをメロスに教える。一斉に礼をする使用人に思わず礼を返すメロスだったが、そんなメロスを置いてバーザンはさっさと館に入っていく。太った体が入りやすいように扉を開けて待つ使用人にも礼一つ無い。

(なんか、もう帰っていってもいいんじゃないか?)

こちらを気にしていないバーザンの振る舞いにメロスも邪神に同意しそうになる。だが、そんな2人に館の中から響く少女の声が聞こえた。

「父上、なぜあのようなことを、城に強引に押し入ったと噂が流れていましたよ。」

その凛とした気の強そうな声に邪神が確信を込めて言う。

(間違いないあれはちょろい女騎士の声だ。)


「父上、いい加減にしてください。あのように強引な手を使っていれば周りからの余計な恨みを買ってしまいます。」

「ええい、ワシのやることに口出しするな。これも王都を思ってのことだぞ。」

邪神に急かされて館に入ったメロスは丸々と太ったバーザンに食って掛かる細身の少女の後ろ姿を見た。バーザンと同じ豊かな金髪は確かに父娘で似ているが、体型は雲泥の差だ。近づくとその容姿も父親のいかにも悪どそうな顔とは似ても似つかないことがわかる。正義を重んじるキリッとした眉が印象的なその顔は怒りのためか更に眉に角度をつけて睨みを効かせている。

(は~良い。俺、ああいう娘に罵られたい。)

邪神が何かを行っているがメロスは気にせず喧嘩の仲裁をしようと話しかける。

「あの、すいません、僕が悪いんです。僕が馬車の前に飛び出してお城の人たちに迷惑をかけてしまったからで。」

メロスの言葉にバーザンの娘は開きかけた口をつぐむ。

「君は、そうか父上が迷惑をかけてしまったようだな。すまない。」

だが逆にバーザンの娘に頭を下げられてしまう。バーザンはその隙に廊下から消えてしまった。

「父上、まだ話は。くっ、そのようなことばかりするから商会全体が見下されるというのに。」

悔し気な少女にメロスは遠慮がちに自己紹介する。

「あの、僕の名前はメロスと言います。今回はご迷惑をかけて。」

「ああ、すまない。わたしの方こそ挨拶がまだだったな。バーサル商会の主バーザンの娘のラミス・バーサルだ。普段は騎士学校に通っているが商会の仕事も幼いころより見聞きしてそれなりに通じているつもりだ。もしも、冒険者として入用のものがあれば何でも言ってくれ。」

律義な対応は生来の性格によるものか騎士学校の教育の賜物か、父親のバーザンが持つ傲慢さとは全く違う丁寧な態度に娘と言う自己紹介を疑いたくなる。

(おい、メロス。話を広げるんだ。もっと個人情報を聞き出すんだ。)

「ええ、そんなこと言われても。あの、つかぬことをお伺いするのですが、あの、獣人の奴隷とか売ってるんですか?」

困ったメロスはそういえばそんな話題が馬車であったと、深く考えずにラミスに聞いてしまった。

「え?いや、奴隷の取引は王都では違法だから、うちの商会ではそのようなことはしないのだが。そうか、そんな噂を立てられているのか。」

ラミスが暗い顔をする。先ほども父親のバーザンと揉めていたことだが、商会の主バーザンの方針が危ない方向に向かっているせいで商会の王都での立ち位置が悪くなっていることをラミスは気に病んでいそうだ。

「あの、すいません。いえ、そんな噂は立っていなくて、なんていうか、変な人が勝手に言っていただけで。」

ラミスを傷つけてしまったことに焦ったメロスがつい本当のことを言ってしまう。その様子を見たラミスがクスリと笑う。

「ふふっ、何を言っているのだメロス殿は。そんな、変な人などと。ふふっ、確かにあれだけ強い獣人を奴隷のような弱い職業にしてしまうのは商売人としてあるまじき行為だしな。そんなことを言うのは変な人だな。ふふっ。」

ラミスの表情が明るくなってメロスはほっとする。だが同時に傷ついてもいた。自分の奴隷という職業はやはり世間一般では弱く下に見られるものなのだろうか。

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