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第六話 学校へ行こう!①



 真耶さんに文字の練習を手伝ってもらい始めてから三週間が経った。


 基本的には一週間で三種の文字をマスターする感じで勉強は進んでいたのだけど、計画に違わず、僕は日常生活に支障がでない程度には文字を書くことができるようになった。

 真耶さんはどこか不満そうだったけれど、


「まぁ、文字が分からない人間にしてはよくできたんじゃないかしら」


 さらりと誉めてくれた。

 しかし、その晩に僕が真昼さんのご両親から薄桜はくおう学院への編入手続きについて聞かされているのを見るや否や、真っ先に反対した。


「ちょ……! 編入なんて何考えてんのよ二人とも!」

「あら? もう家に来て一か月くらい経ったから、潮時だと思ったのだけど」

「そうだぞ、真耶。ルアン君もそろそろ学校に行く時期だ。十六歳だと言っていたしな」


 お母さん……鈴谷真奈すずやまなさんが不思議そうに小首を傾げると、お父さん……鈴谷浩一すずやこういちさんも頷いて同意の意を示す。

 それでも真耶さんは意見を曲げない。


「だとしてもよ! こいつはこのままじゃやっていけるわけないわ! 日本語だってふとした時に書けなくなるかもしれないし、そもそも勉強についていけないかもしれないのよ!」


 夜遅くに大声を出していることはどうかと思うが、彼女の意見も一理ある。

 しかし、それを真奈さんは平然と退けた。


「それは、あなたが教えてあげれば良いじゃないの」

「んなっ……なんであたしが……!」

「真昼から聞いてるわよ~? あなた、ルアン君に日本語を教えてるらしいじゃない」


 反論しようと口を開くいた真耶さんだが、その言葉で静かになってしまった。


「そ、それはこいつが……頼んできただけで、やりたくてやってるわけじゃ……」

「――というわけだから、ルアン君。何かあったら真耶を頼るのよ?」


 辛うじて反論した真耶さんの言葉を無視し、真奈さんは平然とそう言ってのけた。


「ちょ、ちょっと母さん!? 何勝手に決めて……!」


 当然真耶さんも、先程とは違ってきちんと反論する。

 しかし真奈さんは当然意に介さない。


「これはもう決定事項よ、真耶。まぁ、それでも断るって言うなら~……そうねぇ」


 それでも無理矢理押し通すのは悪いと思ったのだろう。

 勿体ぶって悩む様子を見せると、


「真昼もいるんだし、真昼に全て任せるのも手だと思うわよ~? あの子、昔から行く当てのない人を連れてきては世話してるくらいだから」


 真耶さんにとってはきっと我慢ならないだろう言葉ばくだんを投下してきた。

 真耶さんの方を見れば、肩を震わしてわなわなと震えていた。驚愕と怒りと困惑が混ざったような顔をしている。

 表現は滅茶苦茶だけど、彼女の表情は僕からでも分かるほど苦悶に満ちていた。


「ね、姉さんがあいつの面倒を? い、嫌よそんなの、あたしの姉さんが…………でも、だからってあたしがあいつの面倒なんて…………」


 真耶さんは何やらブツブツと呟いており、頻りに首を捻っては「違うわね」といった具合に案のような何かを却下している。


 しかし考えがこんがらがってきたのだろう。

 半ば自棄になるようにして、


「――あぁ! もう……っ!

 分かったわよ! 母さんの言う通りにしてやるわよっ!」


 そう叫んだのだ。


「じゃ、ルアン君。週明け……つまり明々後日しあさってから学校だから、何かあれば真耶に訊くのよ?」


 真奈さんは笑顔で更に言葉ばくだんを投下してくる。今度は僕も含まれてしまった。


「えっと、明々後日…………って、少し早すぎませんか?」

「そ、そうよ母さん! というか制服はどうするのよ! 制服がなかったら通えないじゃない!」


 叫ぶ真耶さんに僕が同意していると、これまた真奈さんは不思議そうに小首を傾げる。


「制服? ならもう届いてるわよ?」


 ほら、と真奈さんは掌で指し示す。

 言葉通り、丁度僕が座っている椅子の真横の壁に、制服はご丁寧にハンガーで吊るされていた。

 これで文字通り、真耶さんが盾突く隙はなくなってしまった。あるとすれば、後は真昼さんの出方次第だったわけだが。


「え、ルアン君が学校に?

 お母さん、知ってたなら早く言ってくれてもいいじゃないですか! 私にだって手伝えることあったのに!」


 真昼さんはこの騒動を知るや否や、瞳を輝かせて真奈さんに詰め寄っていた。

 世話焼きだと真奈さんが言っていたこともあって、予想はしていたが真耶さんはすっかり落ち込んでいたようだった。


 それでも登校日になれば機嫌は戻っていたみたいで、


「用意が遅いわよ! 姉さんやあたしを待たせるんじゃないわよ!」


 真耶さんはいつもみたいに僕を叱咤した。


 それを真昼さんが嗜め、僕は苦笑いを浮かべる。



 そんな日常の会話から、僕の新しい学校生活は始まった。

今回は鈴谷姉妹の両親を少し掘り下げて登場させてみました。

そして、ようやく次回から学校生活が始まります。

新しいキャラも出てきますが、どんなタイプの人間が出てくるのでしょうかねぇ。


少しでも気になったという方は評価してくださると有難いです。

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