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鈴谷真昼の邂逅①



 最近、真耶の様子がおかしい。

 ルアン君が家に来てから、私はそう頻繁に感じるようになっていた。


 おかしいのは以前から、私が他人を家に招き入れるようになってからも感じていたことだったけど、今回のルアン君に関しては特に感情の変化が激しい。


 私がルアン君に世話を焼けば、真耶は怒る。すぐに「絶対関わるな」と忠告してくるし、ルアン君に圧力をかけて家から追い出そうとしてくる。


 もちろん私は何もないところからルアン君が出てきたのを知っていたので、ルアン君を庇うのだが、真耶はそれに怒り心頭なようだった。


 ルアン君をつれてカフェに行った日曜日、私が彼と家に帰ると真耶は玄関で待ち構えていた。


――ちょっとあんた。何呑気に朝から姉さんに奢ってもらってるのよ。

――謝ったって許さないわよ。

――あたしと同じ空気を吸っている上に姉さんと二人きりで外食とか……。

――いっそのこと死んだらどうかしら!


 どれも真耶がルアン君に向けて言ったことだ。

 真耶のルアン君嫌いは分かっていたつもりだったけれど、これは流石に言い過ぎだと思った。

 だから、私は真耶への仕置きとして言い返したのだ。「ルアン君には悩み事を聞いてもらっていただけです!」……と。

 「姉妹にだって言えないことはあるんです!」とも言った。


 ルアン君を守るためには必要なことだった、と思う。

 でも、それで真耶は傷ついたような顔をした。


 私は、いつも真耶を傷つける。だから、正直言って彼女に合わす顔がない。

 これ以上接していれば、真耶の心は壊れていく。そうなるに決まっている。


 真耶が自室に引き籠ってから、ルアン君の心は真耶に向かったようだった。

 それもそのはずだ。私がルアン君にそうさせているのだから。


 一階のリビングからでも、ルアン君と真耶との口論はかすかに聞こえてきた。

 口論、というよりもルアン君が説得を試みているような会話だった。詳しいことは分からなかったけど、二人の距離は少し縮まったみたいで、


――姉さん。あたし、あの居候に文字教えることになったのよ。


 その日、珍しくリビングに降りてきた真耶は、ルアン君がこの世界で生きていくための手伝いを引き受けたのだと息巻いていた。


 喜ばしいことだ。私はそう思って、お菓子や飲み物をお盆に乗せてルアン君の部屋を訪れた。

 でも、ルアン君に話しかけた途端、真耶の態度が一気に訝しげなものへと変わった。真耶の珍しい行動を誉めてみても、


――ね、姉さんには関係ないでしょ! これはあたしとこいつの契約だもの!


 理由もなく反抗される。

 いや、理由ならあったのかもしれない。


 真耶は、きっとルアン君が好きなんだ。だから私がルアン君と話している時に嫌な顔をする。ルアン君に辛く当たる。

 そう思ってしまったから、私は訊かずにはいられなかった。


 どうして、焦ったような顔をしているのか。


 もちろん無理矢理訊くつもりはなかった。言いたくないのなら正直に伝えてくれればいい話だから。


 それでも真耶は、無理矢理答えようとしていた。

 自分を苦しめてまで、更に苦しくなる言葉を吐こうとしていた。


 それを遮ったのが、ルアン君だった。


 彼は自然体を装って私に真耶の良いところを伝えてくれた。

 だから私も、自然体で質問の答えを後回しにした。真耶を置いて、部屋から出ていった。


 そうしてから、どうしようもなく後悔した。


 ……やっぱり私は、真耶を、実の妹を苦しめてしまう。

 そして、妹を救えるのは私じゃないと思ってしまうのだ。

また分岐みたいな感じで、今度は真昼の独白が入りました。

少し闇が深くなっているような気もするのですが……。


少しでも気になったという方は評価していただけると有難いです。

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