鈴谷真耶の邂逅①
諸事情でタイトル変えました。
姉さんはいつでも、困った人を放っておけない性分の持ち主だった。
ホームステイと称して家に上がり込んでくる外国人に積極的に絡み、道端で財布を無くしたおばあちゃんがいれば一緒に日が暮れるまで探し、変な男に絡まれている女の子を助ける。
この世で一般的に「善行」と呼ばれることを日々していた姉さんだから、ルアンという名前の外国人を家に連れてきた時も別にあたしは驚かなかった。
今まで通り我関せずを貫いていればいいだけだから。
でも、そう思っていられない状況が周りで起こり始めていた。
事故でも胸を触られ、抗議の声は姉さんに届かず、あろうことか姉さんは変態魔の居候を許すと言ったのだ。
当然こんな勝手なことをあたしは認めなかった。
それでも、姉さんの頼みは聞かないわけにはいかない。そして、頼みを聞けば必然的にあいつのことも頭に浮かんでくる。
本当はこんな変態魔のことなんて意識するのも嫌だけれど、姉さんのことを思い浮かべれば自然に付属品としてついて来るのだから、仕方ないといえば仕方ないのだ。
そう自分では区切りをつけて極力あいつのことは考えないようにしていたのだけれど、あいつが姉さんと朝っぱらから出かけたのを知った時に酷く困惑した。
というか、困惑を通りすぎて怒りさえ滲み出てきた。
姉さんは誰のものでもないけど、それでも居候に過ぎないあいつが平然と姉さんからの誘いを受けるなんてあたしには耐え難い事実だった。
だから、あいつが帰ってきた時にあたしは辛辣な言葉を叩きつけたのだ。
そしてその言葉も、姉さん直々に切り捨てられて。
昔から姉さんはいつもいつも他人のことばかりで、妹のあたしには何一つとして良いことなんて言ってくれなかった。
今回もそうだった。その事実があたしを自室へと退散させた。
いつもならそれきり一階へは必要時以外足が向かないのだけど、今回ばかりは引き籠ることは許されなかった。
どういう風の吹き回しなのか、怒りの元凶であるルアンが対話を試みてきたのだ。
あたしの部屋を覗いていたかと思えば、
――――真耶さんは、真昼さんのことが好きなんですか?
トイレから戻ったあたしに、突然あいつがそう訊いてきた。
怒りが頭の大部分を占めていたこともあって、そこに突如として生まれた困惑の気持ちが直接反応に出てしまった。
結果、あいつに姉さんへの好意を知られることになってしまった。
あいつが姉さんと関わっていることで既に苛々しっぱなしだというのに、あいつに思考を読まれるなんて堪ったものじゃない。
それであいつに嗤われるかと思っていたら、思いのほか真面目に同性愛を認める発言をあいつはして、あたしの中の困惑の気持ちがその時また一段と大きくなった。
それはまだ良かったのだけど、あいつは嗤わない代わりとでも言わんばかりにある交換条件を持ち掛けてきたのだ。
あいつ曰く、あたしと姉さんとの仲を戻せるのは自分しかいないのだとか。
理由を訊いてみたところ、あいつは恩返しがしたいのだそうだ。無一文の自分にはそれくらいしかできないと考えているのだそうだ。
理由を訊いたうえでも、もちろんあたしは他者による仲介など居候案件と同じく本心では認めていなかった。
それでも引き受けた振りをした。そうしてあいつが対価として求めるものを探ってみたところ、
――――僕に文字を教えてください。
意外なことに、あいつはあたしに教えを乞うてきた。
てっきり変態なあいつのことだから、あたしに身体上の関係を求めると思っていたのだが、そういうことは欲していないように見えた。
その日、ルアンに対する評価が「変態魔」から「お人好しの居候」へと変わった。
今回は真耶ちゃんの心の内をご紹介する回でしたが、次回からはまたルアン君視点に戻ります。
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