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第一話 異郷で始める新生活

評価してくれた方、ありがとうございます!

プロットが出来上がったので、順次投稿できると思います!



「…………どうやら僕は、異郷に飛ばされてしまったみたいです」


 その第一声は、目の前の少女を驚かせる要因になったはずだった。しかし、何故か少女は意気込んで顔をこちらに近づけた。


「やっぱりそうなんですね! 見た感じ外国人っぽいなって思ったんですよ!」


 確かに異国の者ではあるんだけど……。


 少女の剣幕に、反射的に身体が後ろへ傾く。少女は全身をくまなく見回しても飽き足らないのか、一歩踏み込んだ質問をしてきた。


「……それにしても、珍しい格好してますね。手首も縄で縛られてましたし」


 しかし直接言葉で表すのは気が引けるのか、少女の声は徐々に小さくなり、覇気も見受けられなくなった。


「ま、まぁ……色々ありまして…………」


 何となく頭に浮かんだその場凌ぎの言葉で、笑いながら誤魔化す。


 もしここで僕がありのままの真実を打ち明けてしまえば、きっと彼女に要らぬ心配をかけてしまうことになるだろう。幾ら他人と言えども、それだけは嫌だった。


 ……今までどれだけ周りに迷惑をかけてきたと思ってるんだ。これ以上の迷惑は、僕が耐え切れない。


「詳しいことは聞きませんけど……」


 少女は何かを決意したようで、僕の両手を両手で柔らかく包み込んだ。


「とりあえず、私の家に来ませんか?」

「え……? それは流石に申し訳ないですよ……」

「大丈夫ですって! 一人くらいなら住まわせられますから!」


 やんわりと拒否しても、少女は既に決まったことのように喜んでいる。しかし、渋る僕の心中を察したのか、この世界へ来てから必要になるであろうことをつらつらと話し始める。


「う~ん…………私の家に住まないとなると、お金が必要ですよ。見たところ、金目の物は持っていないみたいですし。アルバイトするにしても、すぐ採用されるかは分かりませんし」


 少女の言う通り、僕は全くの無一文だった。


 処刑間近の人間に物を持たせるほど、国は甘くない。あるのは縄と、この身一つだけ。

 少女の言う通り、身を置く家すらもないのではこの先やっていけないだろう。


「……分かりました。ならお言葉に甘えさせていただきます」


 ようやく了承した僕を前に、少女は満足げに立ち上がると、思い出したように自分の名前を告げた。


「私の名前は鈴谷真昼すずやまひるです。気軽に下の名前で呼んでもらって構いませんよ」

「では、真昼さん、とお呼びしますね。僕の名前はルアンです」


 僕も立ち上がり、少女――真昼さんに手を差し出す。真昼さんは快くその手を取ってくれ、僕はようやくこの世界で生きていく決心をつけた。


「じゃ、ルアン君。早速ですが、これから買い物に行きましょう!」

「え……で、でも僕、無一文ですよ?」

「大丈夫です! お金ならありますから!」

「いやそういう問題じゃなくてですね…………」


 部屋の外に引っ張っていこうとする真昼さんを引き留める。


「女性に払わせるというのは、やはり男性として相応しくない態度だと思うんです。それに僕はこれでも王族で――」

「え? 王族?」


 口を突いて出た言葉に、慌てて口を噤む。


「――王族の男性が女性を大事にしているのを何度も見たことがあるんです。だから、特別高貴でもない人間が王族の常識を破るのは……その、いけないことだと思っただけです」


 言い換えてみたが、これは明らかに適当な嘘だと見抜かれるだろう。僕が王族だとバレるのは時間の問題だ。


 しかし、そんな心配は杞憂に終わった。


「ルアン君の国では、女性優先レディーファーストが当たり前なんですね~!」


 真昼さんは何処か嬉しそうに、ルアンの国を称賛する。しかしその言葉は、裏を返せば今彼女のいる国の常識が女性優先ではないということである。


「日本なんて、最近ようやく男女平等が実現したばかりで、まだまだ女性には厳しい社会なのに……。ルアン君の国が羨ましいです」


 アマスティア王国が羨ましい…………か。


 その後も他愛ない話をしながら、僕は真昼さんに街中を案内してもらっていた。


 転移先の建物を出てすぐの景色は、家々が並び立つ住宅街そのものだった。しかし、人気が多くなるにつれて街の様相も変わった。


 大小様々な店が並び立つ一帯は、アマスティア王国の王都ルアベルンとは違った意味で華があった。


 人の気配を感じ取って客を中へ招き入れる扉に、動く階段、珍しい服の数々を取り扱う店、得体の知れない食べ物など、ここがアマスティアではないと痛感させられるものに多数出会った。


 結果、目当ての服飾店についた時には、僕の頭は多すぎる情報量に困惑していた。


「ルアン君、大丈夫ですか……?」


 真昼さんから差し出された、変な容器に入った水を受け取る。しかし、飲み方が分からない。どこをどうすれば中の水が飲めるのか、異郷出身の僕には見当もつかない。


 悩んだままでいると、真昼さんが僕の手から容器を取り上げ、先端部分を回し始める。


「あ……そうやるんですか……」


 再び差し出された容器を受け取り、中の液体で喉を潤す。


「落ち着きましたか?」


 頃合いを見計らっての言葉に、僕は容器を彼女に返しながら答える。


「はい。お水、ありがとうございました」


 まだ整理はついていないが、とりあえず事情は理解した。


 ここは、アマスティア王国とは何もかもが違う。それは今までの街並みを見て、理解した。彼女が言っていた「日本」というのがこの国の名前ならば、僕が飛ばされたのは「異郷」という言葉で片付くわけのない、時空を超越した別世界だ。


 別世界ならば、説明のつく事象も多い。


「じゃ、いざ服選びと行きましょう!」


 真昼さんは迷いを吹っ切ったのか、意気込んでそんなことを言う。


 どんな名前の店なのかは理解しかねるが、踏み込むのには少しの勇気も要らなかった。

 真昼さんに連れられて、男物の服が整然と並んでいる場所まで歩みを進める。

 どれも僕にとっては新鮮で、斬新なものばかりだ。手触りは良く、凝ったデザインにはそれぞれ努力を感じる。


「ルアン君には……う~ん…………」


 僕が服を事細かに眺めている傍らで、真昼さんは服の選択に苦戦しているようだった。


「何かお困りですか、お客様?」


 そんな彼女の元に、一人の女性が……言葉から察するに店員が近寄ってくる。


 真昼さんは要件を口早に伝え、了承したらしい店員が、短時間で服の上下を選択する。


 そんなこんなで僕は、真昼さんに引っ張られるがまま、様々な服を持たされて更衣室に放り込まれた。



「この国の衣服は着心地が良いですね……」


 真昼さんの家にお邪魔する準備ができた時、僕の姿は日本へ転移した時のみすぼらしい姿とは打って変わった、アマスティアで「王子」として過ごしていた頃の姿へ近づいていた。


 真昼さんが服飾店以外に、美容室に連れて行ってくれたことが大きく関係しているのかもしれない。


「本当にありがとうございます、真昼さん。こんな僕を拾ってくださって」


 だから、お礼の言葉がすんなりと出てきた。


「そんなそんな! お礼なんて良いですよ! 私がやりたくてやったことですから!」


 真昼さんは勿体ないという風に謙遜してみせる。


 だが、僕が知らない土地へ訳も分からず飛ばされて無事でいられたのは、真昼さんがあの時傍にいてくれたからだ。


「この恩は、いつか必ずお返しします」


 立ち止まって頭を下げると、真昼さんの落とす陰も立ち止まる。


「本当に、お礼なんて良いですよ。これは……私の気持ちの問題ですから」


 どこか言葉が悲しげな音色を乗せている気がして、僕は反射的に頭を上げた。


「あ……いや、なんでもないんですよ、ルアン君」


 真昼さんの表情は何故か暗い。


 それに疑問は抱くけれど、僕は何も訊かないことにした。

 ここで何か訊いてしまえば、自分自身の事だって話さざるを得なくなる。僕の話を聞いたって、誰も得をしないはずだ。


 どちらからともなく再び歩行を再開し……家々が連なる住宅街を幾らか進んだところに、真昼さんの家は聳え立っていた。


「今日からよろしくお願いしますね、ルアン君」


 真昼さんが不意に手を出してくる。


「これからお世話になります、真昼さん」


 言葉と共にその手を握り返す。


 その掌は、思ったよりも小さく……見せた笑顔は儚さを宿していた。

続きが気になると思った方、面白いと感じた方は評価よろしくお願いします!

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