第五十六話 ブラッシュボール
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ノーボール、ツーストライク。圧倒的にピッチャーが有利なカウントだ。
以前テレビで観たが、このノーボールツーストライクというカウントは、各バッター軒並み打率を落とすという。個人差はあるだろうが、プロ野球で通算三割打っている一流バッターでさえ、このカウントにされてしまうと二割五分程になるという。
理由としてはフォアボールの可能性が激減する事、そしてボール球を最低でも三球は使う事ができ、バッターはそれら全てをケアして挑まなくてはならない為である。
しかし、そんな有利なカウントでも守に余裕なんてなかった。
バッターボックスに立つ八城から、とてつもない気迫を感じ、身体全体がピリピリと痺れる。
ツーアウト三塁で二点リード。ヒットならまだ追いつかれない。ただこの回の南場実業は明らかに雰囲気が違う。守の勝負カンが、ここで打たれたら間違いなく逆転されると警告をしている。
今でも敬遠が最適解と思っているが、普段静かに戦況を見つめる上杉から敬遠するなと言われたのだ。監督にはきっと何か考えがあるのだろう。
不破から送られるサインを覗き込む。
サインはアウトローへのツーシームだった。いわゆるフロントドアと呼ばれる、ボールからストライクになるボールを要求している。
三球勝負か……不安はあるが、見え見えのボール球を投げて一球損するより良いのかもしれない。守はサインに頷いた。
――キィン!
打球はサード側の応援席に飛んで行った。八城は手元までボールを引き付けてファウルで逃げていた。お手本の様なファウル打ちだ。
次の球――守は一瞬目を疑った。
サインは釣り球。それも打者の顔付近のブラッシュボールだ。
ブラッシュボールはある意味最強の魔球だ。一歩間違えると危険球になるこのボールは、上手く決まれば打者の体勢を一発で崩す事ができる。
バッターというものは、普段と少しでもフォームが変わると、途端に打てなくなる生き物だ。
今までヒットを打てたボールがファウルになり、空振りとなるものなのだ。その為ピッチャーはあの手この手でバッターのフォームを崩しにかかる。
そういう意味ではブラッシュボールはそれに最も適したボールだ。だがこの球のリスクは大きい。バッターに怪我を負わせるリスク、当たりどころによっては生命を奪ってしまう。
勿論、不破も極力出したくないサインだったと思う。だが中途半端なボール球だと、この悪球打ちバッターは抑えられない。
守の左手は震えていた。コントロールに絶対の自信がある彼女ですら緊張するこのボールは、狙って投げるのは技術以上に強靭なメンタルを要求される。
――だが、守は思い出していた。一回戦、鎌瀬高校の犬井が泣きながら発した言葉を。そして握手して感じた、彼のマメやタコでボロボロになった掌を。そして二回戦で戦った選手たちの涙を。
彼らの代表として試合に出ている自覚、それが彼女の左手を震えから解放した。
「皇帝を倒し、甲子園に行くのは……私たちだ!」
守は投球フォームに入った。
六回裏 途中
明来 二対ゼロ 南場実業
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