第二百二十九話 突然の闇討ちな件
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兵藤が大稼ぎをした次の日、兵藤は今日も例の賭博場にいた。
昨日と同じ、イタリア製の高級スーツにセットで整えられた髪、そして仮面越しにでも分かるギャンブラー特有の鋭い眼差しを卓上へ向けていた。そして相変わらず、彼のチップは山のように高く積まれていた。
「鮫、今日もキレキレだな」
投資家の男は満足そうに兵藤へ話しかけた。
「まぁ、アンタからの無限の出資があればね。破産を恐れずに稼働できるなら俺は負けない」
兵藤はそう言いながら配られた2枚のカードを確認し、先にチップを出して参加していた隣のプレーヤーと同じ額のチップを払った。
「コールか。上乗せしないなんて珍しいね。おっとプレイ中だったか、失礼失礼」
投資家の男は全く申し訳なく思ってなさそうだが、形の上で謝罪の言葉を口にした。
「オールイン」
兵藤の後番のプレーヤーが、全てのチップを賭けた。額は日本円にして二千万円程である。
「……ナイスハンド」
兵藤の前にチップを出していたプレーヤーは手札を捨てた。次は兵藤の番である。
「オールイン」
兵藤は即座に全てのチップを前に突き出した。そして手札を公開すると相手の顔が真っ青になっていた。
「……AA!?」
相手の男はAとKのカードを投げ捨てる様に公開した。本来とても強いハンドであるが、AAに対しては勝率期待値は七パーセントほどしか無い。
「クソが……クソがぁぁぁ!!!!!!!!」
相手の男は手を真っ赤にして逆転を懇願していた。しかしボードにカードが捲られていったが、5枚全てのカードが開かれても兵藤のAAは危なげなく勝利となった。
全てのチップを失った男が悲壮感を漂わせて席を後にした。そして兵藤は何事もなかったかの様にチップを回収した。
「やるねぇ、AAを潜ませるなんて。オールインが来ることを予想していたのか?」
「予想ってか千パー来ると確信してたね。あいつハンドが配られるとすぐ確認して、そんで強いハンドの時はウキウキして前のプレーヤーが参加してくるか見ちゃうから」
「ついでに言うとさ、あいつ今日、俺のブラフに何度も降ろされてるだろ? 相当俺に対してムカついてたはずだぜ」
兵藤は付け加えて説明した。
「あ、確かに」
兵藤は基本、必要な時以外は手札を見せる事はない。ただ今日、あの相手をブラフで降ろした時だけ手札を公開していた。
「悪魔みたいなことをするねぇ」
「当たり前だろ。命懸けでやってんだから」
――その後も兵藤はチップの山を築いていき、その日の稼働は終了した。彼は自分の取り分の報酬を受け取り、帰路についた。
ダダダダダ!!!
「……!!」
賭博マンションを後にして夜道を歩いていた兵藤の背後から、彼に向かってくる足音が聞こえてきた。
兵藤はとっさに体を避けさせ、向かってきたものから回避することができた。
「はぁ……はぁ……殺す……コロス……!!」
背後から襲いかかってきた中年男の手には包丁が握られていた。目は真っ赤に充血にしていて、とても興奮している様だ。
「お前……この前トバにいたやつか?」
「やっぱりお前だったか鮫……!! 仮面をしていなくてもわかるぜぇ……」
男は包丁を一層強く握りしめた。
「お前のイカサマのせいで俺は会社の金に手を出して役員から外された……死んで詫びろや」
「知らねーよ。無くなっても問題ない金で遊ぶのがギャンブルの常識だろ。だからそれはお前の資金管理ミスだ。そして俺はイカサマなんか一切やっていない」
「うるせぇ……うるせぇんだよおおおおお!!!!!!」
男は包丁を兵藤に向けたまま突進してきた。兵藤までの距離は5メートルも無い。
「ちっ……!!」
兵藤は上手く体を避けた。
「はぁ……はぁ……コロス……コロス……」
男は正気を完全に失っていた。
「やっべぇな……」
「へへへ……鮫よ、強がってねぇで懇願すればどうだぁ?」
兵藤はあくまでポーカーフェイスを貫いていた。
「ムカつくんだよお前……!! 死ぬかもしれないこの状況で何落ち着いてやがる」
「慣れているだけさ。こういう仕事をしている以上、命を狙われることも珍しくない」
兵藤はまっすぐ相手を見て話していた。
『とは言え……実はやばいんだよな。さっきあいつの特攻を避けたとき、右足首を捻っちまった……』
兵藤は右足首の激痛を感じながらも、目線を外すことなく男を凝視していた。
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