第二百二十六話 兵藤の価値観な件
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「俺には証明したいもんがあるんだよ」
「なになに? こんな素晴らしいギャンブルの才能があって、フラストレーション溜まってんの?」
「あぁ。頭だけじゃーどうにもならねー話だよ」
兵藤は配られたハンドをサッと見て、参加できるハンドではなかったため、裏向きのままディーラーに投じた。
「でも……さ。じゃあ何でプライベート優先な君がこうやって代打ちなんか受けてくれるんだい?」
「一つは金。もう一つはトレーニングだよ」
兵藤が即答した。
「トレーニング?」
「あぁ。ここは皆、仮面をつけているだろう? 表情以外で相手の癖を見抜く技術が洗練されていくんだよ。やはりギャンブルはライブに限るね。ネットは俺には合わない」
兵藤は次のハンドもすぐにディーラーの元へ投げ捨てた。
「例えばさっきのアイツ。さっきのオールインは受けたけど、その前のオールインには降りた。俺が二番目に強い手役を持っていたのに……だ。何でだと思う?」
「さぁ? ポーカーは観る専なんでね」
投資家は即答した。
「まず俺が降りたオールインでは、アイツはチップを出す前、俺のチップの山を一瞬見た。あれはそのチップ全てが自分のものになると無意識に思っての行動だよ。チップも丁寧にラインの外に押し込んでいたよな」
「対してさっき俺が全弾抜いたオールイン。あの時のアイツは威圧するようにチップをドンって置いたな。そしてその後はジッと俺の方を見ていた。人間って不安な時ほど威嚇しようとするんだよね。細かいところもたくさんあるけど、基礎のコレだけでもアイツのオールインは透けて見えるぜ」
兵藤は端的に説明をした。そしてディーラーに打ち止め伝え、チップをいれるプラスチックケースを受け取った。
「さ、換金にいこうぜ」
兵藤は手慣れた様子でケースに大量のチップを入れ込み、サッと立ち上がった。そして換金所へスタスタと歩いて行った。
「なぁ、マジで専業になるつもりはないか? 金は全部俺が出してやるからさ」
「だから俺にはやりたいことがあるんだっつーの、ほら」
兵藤は大量の札束を出資者の男に渡した。
「はいよ、じゃあコレが今回の報酬」
男は約半分の札束を兵藤に渡した。
「何だよ、俺の割合は勝ち額の三割だよな? 多すぎんだろ」
「痺れるブラフキャッチ観せて貰ったし、そのショー代だよ。ま、お前さんなら安定してコレくらい稼げるって思って貰えれば安いよ」
「悪いけど俺の気は変わらねーよ。ま、貰っておくけど」
兵藤はバッグに札束を閉まった。
「じゃあな、また気が向いたら」
「ちょっと待て、鮫」
帰路につこうとした兵藤を、男は呼び止めた。
「お前がそこまでして目指しているもんって何なんだ?」
「……全国。じゃあな」
男を残し、兵藤を乗せたエレベーターの扉が閉まった。
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