第二百二十三話 駄覇のウイニングショットの件
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九回裏、明来は一点リードの守備。
場面はツーアウトランナーなし。カウントはワンボールツーストライク。
不破がこのタイミングで新球種を出したのは、相手のデータに無いボールのため試合を決めることができるという希望的観測もあるが、どちらかと言うと保険的意味合いが強かった。
この場面なら、まだミスが許される。ボールを後逸する捕球ミスも、ボールが引っかかったりする投球ミスも、今なら最低限のダメージで済むだろう。
これがランナーがいる場面だとすると、決してそんな冒険はできない。それが不破の考えであった。
球種の名前は駄覇から聞いた。しかし、それでも不破は慎重であった。なぜなら変化球は、同じ球種でも投げる人間によって変化がまるで違うからである。
同じボールの握りであってもピッチャーの指の長さやリリースの角度、力のかかり方が異なるため、ピッチャーごとのオリジナリティが生まれる。
現に明来ピッチャーの変化球だけでも、それぞれに特徴がある。守と東雲はチェンジアップを投げるが、東雲のチェンジアップはブレーキが物凄く効き、変化量はさほど大きくない。対して守のチェンジアップはブレーキも比較的効いているが、それよりも大きく沈み込むことが特徴である。
だからこそ不破は慎重に、駄覇の新球種を要求する場面を選定した。それが今、この瞬間であった。
『慎重過ぎなんだよ不破サンは……俺を信じろっての』
駄覇は一年生とは思えない、余裕すら感じられる落ち着いた表情でマウンド上に立っている。
『ミート力に長けたバッター。緩急にも強い。超レアな三振は東雲サンの豪速球……今の俺じゃあそれは無理』
『それなら俺だけの武器で三振を取るだけっしょ』
駄覇は右足を大きく上げた。セットポジションからの綺麗なフォームから、ボールが投げ込まれた。
『ストレート……よりは少しスピードが劣る。スライダー!!!』
豊洲はその天性の才能である動体視力で、ボールスピードの違いに直様気がついていた。
『ここだ……!!』
豊洲はスライダーの軌道ドンピシャにバットの軌道を入れていた。
――ギュン!!!!!
ボールは突如、ストンと真下に落ちた。
「くっ!!!」
豊洲のバットは空を切った。不破は初見であったが、予め軌道をイメージしていたこともあり、不恰好ながらワンバウンドをしっかり捕球し、すぐに豊洲をタッチした。
「ストライク!! バッターアウト!!」
「ゲームセット!!!」
駄覇の新球種スプリットは、好打者を三振に切るという最高の形でのお披露目となったのである。
試合終了
明来 三対二 蛭逗
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