第二百十一話 球種が読まれていると確信した件
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「ストライク、バッターアウト!!」
東雲のど真ん中ストレートで、蛭逗の七番打者から見逃し三振を奪い、何とかピンチを切り抜けた。
「っざけんなクソが!!!」
アウトに取られた打者が、ホームベースにバットを叩きつけていた。やはり蛭逗の野球部員は素行面にとても問題があるようだ。
「東雲!!」
不破は明らかに怒りを露わにしながら、マウンドを降りる東雲の元へ詰め寄ってきた。
「サインミスとは言わせないぞ!! 何で最後にストレートを投げた!!」
不破は最後のボールに対して、チェンジアップのサインを無視したことへ怒っていた。
「そりゃお前、チェンジアップ投げんのバレてたら打たれるに決まってんだろ」
「……東雲、お前何を言っているんだ」
「お前、頭脳明晰なくせにバカだな!!」
「バ……!?」
不破は、恐らく人生で初めて言われる類の暴言に一瞬固まってしまった。
「いいか? アイツらは何らかの手段で配球を把握してんだよ!! この回から変だと思わなかったか?」
不破はその言葉には同感していた。この回から蛭逗の打者陣が迷いなくバットを振り抜いているのを感じていたからだ。
「この回打たれたヒットの球種、覚えてるか?」
「勿論。四番豊洲以外は全て変化球だよ」
「そうだ。バッターのほとんどは俺の変化球を狙っているんだよ。んで最後の三振を思い出してみろよ。核心に変わんだろ」
東雲の言葉に、不破は思わず目を見開いた。
「確かに、最後のストレートはかなり甘い。ど真ん中もいいとこだ。頭の中にストレートの意識が少しでもあれば必ずバットは出る」
「そうだよな。ただあの七番はピクリとも動かなかった。変化球が来るもんだと思ってりゃあ納得だよな。で、お前はあの七番の顔を見たか?」
「あぁ。その時はただ悔しいだけなのかと思ったが、今思えば想定外のボールが投げられて苛立っている感じにも捉えられるな……ただ」
不破は、今の状況を踏まえた上でも納得ができていない様子だった。
「なぜ球種がわかる? 俺から見ても東雲にフォームの違いはないと思うぞ」
「知らねーし、それが解りゃ苦労しねーよ。お前サイン出す時バッターやランナーに見られてねぇか?」
東雲は首を横に振りながら不破へ問いただした。
「サインはバッターやベンチからは見えないように出している。ランナーが出てからはサインを複雑化しているから、ランナーをしながら試合中の間に一から解析するのは恐らく不可能だ」
不破の発言には、東雲も納得していた。
「あぁ、ランナーが出てからのサインはマジで複雑だ。俺様でさえ完璧に解析できるまで一週間もかかったからな。千河のバカはもっとかかってたけどな!」
駄覇はその日の内にマスターした……と喉の辺りまで出かかったが、不破はグッと堪えた。
「……ここまでの話をまとめると、バッターは東雲が投げる時までの間に球種を把握している可能性がある、という事でいいんだな」
「あぁ、間違いねーな」
不破は少し考えて話し続けた。
「という事はフォームの癖がある、という事は無さそうだよな。あの七番がいい例だ」
「あぁ。だから次の回からはストレートを押し、かつ変化球のサインが出てもストレートを投げるときも作る。これで暫くは撹乱できんだろ」
「……わかった。それでいこう」
不破は東雲の考えを呑んだ。そしてベンチへ入っていった。
五回表 開始前
明来 二対二 蛭逗
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