第百八十八話 悔しさをバネにする件
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「では、改めてオーダーを発表しますね」
オーダーは下記のように決定した。
一番センター 兵藤
二番ショート 山神
三番セカンド 駄覇
四番ピッチャー 東雲
五番サード 氷室
六番キャッチャー 不破
七番ライト 風見
八番ファースト 青山
九番レフト 松本
大きな変更点は、二回戦まで温存していた一年生の駄覇を大会初出場させる所だ。しかも打線の中心である三番に抜擢されている。
それに伴い、元々三番だった東雲が最近好調なこともあり四番へ。氷室が五番に繰り下がった形となった。
また二回戦でヒット二本を放った風見が打順七番へ昇格していた。
「東雲君、この試合は完投をお願いできますか?」
上杉監督は東雲に問いかける。
「当たり前な事を聞くんじゃねーよ! ハナッから交代なんて考えねーよ!!」
東雲は胸を張り、唇をとんがらせていた。
「東雲君。その心意気で、宜しくお願いします」
「……お、おう。任せろよ」
上杉監督のいつになく真剣な表情に、東雲は思わず動揺したのか、いつになく素直な返事を返していた。
「そして駄覇君、君がこの打線のキーマンです」
「そうすか、まぁがんばります」
プレー中ではない駄覇はいつも力の抜けた雰囲気だ。ただよほど自信があるのか、謙遜せずに当然といった表情をしている。
「そして、風見君」
「え、あ、はい!」
まさか自分がこの流れで呼ばれるとは……風見は正にそんな反応をしていた。
「二回戦のマルチヒット、見事でした。打順が変わっても、自信を持ってバットを振ってくださいね」
「は、はいっ!」
風見はこの言葉で、ようやく七番に昇格したのだという実感を得ている様だった。
ただ、それに反し、青山はとても残念そうな顔をしていた。
彼からしたら八番という打順は降格を意味している。更に蛭逗の赤坂、麻布には鼻の手術をするハメになった因縁もある為、このタイミングでの打順降格は非常に悔しいだろう。
上杉監督はチラッと青山の方を見てから再びまっすぐ顔を向き直し、各自自主練をする様に指示をした。
一同、それぞれの準備のため、その場を離れていった。ただ青山だけは突っ立っているままだった。
「……真斗」
守が青山の姿を見て、いたたまれない気持ちになった。
その視線に気が付いたのか、青山は守に話しかけた。
「千河っち、悪りぃ。バッティングピッチャーとして、少しだけ投げてくれないか?」
「う、うん。それは構わないよ」
「俺、二試合ともヒット打ててないから悔しくてさ。チームは二試合連続でコールド勝ちなのに」
青山は少し涙目になっていた。守はそれを静かに見守っていた。
「俺、ぜってぇアイツからヒットを打ちたいんだ!! だから、左ピッチャーの千河っちで練習させて欲しい!」
「……ん。わかった。ただ赤坂はいいピッチャーだ。今日だけじゃ足りないよ。球数は制限するけど、定期的に練習しようぜ」
守は笑顔で青山の胸を小突いた。青山は手術痕の残った鼻をすすり、守の方を見つめて頷いた。
その姿を、奥の方で静かに上杉監督は見守っていたのであった。
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