第十七話 動揺する守
三回裏ツーアウト。ランナーが一、二塁。ヒットと風見のエラーで出たランナーを置き、バッターボックスには東雲が入っている。
さすが、エリート揃いの皇帝だった。三イニングも経つと、守の特徴をしっかり把握し、対応してきている様だ。
守は不破からのサインを覗き込む。初球は――アウトローのストレート。前の打席で捉えられてはいるが、やはりインコースを攻めるのには勇気がいる。
ボールは大きく外に外れた。おかしい。いつもならアウトローは百発百中の自信がある。守は、身体が勝負を避けているのを感じた。
――投げるボールがない……守は目で東雲の様子を伺った。彼は見下しているかの様に、ニヤニヤと笑っている。次に投げたスライダーも珍しく引っ掛かり、大きく外れてしまった。
結局ストライクが一球も入らず、東雲にフォアボールを与えてしまった。これじゃあマズい、次はもっと怖い神崎だ――守はロジンパックを手に取った。
神崎が打席に入る。満塁だ、もう逃げられない。初球のサインはインコースのスライダーだったが、守はこれを拒否した。次に出たサインはインコースのツーシーム。これにも守は首を横に振る。守はアウトコースのストレート、これしか投げたくなかったのだ。インコースは先ほど打たれているし、変化球は東雲の時、コントロールに苦しんでいたからだ。
不破が仕方なく出した、ストレートのサイン。だが彼はインコースに構えている。守はそれを無視して、アウトコースに投球した。低めのいいコースに投げられた――と思った瞬間、神崎のバットはアウトロー目がけて振り抜かれた。
打球は右中間に運ばれた。神崎の走者一掃タイムリーツーベースとなった。
やられた……アウトコースを完全に狙われた。汗が止まらない。守は自分のミスを痛感さざるを得なかった。
守は神崎の方に視線を向けた。二塁ベース上で、神崎は何やら山神に話しかけている様だ。しかしまたしても、山神は神崎に対し背を向けている。先ほど山神は神崎のことをリトル日本代表の戦友と言っていた。だが今のこの空気はなんだ、二人の間に何があったのだろうか。
――いけない、また考えごとをしてしまった。守は再度ロジンパックを手に取り、粉まみれにした左手に息をフーッと吹きかけた。
打席には五番バッターが真剣な表情で打席に入ってきた。
サインはインコースのスライダー、先ほど守が嫌った球だ。なぜ不破は執拗にインコースを要求してくるのか、守には分からなかった。ただサイン無視をして打たれた責任を感じ、守は腹を括った。
「天才女子中学生ピッチャーだった私を舐めんなよ！」
心の中で叫びながら、守は思いっきり腕を振った。ボールは不破のミットに寸分の狂いなく吸い込まれていった。
「ストライク！」
のけ反りながら驚くバッター。大丈夫、まだ私は戦える。守は気合充分に不破の返球を受け取った。
三回裏途中
明来 ゼロ対四 皇帝
今日もご覧頂きありがとうございました。
タイトルを一部変更しました。少しでも魅力に感じてもらえると嬉しいです。
引き続き頑張っていきますので、是非また守たちの活躍を見に来てくださいね！
初めてご覧頂いた方は、宜しければ第一話からお読み頂けるとより楽しめます！
この作品が、少しでも皆様の楽しみになれますように。
