第百六十五話 男子の中で生きていく手段な件
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七回表、守は皇帝の三番バッターをライトフライに抑え、四番の神崎と対峙していた。
今日の神崎は深いセンターフライに三振。東雲の無謀とも思えた全球ストレート宣言の投球に抑え込まれていた。
ただファウルになってはいたが、東雲の豪速球を捉えた打球はどれも凄まじく、彼が不調という訳ではないと守は感じていた。
――初球はアウトローのストレート。
ただし僅かに外す様にサインが出された。駄覇が構えているミットの位置は、ホームベースの外側を少しだけ外していた。
守はそのサイン通りに腕を振り抜いた。
――スパァァン!!
神崎はピクリと反応したがバットを止め、ミットを凝視していた。要求通り、ボール半個ほど外れたコースをボールは通過していた。
だが駄覇は捕球の際、僅かに内にミットを食い込ませ、自信満々にアウトローいっぱいの位置でミットを静止させた。
「ストライク!!!」
守備をしていた時から見ていたが、改めて駄覇のフレーミングがとても上手いと守は実感していた。
守の様なコントロールピッチャーにとって、ストライクゾーンが広く使えるのは非常にありがたいのである。
次のサインは、またアウトローのストレートだった。ただ次はボール一個ぶんくらい外す位の位置にミットが構えられている。
守はそれをすんなりと受け入れ、投球モーションに入った。
――キィィィィッン!!!!
「!!」
神崎の鋭い打球がライト方向を襲った。
しかし打球はライト線側の観客席にライナーで吸い込まれていった。
これでツーストライク、追い込んだ。
守はふと夏大会のことを思い出した。
神崎との対決は二打席。センターフライとショートライナーだった。
結果的には守の勝ち、だが完璧に抑えたという感じはしない。
センターフライはボール球のツーシームを打たせた。ショートライナーはボール球のチェンジアップを痛打され、山神のファインプレーに助けられた。
ボール球を打たせるのは守らしいピッチングと言えるが、どちらかと言うと何とか凌いだというのが素直な感想であった。
打席の神崎は真剣な眼差しで守を凝視している。甘い球はスタンドインされてしまうだろう。
出来ることなら力技で抑え込みたいという本心とは裏腹に、どんな形であれアウトを奪ってみせると守は考えていた。
それが自分の持ち味であり、唯一男子の中で生きていく道だと自覚しているからである。
『次は何だ……ボール球になるチェンジアップ? それとも高めを見せるか、インコースのボール球で体を開かせるか?』
守なりに駄覇が次にどんなサインを出すか予想していた。
――サインはインローのカットボールだった。今日初のカットボールである。
七回表 ワンナウトランナーなし
皇帝 ゼロ対四 明来
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