第百五十七話 フレーミングと懐柔策が巧みな件
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皇帝学院ベンチは少し騒がしかった。下位打線からの攻撃とはいえ、あまりに呆気なく三者凡退に抑えられてしまったからである。
「何だったんだよ五回の東雲……。甘い球一球もなかったぞ」
「まるで、一イニング限定で投げるクローザーみたいな投球だったよな」
先程までの東雲のピッチングが余りに冴えていたからか、彼らは違和感を覚えていた。
それが、舐めた一年生キャッチャーの捕球ミスを誘う為のピッチングとも知らずに、である。
「そんでもって、駄覇のフレーミング！ あれで際どい所を全部ストライクにしやがった！」
「誰だよ左投げだからって馬鹿にしてた奴！ あいつキャッチャーもメチャクチャ上手えぞ！」
フレーミングとは、キャッチャーにとって重要な技術の一つ。ストライクかボールか、際どいゾーンに来たボールをストライクと審判に判定させるスキルである。
ミットをボールゾーンからストライクゾーンへ動かしながら捕球し、捕球した後はミットを動かさない様にする。一見簡単そうに見えるが、とても難しい技術である。
多くの選手は捕球後にもミットを動かしてしまう。ただこれでは審判を欺く行為に取られ、寧ろ判定が厳しくなるのだ。
それが駄覇の場合は、外から内に入り込む様に捕球し、一度キャッチをしたらグラブをピタリと止める。見事なビタドメキャッチを演出していたのである。しかも、彼の場合はピッチャー用のグローブで、そのわざを実現しているのである。
「ナイスピッチでぇーす。東雲さぁーん」
駄覇がマウンドから降りてきた東雲に声をかける。
「クソ……中々上手ぇじゃねぇか、テメェ」
東雲は駄覇が突き出したグラブめがけ、力を込めてグラブタッチをした。大層悔しそうにだった。
「だーかーらー、大丈夫って言ったでしょ？ 俺デキるやつだし」
「クソ……後で突き指して泣いても知らねーぞ！！」
東雲は言葉を吐き捨ててベンチに駆け出していった。
「……扱いやすいなぁ。東雲サンは」
駄覇は東雲の後ろ姿を見て、ニヤリと笑った。彼はものの見事に明来の狂犬を懐柔していたのである。
『東雲サンは俺の挑発に簡単に乗ってくれる。挑発の場合、あの人はベストパフォーマンスをする。結果、下位打線にも手を抜く事なく三者凡退』
『皇帝サン。もうそろガチで点取らないと……負けるぜ？』
五回表 終了
皇帝 ゼロ対二 明来
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