第百五十一話 科学的根拠に基づかない力の件
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「いつまで話してンだよ!! さっさと打席立てよ」
マウンド上の東雲が神崎に催促した。
「あぁ、すまんな東雲。次も良い勝負をしよう」
「チッ。マジで一々ムカつく奴だぜ」
神崎との会話で少し落ち着いた不破は腰を落とし、ミットを構えた。しかも東雲の指示通りど真ん中だ。これは不破にも考えがあった。
『どうせボールゾーンに構えても、東雲は無視して投げるだけだ。それならアイツが全力で投げられる様に従ってやるよ』
不破はチラッとベンチを見た。彼の瞳は精一杯声を出している千河の姿を捉えた。
『俺個人としては……千河のように自分のリード次第で試合をコントロールできるピッチャーの方が好きだ。圧倒的に』
『ただ……信じてやるよ。科学的根拠なんて全くないが、神崎の言う野球選手にとって一番大切な要素って奴を』
不破はミットを強く叩いた。
「来い東雲!! どんな球でも止めてやるから、もっと出してこいよ!!」
不破の声を聞いた東雲はニヤリと笑った。
「球威に負けて突き指なんかすんなよ? 秀才クン」
東雲はセットポジションから投球フォームに移った。
普段以上に踏み込みが強く、体の開きが遅い。間違いなく良いボールが来ると不破は確信していた。
「オラァァァッ!!!」
――ギュィィィィィィィッ!!!
凄まじい回転音を効かせながら、東雲のフォーシームが襲いかかってくる。
――キィンッ!!
神崎の打球はバックネットに突き刺さった。タイミングは合っている。
――ただ、東雲はさらに一皮剥けた様だ。
「……監督!! 今のボール、百五十一キロです!!!」
ベンチにいる千河が叫んでいた。
「……えっげつないな」
右打席に立つ神崎も、思わず声を漏らした。
球審からボールを受け取った不破は、すぐさまそれを東雲に投げた。千河や駄覇と違い、彼の場合はボールをこねたり拭いたりせず、さっさと返してあげた方が機嫌がいいことが分かってきた為だ。
「まだまだ余裕だ!! もっとエグいの来いよ!!」
不破が東雲を煽る。
「ミットの紐、ブチ切れても知らねェぞ」
東雲は更に強く左足を踏み込んだ。
「……ッアアァッ!!!」
強く蹴り上げた東雲の軸足が、反動によって前方にキックしたかの様になっていた。
投げられたボールは先程以上の球威があり、まるでホップしているかの様なボールだった。
予想以上の球の伸びだった様だ。神崎のバットの上をボールは通過した。
――スパァァァァァァァッ!!!!
「ストライク!! バッターアウト!!」
今投じられた東雲のストレートは、この日最速の百五十二キロを計測していた。
四回表 途中 ツーアウト三塁
皇帝 ゼロ対一 明来
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