第百十二話 突然の提案を受けた件
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「そして全国制覇をした義経は、静かに一つの野望を抱いていた。それは体格で判断した名門校を自らの力で打ち負かすというものだった」
若井監督は話を続けた。
「義経はのんびりしている様でいて、プライドの塊だ。高校生に一切引けをとっていないと考える彼にとって、スカウト先へ進学するしないは別にして、自分の評価が下がるのは許されることでは無かったんだ」
若井監督の話を二人は静かに聞いていた。
「そこで彼は考えたんだ。自分より体格も技術も上の環境で練習すれば、より高いレベルに成長することができると」
「だから大学野球で練習を……」
守の問いに若井監督は頷いた。
「名門の大学には高校野球で結果を残した選手が集結する。体格は勿論、技術力だって高校三年間の努力で駄覇以上に成長している。ずっと敵なしで戦っていた彼からしたら大冒険だよ」
「確かに……安易な気持ちで踏み入れられるものじゃないですね」
「駄覇君の自信って、こうした背景から来るのね……確かにこの環境で野球していたら私たちの野球なんて退屈と思っても無理ないわ」
守と瑞穂は大きく溜息を漏らした。イメージと全く違う駄覇の一面をみて、彼の意志の強さを感じざるを得なかったからだ。
「……だけど、僕たちも駄覇のチームメイトです。彼と一緒に戦っていくために、もっと彼に向き合いたい」
守の言葉に、瑞穂は共感した。若井監督も守のまっすぐな瞳、そして言葉を聞き、思わず笑みをこぼした。
「彼と語るには試合の中が一番かな。試合中の彼こそが、本当の駄覇義経だからね」
若井監督は少しの間瞳を閉じ、そして何か閃いたようにパチっと目を見開いた。
「……よし決めた! 二週間後の日曜日、このグラウンドでウチと試合しよう! 流石にレギュラーは出せないから控えの一二年主体メンバーだけど、どうかな?」
「ええっ!?」
「本当ですか!?」
予想外の提案だったが、明来野球部のレベルアップにまたとない機会であった。
――翌日。
守と瑞穂は昨日の件を上杉監督に報告した。
「ハハハハハッ!! それは素晴らしい、是非その練習試合、受けちゃってください!」
職員室で上杉監督は爆笑して即答した。
「轟大学といえば野球名門校! 控えメンバーといえど高校野球で結果を残してきたエリートばかりではないですか!」
「ただ監督、この試合の条件が二つあります」
守が説明を始める。
「まず一つ目が、駄覇を轟大学チームの方で出すこと」
「そして二つ目が、駄覇をどんな形であれフルで出場させることを了解してもらうことです」
「はい、その条件飲みましょう」
上杉監督は即答した。
「つまり、明来野球部の実力を駄覇君に見せつけなさい。認めてもらえない限り、高校の練習には参加しないだろうと言うことですよ」
――ゴクリ。
上杉監督のストレートな物言いに二人は固唾を飲んだ。
「この試合、今後の明来野球部に大きく影響がでることでしょう」
上杉監督は鋭い目になり、千河を見つめた。
「千河君、その試合の先発は任せましたよ」
「はいっ!!」
守は威勢よく返事をした。
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