56話
2話!
俺は息をひそめ、気配を殺す。
奴に今バレるわけにはいかない。バレたら一発アウト。俺の目的は失敗に終わる。
チャンスは一度きり。今を逃すと、次のチャンスは明日だ。割と頻繁にある。
「イマダ!」(コゴエ
「・・・めぇ」
「ウヒョー。モフモフー」
「おはよう!」
「おはよう。なんか機嫌いいな」
「いい朝を迎えられたからな!」
「・・・?そうか」
いい朝だった。間違いない。これが明日からも続けられると思うと今からワクワクが止まらない。
今までにない体験だ。コロちゃん達とも違う、新しい感触。俺は今日、新しい世界を見た。
「めぇ」
「明日も頼むぞ~」(モフモフ
「めぇ」
「うー!」
「お前も触っとけ~」
「・・・めぇ」
「しーちゃんは構わないんだな」
まぁ別に何かの邪魔をしてるわけじゃないし。毛触ってるだけだし。さすがに顔をうずめるとむず痒いのか体を揺らしてくるが。
「今日はどうするんだ?」
「22層に行ってくる。しーちゃんもいるし」
「そうか。だったらまた新しい敵の報告書の準備をしておくぞ」
「頼んます」
「カメラ忘れるなよ?」
「昨日からバックに入れてるよ」
新種のモンスターを発見したときは、一応写真を撮っている。まぁ今まで話したことはないのは別段話す内容がないからだったんだが。
あ、サラマンダーとか撮るときには苦労した。見つけるのと、洞窟の暗さで。
「22層到着」
「うー!」
「ああ、キレイだな。めんどそうだが」
階段を降りると、そこに広がっていたのは白い砂浜。青い海。ヤシの木らしい植物もある。
22層は海ステージのようだ。
「やっべぇかな?」
「めぇ?」
「いや、海って・・・うん?」
「めぇ」
「・・・お前どこから来たの!?」
羊は海にいないんだよ!。どうなってるんだ?。
もしかして、こいつもっと下の層から来てるのか!?
「めぇめぇ」
「え。ここ?」
「めぇ」
「ついて来いって・・・まぁ行くけど・・・」
しーちゃんについていくこと10分。海に沿って歩いていくと、丘があった。
丘の上に行くための道もあるので、どうやらここを行くらしい。海は関係ないのか?
「めぇ」
「うー」
「え、関係あるの?。マジか・・・。階段あっちだったら最悪だな・・・」
海で行動できるメンバーは一人もいない。精々、俺とすらっぴくらいか。コロちゃんも犬かきしかでいないし。泳げる子はみんなそんなものだ。
飛べるメンバーは論外。
坂道を上る。そこまできつい坂道じゃない上に、景色は最高だ。
これがダンジョンじゃなく、旅行とかだったらどれだけよかったか。
「あ、後であのヤシの実(仮)を取らないと」
「ワン?」
「後ででいいよ。帰り際も通るだろうし」
「ぴ!」
「食べるのは後でな。検査のあと」
「ぴ~」
まぁヤシの実ジュースってあるくらいだし。人体に影響がなければ味はよさそうな見た目だよな。
オークの肉に比べて飲むのに抵抗もなさそうだ。
「帰ったらなんか自販機で買うか」
「ぴ~」
「ちゅ!」
「うー!」
「るる?る~!」
「・・・めぇ?」
「いろんな飲み物があるんだよ。甘いやつとか。ほら昨日食った果物の味がする飲み物もあるぞ~」
「めぇぇ」
「人間は贅沢なんだよ。いろいろ欲しがる」
「う!」
「はは。そうだな。いい事だな」
衣食足りて礼節を知るじゃないが。ニホリは食べ物関係に関してかなり人間の物を気にいっている。
特にメロンソーダ。本人曰く、あまあましゅわしゅわ~。だそうだ。
「めぇ」
「お、着いたておおおお!!」
「うー!!!」
坂を上り切りると、自分のいる場所が島であることがわかった。
かなり大きい。ギリギリ島の先端が見えるくらいだ。
だが、驚いたのはそこじゃない。
現在丘の上にいるわけなんだが。そこから見下ろすとしーちゃんと同じ種族の羊モンスターが大量に存在していた。
ようするに、もふもふ天国だ。
「・・・いや、そうじゃない」
「めぇ?」
「これ、倒さなきゃダメ?」
「めぇ」
「え、無視?。できんの?」
「めぇ」
「はぁ」
本人曰く、自分たちは戦闘力は確かにこの層にふさわしいレベルで持っている。
だが、そもそも好戦的じゃない。近くを通るだけではまず襲ってこないし。触っても怒らない。穏やかな性格らしい。
「・・・じゃあしーちゃんは例外?」
「めぇ」
「だよねー」
じゃなきゃ上の層なんて行かないよ。だそうだ。
そもそもモンスターたちは、自分たちの層の事は大体知っているが、他の層の事は全く知らないのだそうだ。
だから、野生の動物と変わらない本能を持っている子たちは自分たちの縄張り、ようするに自分たちの階層から動かない。
別に動けないわけではないそうだ。実際に、層の移動できるのはしーちゃんが示している。
「あ、そういえば。ボスの骨ってどこにいんの?」
「・・・めぇ?」
「ああ、そっちかぁ・・・」
ちゃんとここに来るまでにボスと戦っている。
話通り、炎を纏った骸骨。近づかれる前にみんなで魔法連射で即殺。動くこともできず、碌な出来ないまま倒されてしまった。
ちなみに、宝箱は魔石オンリーでスキルスクロールはなし。キレそう
それで、肝心の骸骨なんだが。海の方にいるらしい。どこいるの?。
「まぁ、今はこっちか」
「めぇ」
「え、ボスもこっちにいるの?。早く言ってよぉ」
「めぇ!」(ブン
「フモ!」
軽くモフろうと抱き着こうとしたら先に突進されたでござる。
まぁ横の柔らかい部分で来たから柔らかくて俺が得しただけだったが。
「あ、でもここじゃあレベル上げできないじゃん」
「ワン!」
「クゥ!」
「そうだな。さっさと抜けるか!」
「めぇ」
「そんなに強くないって・・・君。下にも行ってたの?」
「めぇ」
「ああ、流石に行ってないか・・・」
「う!」
「ん?どうした?」
「う!う!」
「え、ズルイ?」
どうもしーちゃんがいろいろ言うのはいいのに。自分が情報を言うのが止められるのは納得がいかないらしい。
正確には、それを私に聴いて、もっと私を褒めろと言っている。
「・・・褒めてほしいならこっち来ればいいのに~」
「うー」(プクー
「ほほー。頬膨らませちゃって~」
「う!」(ポコポコ
「わかったわかった。今度はお前に聞くよ」
「うー?」
「本当だって。しーちゃんも勝手に言わないよな?」
「・・・めぇ」
どっちでもいいよ。って言ってる。クール羊だ。もふもふだが。
「うー!」
「じゃあ早速いろいろ聞こうかな~」
まぁあんまり核心に迫ったことは聞かないが。
とりあえず、聞いても探索に影響でなさそうな・・・ヤシの実でいいか。




