エピローグの未来のお話し 娘爆誕後
「ねぇねぇお姉ちゃん」
「う?」
「私ってさ、本当に強いの?」
「・・・うー?」
「えー?確かに雪お姉ちゃんよりは速いけどさー」
恭輔とフミの娘・・・美代は疑問だった。
毎度毎度ダンジョンに潜ろうと近場のダンジョンに行くと、その場にいる人たちにあることを言われる。
「あれが、世界最強の冒険者かって・・・」
そう言われることに不満は無い。
それだけ自分が優れているということだし、褒められているのなら悪い気はしない。
ただ、妙に実感が湧かないのだ。
最強と言われても・・・ねぇ、といった感じ。
「だってパパにもママにも勝てないし?」
「う」
「比べる対象が悪い?じゃあコロちゃん?」
「うーうー」
「もっと悪い?誰と比べたらいいのじゃあ」
「・・・う、うー」
「それだど弱すぎない?」
先ず前提として、美代の戦闘能力はかなり高い。
かつて恭輔が戦った厄災の花クラスとはまではいかないが、少なくとも昔のポヨネと同じくらいには強い。
ポヨネが結界などのサポート特化などに対して、美代は超攻撃特化なので一概に比べることは出来ないが。
ただどうしても、大門家の面子と比べると劣る。
そもそもの基礎スペックが全然違うし・・・何より恭輔との繋がりのせいで無際限に強くなれるからだ。
じゃあ何と比べるのがいいか。
冒険者と言うくらいなのだから、恭輔達以外の冒険者と比べるのが良いとニホリは言う。
だがそれと比べては自分が強すぎるということは十分に美代は分かっている。
こういった周りの環境ありきだが、美代が自分の実力をいまいち把握出来ない理由でもある。
自分がどの辺にいるのか、いまいちわからない。
だからといって困ることは無いが、そこは恭輔の娘。気になったらどこまでも気になる。
「ん~・・・やっぱり雪お姉ちゃんが一番?」
「うーうー」
「そうなんだよねぇ」
昔は病弱だったら雪。
彼女は今、とんでもなくパワフルになっている。
病弱だった体質が、ヨミ達のお陰で改善されたからだ。
元々才能があるのは分かっていたが、体の問題が解決されたことで完全に開花した。
そして彼女の本領は、二匹のヨミとのコンビネーションにある。
一人では今の美代でも勝てるが、組まれると手も足も出ない。
結果、雪と比べるのも微妙に合っていないと言える。
うーんと頭を悩ませている美代とニホリ。
そんな二人の元に、非常に頼もしい人物がやって来た。
「どしたん二人とも」
「あ、ママ」
「うー」
「あいあい。おはようさん。んで?何話してたん?」
「実はさー」
ふらっとやってきたフミに、自分の実力の話しをする。
するとフミは、結構あっさりと答えを示してくれた。
「あー。確かに美代微妙なんよなぁ」
「微妙て」
「うー?」
「うーん・・・うちらみたいなレベルには届い取らんけど、普通の人と比べるとどうしてもって感じなんよ」
「まぁそれは何となく分かるけどさ」
「せやから他の比べようとするとどうしてもーって感じなんよね」
単純な能力の面だけ見ると、近しい存在は緑になる。
あの厄災の花が転生した・・・と思われるあのドライアドだ。
彼女と雪の出会いは、それはもう大変だったのだが今は省略。
とにかく、常に彼女に背負われてダンジョンを歩き回っている彼女は非常に美代に近い存在なのだ。
「でも分かりにくいっちゃ分かりにくいわな・・・じゃあ数字で表したるわ」
「わー」
「うー」
ぱちぱちーと雑な拍手に迎えられて、フミは魔力で空中に文字を画く。
「まず一般的な冒険者やな。これの数値は大体10前後や」
「平均ってこと?」
「せやな。高い場合は大体100くらいやな」
『神に愛されしもの』『直線番長』『野菜筋肉』
ふざけた名前だが、こういった二つ名を持つ冒険者がいる。
ちなみに三人目の名前を聞いた時に恭輔は。
「・・・ほうれん草だな」
とつぶやいたとか呟いてないとか。
「んで、雪ちゃんが単体やと2000やな」
「待ってママ」
「ん?」
「・・・飛び出すぎてない?」
「いやぁ実際こんなもんやで?」
「うー・・・?」
「まぁ子供んころから色々食べさせられとるしなぁ」
ダンジョンの中には、非常に特殊な果実が存在している。
食べるだけで基礎能力を上げるという非常識な果実だ。
そして病弱だった雪の体質を治した物でもある。そんな果実を、10年近い年月食べ続けているのだ。
そら嫌でも強くなる。
「そんなことしてたの雪お姉ちゃん・・・」
「まぁ大体ヨミのせいなんやけど」
「ママの妹なんだよね?強いの?」
「そらまぁな。単体でも2万とかあるんちゃう?」
「うわぁ・・・」
「う?」
「ん?全員で纏めると?・・・10万程度やない?」
もはや美代はドン引きしている。
そしてあることに気が付く。
「あれ?雪お姉ちゃんってママレベルなの?」
「ちゃうで。美代と同じく微妙な所におる感じや」
「ほー・・・私っていくつなの?」
「1万5千やな」
「・・・高いのか低いのかわかんない」
「ちなみにニホリは一人やと5000ちょいやな」
「うー?」
「いや恭輔から魔力受け取れる時点で大抵の存在は格下やで」
「この場合パパがおかしい?」
「せやなぁ。今はもううちも勝てへんし」
「へぇ・・・どれくらい?」
「うちが一人やと7000万。恭輔が3億とかやない?」
「飛び出てるとかそういう領域じゃなかった!?」
「・・・あ、一人やともうちょい低いで?1億くらいやな」
「十分なんだけど・・・?」
伊達に神の領域に踏み込んでないということだ。
ちなみにだが、ダンジョンを生み出した存在である女神が1000万。
その娘である人型は2000万だ。これは単純な能力ではなく戦闘力なので、出来ることの多さは考えていない。
「というか、一人ならってどういうこと?」
「ん?そのままの意味やけど」
「えーっと・・・パーティを組むと強くなるってこと?」
「うーうー」
「ええ?どういうこと?」
「あれ?美代て恭輔のあの状態は・・・あ~見てないわな」
「え、パパって変身したりするの?」
「どっちかと言うと合体やな」
「え」
パパはロボットだった・・・?と驚愕する美代。
「ロボットではないんやけど・・・まぁ合体はするんよ」
「だ、誰と?」
「うちの誰かとやな」
「はい?」
「いや。誰でもええんよ実際。それこそうちでもええわけやし」
「うー!」
「ニホリと合体はせんやろー」
「う!」
「いややってニホリがいないと効率悪くなって逆に弱くなるやん」
「・・・う」
「最近やっとらんから忘れ取ったな」
「お姉ちゃんんも何かあるの?」
「簡単に言うと恭輔の外部魔力回路やな。ニホリがおらんと使える魔力の量が全然違うんよ」
「お姉ちゃんそんなことも出来たんだー」
「うーうー」
「・・・それ私も出来る?」
「あー・・・どうなんやろ。美代も結局変わりもんやからいけそうな気もするけど」
ここで美代が生まれた時の話をしよう。
まず美代は、恭輔とフミというこの星においては規格外と言ってもいい存在の力と才能を見事に引き継いで生まれている。
生れた際の泣き声と魔力の放出で、若干ロラちゃんがビビる程度には最初から強かった。
ここで大事なのは実力ではなく、才能を引き継いだという点だ。
この才能の中には、当然の様に動物関連の物がある。
その才能は変化を起こして現在ある方向に特化しつつあるのだが、今は関係の無い話だ。
「恭輔は繋がりを作るって点で怪物やから、美代でもまぁ似たようなことは出来ると思うんよ」
「おー!じゃあお姉ちゃんより緑ちゃんの方がいいってこと?」
「まぁせやな。仲がええ方がやりやすいやろうしってどこいくねーん」
話しの途中でダッシュして緑の所に向かう美代。
そんな娘の様子を見て、嬉しそうな顔で溜息をつく。
「はぁ・・・ああいうところは恭輔そっくりやな」
「う」
「まぁ話聞かんのは似んかったわけやけど」
「うー?」
「それはまぁ・・・あるやろうけど?」
「う!」
「やってラブラブやもーん」
「あ、コロちゃんタクシー!」
「アウ」
「緑ちゃんのとこまで!」
「ウ」
とても広い大門家。
実家から独り立ちした結果、恭輔の力をふんだんに使って出来た家だ。
土地も非常に広く、ただ散歩だけで小一時間無くなる。
そんな家を移動するのは、ぶっちゃけ非常に面倒。特に移動系のスキルを持ってない美代だと猶更だ。
なので美代は大抵道中で誰か見つけて、その誰かに乗って移動するのだ。
今回はコロちゃんだったので、非常に速く着く。
大体5秒くらいで。
「ワン」
「あざーす」
「・・・エ?」
「緑ちゃーん!!」(小声
庭の一角で、同じく精霊達と一緒に太陽を浴びていた緑。
そこだけ日当たりが良く、昼寝をしている子も大勢いる。
なので小声で叫ぶとか言う器用なことが行われている。
まぁ目的の緑は高速で突然現れた美代に驚いているのでそんなこと気に出来てないのだが。
「いや何してるんです?」
「あ、ぽよよもいた」
「誰が肥えていると・・・?」
「んーそこまで言ってないよー?」
大門家の小型犬リーダーポヨネ。
最近の悩みは若干小型なのか分からないくらいの大きさになってきたこと。
「って今はそこはどうでもいいんだった」
「いや大事です。私の体重は重くないんです!」
「緑ちゃん。私と合体しよう!!」
「・・・エ」
「ああ。また変な事を・・・」
こんな会話が割と日常なので、美代が変な事を言い始めてもポヨネは慣れてしまった。
だが緑は素直なので、毎回毎回理解が追いつかない。
「パパみたいにパワーアップするの!!」
「・・・あ、そういうことですか。でもまだ無理じゃないですか?」
「え?ママは出来るかもって言ってたよ?」
「そりゃ先のお話でしょう。フミなら今できるならやり方教えてくれるでしょうし」
「・・・それもそうかも」
「・・・ナ、ナンノハナシ・・・?」
「いいんですよ。まだ気にしなくて」
「うーん。じゃあもっと大人になるのを待つしかないのかぁ」
「というか普通にレベル上げだと思いますけど・・・何してるんです?」
「アワワ」
「・・・じゃ、行ってきまーす」
「ちょ美代!?もうちょっとでお昼ですよ!?」
「いらないって言っておいて―!」
まだ出来ないと言われて、いてもたってもいられなくなったようだ。
緑を鉢事背負って走り出してしまった。
もはやポヨネの制止も聞きやしない。
だが美代は忘れていることがある。
この家には家事に物凄いこだわりがある幼女がいることを。
具体的には、いきなりお昼要らないとか言われても対応出来ないのでキレるタイプの幼女が。
「うー!!」
「あべし!?」
美代の腹にニホリの飛び蹴りが刺さる。
ギャグ漫画みたいに美代だけ吹き飛んでいく。緑はニホリが『浮遊』で回収している。
「う!」
「・・・あい。ごめんなさい」
「やっぱりこうなるんですね」
大門家の日常的風景である。