534話
その瞬間。世界が変わった
「え?」
「恭輔!!」
結界の中で、恭輔が起き上がった。
痛みで悶えることして出来ず、遂には意識を失って恭輔が、今目覚めた。
だが・・・
「・・・恭輔?」
「・・・フミ?」
「どうして・・・泣いてるん?」
恭輔は泣いていた。
その目から、とめどなくあふれる涙。
それをぬぐおうともせずに、ひたすら流れ続ける。
「・・・ロラちゃん達が」
「え?・・・そういうことなのね」
「・・・どういうことや」
「ロラちゃん・・・あの子は、神力を持っていたのね」
「え?」
「そして選んだ力は・・・貴方の為なのね」
女神は、恭輔の中にあるそれが彼自身の物ではないことを理解した。
神力は、強い思いでその力を発揮する。
彼らが選んだのは、大門恭輔を支えることだった。
命が消えても、ずっと、彼を支える為だけにその力を望んだのだ。
「そんな・・・」
フミは、何も言うことが出来なかった。
いや、誰も、今の恭輔に掛ける言葉なんてないのだ。
それを、彼の涙が伝えてくる。
悲しいのだ。涙があふれて止まらない程に・・・心が痛く、それ以上に体が裂けそうなほどに。
先ほどまでの痛みなんて、気にならないくらいの痛みなのだろう。
それが、察して余りあるほどに伝わってくる。
「・・・恭輔」
「フミ・・・」
フミは、結果を抜けて恭輔を抱きしめる。
そして恭輔も、フミを抱き返す。
「なぁ・・・皆。笑っとったか?」
「ああ」
「幸せやーいうとったか?」
「ああ」
「・・・皆、幸せそうやったか?」
「・・・ああ!」
痛い 痛い 痛い 痛い
ただひたすら痛い。
でも・・・それでも止まれないことを大門恭輔は知っている。
フミを今一度強く抱きしめて、立ち上がる。
「・・・行くよ」
「・・・大丈夫なん?」
「ああ・・・応援されたからな」
応援された。背中を押されたのだ。
だったら、止まれない。
あの子達は。過去ではなく未来を掴めと言ったのだ。
そして今、自分の今の家族が戦っている。
ならば・・・止まっている暇なんてないだろう。
「フミ」
「・・・どしたん?」
「絶対に、皆で帰ってくる」
「・・・うん。待っとるよ。約束や」
「ああ。約束だ」
どちらともなくキスをする。
それは、浅いキス。本当に触れ合うだけの物だったが。それで十分だった。
「・・・行ってくる」
「うん・・・恭輔!!」
「?」
「がんばれ!!」
「ッ・・・ああ!!」
今、手が届いた。
視界に合ったのは、今にも潰されそうなコロちゃんに姿だった。
今までの俺なら間に合わなかっただろう。
だけど・・・今なら余裕だ。
コロちゃんに迫る物に触れ、その部分から消滅させる。
抵抗も、重さも感じずにそれは消える。
ああ、驚いてるな。
「おう。お待たせ・・・頑張ったな」
「・・・ワフ・・・ワフ?」
「ああ。大丈夫だよ。泣くのは後にするって決めたんだ。だから・・・後は任せろ」
「・・・ワン」
コロちゃんをフミの元に飛ばす。
他の子達は・・・ポヨネの結界で姿を隠しているのか。
なら、それ事フミ達のところに・・・
結界が消える。移動出来たようだな。
「さて・・・初めましてか?お前とは」
コロちゃんは、どうやら花が生んだ精霊を倒したようだ。
だが、花自体が進化してしまったようだ。
精霊を倒すのに全力を注いだ結果、これと戦うほどの力が残っていなかったんだろう。
無理もない・・・いや、むしろ良く勝ったものだ。
流石コロちゃん。俺の自慢の家族だよ。
「だから、俺も負けてられなくてな」
花が・・・というか、ここまで来ると木だろうよ。
太い枝を、俺に向かって叩きつけてくる。
やれやれ。さっきそれは効かないって分かっただろうに。
再びそれに触れて、蔓を消滅させる。
喋れないが、こちらの様子は見ているようだ。
視線を感じる。どこから見ているかは分からないが・・・まぁ興味もないんだが。
俺がやったのは簡単なことだ。
今の俺は、地球1つ分の力をそのままに扱える。
その力を使い、一か所に集めて触れたのだ。
それだけで、圧倒的な力の塊に触れたことで花の蔓が消えたのだ。
この花も、生れ出た物と同じで精霊と同じ存在だ。
魔力と神力を持つ規格外の生命体ではあるが、精霊という枠組みから抜け出ていない。
故に、体を構成するのは魔力と神力なのだ。
だからこそ、俺の星の力に触れることで消えるのだ。
余りの格の違いに、相手の体勝手に消えていく。
時間を掛ける気はない。
一瞬で・・・一撃で終わらせる。
「でも、ここじゃあ危ないか」
地球を・・・皆を巻き込みかねない。
花は、地球に物理的に根を張っている。
その大地を、空に持ち上げる。途中で何かの強制力が働くが、無理やり壊す。
花は俺に蔓を伸ばして妨害しようとしてくるが、俺に触れた傍から消えていく。
もはや触れることすらさせない。
蔓がダメなら神力での攻撃と思ったのだろうが、それすら無効化する。
どんどん高度を上げていく。
雲を越え、大気圏すら飛び越えて宇宙まで。
「悪いな。皆待ってるんでな」
宇宙旅行は、また今度だ。
その時、花が恭輔を見た時に・・・2人の人間がそこにいた。
「『100年前のお返しだ』」
「本気で」
『消し飛ばす!!』
俺に力が集まる。
それは法則を乱し、すべてを俺に引き寄せる。
光すら飲み込むそれは・・・ブラックホールにちかい性質を持つ。
「星の力・・・重力そのものだ」
『逃れる術はないんだよ』
「だから・・・」
「『とっとと消えろ!!』」
それを花に撃ちだす。
星々の光を、力のすべてを呑み込み、消滅させながら進んでいく。
この力の塊は、周囲の物を飲み込んで成長し、ありとあらゆるものを消す力。
花がどれだけの力を持とうと、無限に回復しようとも関係ない。
蔓を伸ばし、魔力弾、神力による衝撃波。
ありとあらゆる攻撃。花の出来るすべてを行い抵抗している。
だが、無意味だ。
俺に触れられない時点で、既に勝敗は決まっている。
「これは・・・皆がくれた物だ」
『すべてを捨ててでも。俺の未来を望んだもの達の力だ』
「負けるわけないだろ」
『勝てると思ったのか?』
「『最初から・・・この結果は決まっていたよ』」
「■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!」
体が飲み込まれるその瞬間に、花は大きな音を絶叫のように出し続ける。
まるで、死にたくないと訴えているかのようだ。
だが、既に遅い。もはやそれから逃れる術はない。
地に這っていた根から飲み込まれていき、最後に花が消えるその時まで・・・花は叫び続けていた。
そして・・・すべてが終わった。
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