533話
いつ終わるとも知れない激痛。
未来の自分との融合。そして、それが持つ強大な力を受け入れるだけの器を作り上げる。
内部からあふれ出そうになる膨大な力の奔流に、恭輔の体は限界を迎えようとしていた。
「恭輔・・・!!」
結界の外では、フミが泣きそうな顔で恭輔を見ている。
ニホリは、コロちゃんが全力を全員から集めた関係で倒れてしまっている。
ニホリだけではない。シュルちゃんに回収された神獣達。
ヨミに飛ばされた未来のニホリと人型。
そして、オミちゃんとルミネに引きずられるように戻ってきたヨミたち。
この時点で、今戦えるのがコロちゃんだけであるとフミと女神は理解していた。
しかし、恭輔の準備はまだ終わりそうにない。
いや、そもそもこれは成功するのかどうか。
体が引き裂かれそうな痛みを、恭輔は耐える。
既に未来の自分の声は聞こえない。
自分自身を消費して器を作った結果だ。自分そのものの意識すら薄くなっていき、最終的になくなっていく。
・・・そう。恭輔の中に器を作るはずの存在が消えているのだ。
これをフミや女神が知れば、失敗したと思うだろう。
だが、恭輔は・・・恭輔達はそれでいいと分かっていた。
ずっと。待っているのだ。
しかし、そこが限界だった。
恭輔の意識は、だんだんと遠くなり、暗闇の中に落ちていった。
「クッ・・・ここは・・・?」
暗い。ただひたすら暗い。
どこまでも続いているようで、すぐそこで終わってしまっているような場所だ。
どれくらい意識を失っていたのか分からない。
周囲にフミの気配もない。いや、それどこか、ここがどこなのか分からない。
実は地球じゃなかったと言われても納得してしまいそうな場所だ・・・繋がりさえなければ。
「・・・こっちか?」
何の繋がりか分からない。
だけど、これを辿らないといけない気がする。
なんとなく・・・懐かしいのだ。
繋がりだけを頼りに、暗闇を進んでいく。
先は見えない。それでも進む。
暫くすると、景色に変化が起きた。
「これは・・・!!」
うちの庭だ。
暗闇を抜けると、そこは自分の家の庭だった。
だけど、何か変だな。
なんというか・・・気配が少ない?
『ろらちゃーん』
「ッ!?」
『』(ピョコ
『うわっ!?』
少し離れたところで、少年が何かを呼んでいる。
すると庭の草から、兎が飛び出してその少年に飛びついた。
その勢いで後ろに倒れてしまうが、すぐに座りなおし抱き着いてきた兎に話かける。
『もう!あぶないでしょ!』
『』(エヘ
ちょこんと首を傾げる兎。それを見て笑う少年。
・・・ああ、そうだなぁ。
「こんなことあったなぁ・・・」
景色が変わる。
次は、少年が少し大きくなっている。
そして、その腕には白い狐が抱かれていた。
『はっちゃんやわらかいよね~』
『・・・』(フルフル
狐のお腹に顔を埋めて喋る少年。
くすぐったいのか恥ずかしいのか。しっぽを少年に軽く当てるだけの狐。
「・・・変わんないなぁ」
次々に景色が変わる。
様々な情景ってわけじゃない。全部、少年と何かしらの動物が触れ合っている所を見ているだけだ。
何の意味もないような光景。だけど、それは俺にとって大事な物だったのだ。
いつからか忘れてた物。
「・・・こんなことあったな。なぁ。ロラちゃん」
「」(・・・
気が付いたら、ロラちゃんがそこにいた。
いや、最初からいたんだろう。
ロラちゃんだけじゃない。
兎、狐、犬、猫、蛇、鳥、亀、ハリネズミ。
7匹の・・・俺の家族たち。
「久しぶりっておおおお!?!?」
飛び掛かられたんですけど???
しかもその瞬間に俺の身長が縮んだから受け止められなかったし。
「いてて・・・ははは」
「」(コテン?
「いや・・・懐かしくってなぁ」
全て思い出せる。
皆がいたこと、皆との思いで。
そして・・・皆の名前。
「兎のロラちゃん」
「狐のはっちゃん」
「犬ののんちゃん」
「猫のめーちゃん」
「蛇のりーさん」
「鳥のななちゃん」
「亀のりとちゃん」
「ハリネズミのずっさん」
それぞれ名前を呼べる。
ああ、本当に懐かしい・・・もう会えないと思っていた子達だ。
昔と変わらない。俺の記憶の中にいる元気な皆のままだ。
・・・でも、変わったなとも思う。
「ロラちゃん・・・そうか。ロラちゃんの中にいたのか」
7匹の動物たちが、1つにまとまりロラちゃんになる。
黒い、大きな2足歩行のクロロラビット。
ずっと、ずっとロラちゃんの中から俺を見守っていたのだ。
俺達が忘れていたのは、未来の存在と今の存在がロラちゃんの中に隠れていたからだ。
でも、それが今になって出てきてくれた。
「会いに来てくれた・・・ってだけじゃないんだろう?」
「」(・・・
本当は・・・未来の俺も分かってたんだろう。
俺は、今の俺ではどれだけ頑張っても星の力を受け止められないってことを。
器を作ろうとも、その最中に力尽きてしまうことを。
分からないわけがない。なにせ、未来の俺はそれが原因で全て失ったのだから。
始まりは、未来の皆が今の時間に来たことだ。
ロラちゃんを基点して、全員が時間を越えていたことを知って未来の俺は未来を掛け得られることを知った。
そして、その皆がこの時間で何をしようとしているのか・・・
恐らくそれも。本当はずっと前から分かっていたのだろう。
それを認めたから、星の力を・・・未来の地球そのものを取り込んだのだ。
そして俺にその力を譲渡しようとした。
「いつから・・・考えてたんだ?」
「」(マエカラ
「そっか・・・心配かけたよな」
「」(プンプン
「ははは・・・ありがとうな」
その結果を、知っていたのに実行しようとしたのは・・・この子達の事があったからだろう。
この子達は、未来の俺と同じことをしようとしている。
いや、逆なのか。未来の俺が、この子達のやることを理解して真似したのだ。
「全員のすべてを使って・・・俺の器になるんだな」
「」(ウン
命の器は、他の物では広げることも補強することも出来ない。
例外は、自分自身を使う場合だけ。
時間を越えられる存在のみが使える裏技。それが、未来の俺の出した結論だった。
だけど・・・そうじゃなかったとしたら。
「出来るのか・・・?」
「」(ウン
「それは・・・いやだなぁ・・・」
出来るのだろう。何年も、何十年も俺を見てきたこの子達なら。
死んでしまっても、俺の事を思ってくれていたこの子達なら。
この子達が望んだ力の形が、俺の器だったとしたら・・・出来るのだろう。
でもそれは、本当の意味での別れを意味することになる。
二度と会えなくなる。
今回の様な奇跡が、絶対に起きないということだ。
会えなくなる。本当に・・・もう絶対に。
女神から地球の管理の力を鍵として受け取ったこと。
そして、今未来の俺と一つになりかけていることで分かったことがある。
命は、延々と巡っている。死んだ命は、長い時を経て生まれ変わる。
もし、コロちゃん達の誰かが死んでしまっても、また会えるかもしれないのだ。
俺なら、生まれ変わった子達を見つけることが出来るだろう。
だけど・・・それすら叶わなくなる。
「ああ・・・嫌だ。嫌だ・・・折角思い出したのに・・・また会えたのに」
「」(・・・
分かってるのだ。俺が拒んだところで意味がないってことくらい。
融合しかかっていることで、『俺』の知っている事が本当に俺の物になってくる。
ロラちゃん達は、既に決めてしまっている。
後は・・・別れを済ますだけなのだ。
俺が拒むのも、分かっていたのだろう。
ロラちゃんが、俺の肩をポンと叩く。
「」(アリガトウネ
「・・・」
「」(タノシカッタ
「ッ・・・」
「」(ウレシカッタ
「・・・ぁぁ」
「」(アタタカカッタ
「ああ!」
「」(ミタサレテイタ
「ああ!!」
「」(ミンナガイテ
「・・・」
「」(シアワセダッタ
「・・・俺もだ・・・俺もだ!!」
「」(ダカラ・・・
「「「「「「「キョウスケ!」」」」」」
「ッ・・・皆?」
アリガトウ・・・デアッテクレテ・・・ダキシメテクレテ・・・アイシテクレテ
「「「「「「「アリガトウ!!」」」」」」」
「ッッッッ・・・あああああああああああ!!!!!!!!!」
ガンバレ
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