532話
大体最後まで書き終わりました。
後は忘れずに投稿するだけですね!!
始めにあった力関係が逆転していた。
いや、実際はまだ滅霊の方がエネルギー量・・・神力の総量は多い。
だが、その扱い方に問題がある。
滅霊は確かに、様々な要因で神力を獲得するまでに至った。
だが、だからといってそれを即座に使えるわけではないのだ。
本能的に使うには、神力という力は特殊すぎる。
魔力の延長線上でしか扱えない滅霊は、それの性能を半分も使えてない。
それに対して、コロちゃんはどうか。
コロちゃんだけで考えるのなら、この点でも劣るだろう。
しかし、今のコロちゃんはただのコロちゃんではない。
未来の自分と融合し、家族たちすべての力を自分に束ねている状態。
それは、力だけでなく才能その物すら集めきっている状態なのだ。
100年という長い間、後悔し続けた自分が積み重ねた全て、そして、過去も未来も関係なしに家族の思いを預かった。
それがある限り、負けるわけがないのだ。
「■■■!!」
「ガウ!!」
海上に張り巡らされた結界の上を、2つの光が駆け巡る。
紫の光りが逃げ、蒼い光がそれを追う形になっている。
真正面から戦っても、勝てないと言うことが分かっているから。そして何より、この存在は自分を殺せると理解したからだ。
強大な力を持つ滅霊だが、まだ生まれて間もないことには変わりない。
故に、死の恐怖に耐えられないのだ。
言葉すら忘れて、逃げ回る。
一方コロちゃん。
状況を見れば、圧倒的なまでに有利な状態だ。
しかし、実態はそうではない。
確かにコロちゃんは、力の総量。その扱い共に最高潮の状態だ。
その力は、まさに向かうところ敵なしな状態・・・だが、当然欠点がある。
力の消耗だ。
総量で負けている以上。先に力尽きるのはコロちゃん側だ。
だからこそ本気で追いかけ、先に倒そうとしているが追いつけていない。
膨大な力を、恐怖に駆られている滅霊は加減をせずに爆発させて逃げている。
それはそれで消費は大きいが、それでもこのままだと先にコロちゃんの力が尽きる。
その前に捕まえきれないのならば・・・いや、コロちゃんの力の消費に気が付かれた時点で敗北する。
故にコロちゃんは。もう1つの札を切った。
「ワン!!」
コロちゃんから発せられる圧力が爆発的に増える。
スキル『昇華』ハクコちゃんが持っている物だ。それを使用したのだ。
消耗は激しくなるが、その分の成果はあった。
「グラァウ!!!」
「ギィィ!?!?」
倍以上に速くなった速度で滅霊に肉薄し、一気にぶった斬る。
口に咥えるように生やした魔刃が、滅霊の胸を切り裂く。
痛みなどないはずなのに、滅霊は悲鳴を上げる。死に追いつかれたからだ。
がむしゃらにコロちゃんを追い払おうと、闇雲に神力を爆発させる。
コロちゃんは後方に回転しながら飛び退きそれを回避する。
だが、滅霊はそれに違和感を覚えた。
なぜ、今のは斬られなかったのか。
いや、今あの存在が出している物は、青い刃だ・・・
その時点で、コロちゃんも気が付かれたと察した。
先ほど出した白い刃。
あれは、現時点でコロちゃんが出せる最高の刃だ。
故に、出すのには相応の集中が必要になる。
止まって、姿勢を整えないと使えないくらいには。
走り回ったり、相手を斬ろうとすると刃が維持できないのだ。
だからこそ、こうして逃げ回られると使えない札になってしまう。
滅霊が、そこに気が付いた。
それは、滅霊にとっての朗報で、コロちゃんにとっての悲報だ。
なにせ、自分を殺しうる手段が一つ減ったのだから。
それに、自分が逃げ回るだけでいいのだから。
コロちゃんからしたら、相手を追いつめる手段が減ったことになる。
逃げる最中に回避できない攻撃が来た場合。大きく距離を離すといったことをしないといけないからだ。
それに気が付いた滅霊が、コロちゃんに向かって魔力弾をばらまき始めた。
神力を使った攻撃ではない。逃げ惑う最中に吸収した魔力だ。
花からではなく、本体が吸収した物。恭輔や人型が用いる方法と同じだ。
紫のおびただしい量の光が、コロちゃんに迫る。
これは切らなくていいと判断したコロちゃんは、弾幕の隙間をすり抜けていく。
だが、滅霊のいた場所には何もいない。既にその場から離れていたからだ。
「・・・グルルル」
「フゥー!」
数秒のにらみ合いの後、再び光が走る。
近づこうとするコロちゃんと、近づけまいとする滅霊。
青い光が駆け巡り、紫の光がそれを迎撃する。
時折刃は滅霊の体に届くが、速度に慣れてきたのか徐々に当たりが浅くなってきた。
刃を伸ばしても、その分の距離を離されてしまう。
最高速度では勝っているのに、こちらの動きを止めるような攻撃。
コロちゃんは、自分の強みが死んできていると自覚していた。
最初にやられた脚は、既に治している。ロラちゃんが持たせてくれた薬を、ユニちゃんが使ったからだ。
だが、それでもそもそも動きが止められるのでは意味がない。
時折接近出来るのは、その分だけ『昇華』の効果を上げているからだ。
消費がより大きくなる。
コロちゃんは、自分が今の状態で戦える時間の限界が後数分であることを分かっていた。
だから、今ここで全力を注ぐことに決めた。
動きを完全に止めて、再び姿勢を低く保つ。
それを見て、滅霊は再びあの白い刃が出てくると思い、速度を重視した攻撃で妨害を試みる。
高速で接近する攻撃だが、コロちゃんは動かない。それどころか、目を閉じている。
そして、遂に攻撃が当たるというその時・・・攻撃が消えた。
滅霊は、それを理解出来なかった。
斬られたわけではない。文字通り消えたのだ。
神力の塊として撃ちだした攻撃が、コロちゃんの鼻先で消滅した。
何が起きた。それを考える暇もなく。滅霊の体を恐怖が走る。
既に、それは完成していた。
コロちゃんは、白い刃という最高点を今この場で越えようとしたのだ。
それは、何もかもを切り裂く刃。
射程も、位置も、何もかもが関係のない最強の一振り。
白い刃が、ありとあらゆる物を切り裂く刃だとすると、今コロちゃんが作り上げた刃は・・・
そこにあるだけで、斬ったことが確定する刃だ。
無色透明。だが確かにそこにある。
見ることは出来ず、触れることも出来ない。感じることすらできないその刃だが、確かにそこにある。
今確固たる決意を持って・・・目の前の存在を斬る為だけの刃がある。
攻撃が消えたのは、この刃が完成したからだ。
その刃は具体的にどこの部位にあるというわけではない。
あるとするならば・・・それは彼自身がそうなのだろう。
滅霊は見た。
目の前の狼に、より大きく巨大な何かと、多くの存在がそこにいるのを。
その視界を最後に、滅霊の視界は2つに割れた。
「・・・ハッグ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
むせこみそうになるのを、無理やり押さえつける。
限界を大きく超えた1撃。
今にも吐き出してしまうそうなほどだ。
だが、その甲斐あったと言える。
間違いなく、自分の刃は滅霊の命に届いた。
斬った感覚が、間違いないと訴えてくる。
しかし何故だろうか・・・自分の本能がまだ危機を訴えている。
その本能に無意識に従い、体を倒れるように横に倒す。
その瞬間、海中から蔓がコロちゃんを貫かんと現れた。
「・・・グルルル」
「■■■■■■!!!」
その蔓は、即座にコロちゃんを縛り上げる。
滅霊は、確かに死んだ。
だが、花は生きていた。ヨミたちの結界によって魔力を奪われ、枯れるのみだったはずの花だ。
考えてみればおかしなことではない。
滅霊は、元を正せば精霊だ。
故に、その体には意味がない。本当に大事な部分は、すべて魔力にある。
それが神力に置き換わったのが滅霊だが・・・それは適応した結果である。
では、花はどうか。滅霊が育つための揺り籠であったそれが、同じように神力に適応出来ないことがあるのだろうか。
答えは否だ。当然のように花は進化し、その体を神力を宿すまでになった。
そこに、先ほどコロちゃんに斬られた滅霊の力が流れてくる。
自分の分身とも言える存在が倒されたと言うことを、それで悟った。
故に、自分を倒した存在を消すために、ここまで来たのだ。
海中から、巨大な花が現れる。
コロちゃんがその花を始めて見た時と比べて、遥に大きく、とげとげしい形状になっている。
今自分を縛っている蔓も、棘の様な物が生えており体に刺さる。
血が流れるが、既にボロボロな体では痛みすら感じない。
それは、コロちゃんにとっては幸いな事であった。
自分を縛る蔓を切り裂き、結界の上に落ちる。
震える体をしかりつけて、強引に立たせる。
体から生やした魔刃で、倒れる体を支える。
コロちゃんは、未来の恭輔が暴走しないと勝てなかった相手・・・それをさらに強くした相手に勝った。
それは、本来ならば未来を変える大きな出来事だったはずだ。
だが・・・現実は非情だった。世界は、それほどまでに残酷であった。
既に死に体のコロちゃんに、確実に止めを刺そうと、花はその大きな蔓を振り下ろす。
最後の瞬間まで、コロちゃんは視線を逸らさない。
それは、自分こそが恭輔を守るのだという意思なのか。それとも、ただ負けたくないという意地なのか。
既に、動ける存在はいない。コロちゃんを救える存在は・・・どこにもいない。
圧倒的な質量が、自分を押しつぶすのだろうというイメージが簡単に湧く。
コロちゃんは・・・それでも花を睨んだ。
その視線を感じ、花は一瞬怯んだ。
その一瞬が・・・彼を間に合わせた。
「おう。お待たせ・・・頑張ったな」
「・・・ワフ」
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