529話
自分が沈んでいることを認識した瞬間に、急いで海上に飛び出る。
何が起きた。まただ、また理解の出来ない攻撃だ。
先ほどと違って、強い力で押されたのではない。
海中に沈む勢いで強制的に移動させられたのだ。
空中に勢いよく飛び出ようとしても、何故かある一定高度で動きが止められ、再び下に落される。
これは一体・・・?
「ルールの強制」
『私たちの結界は、空間を分ける以外にも当然能力があります』
「それが、指定した空間にルールを定めることです」
『例えば、中にいる生物の魔力がなくなっていくとか』
「ある一定の高さ以下で戦わないといけないとかね」
これが、滅霊を海中に沈めた正体だ。
滅霊がいる戦闘空間を、自分達の定めた決まりで縛り付けたのだ。
だが、これではまた滅霊の動きを止められない。
なにせ高く上がらなければいいだけなのだから。
それはヨミたちも分かっている。
これは、彼らの為の舞台づくりに過ぎない。
「そんなわけで、後は頼みますね?」
「ワン!」
彼らが来た。
『あれの強さの根本は無くなってます。だから後は思う存分やっていいですよ』
「ぴぴ!!」
「それでも、まだまだ強敵。基本的には勝てる相手ではないのは分かってますね?」
「きき!」
『だったら』
「『全力全開でぶつかりなさい!!』」
「ただし、死なない程度に」
ヨミたちは、それを最後に下がっていった。
結界を張っただけのヨミたちだが、その実消耗は激しかった。
なにせ星一つに寄生する存在に対しての結界だ。
もはやそれは、地球全体を覆う結界とほぼ同規模になる。
それだけの結界を。ちゃんと効果を出して維持するのは、いくらヨミと言えど限界だった。
それに戦闘ルールの強制結界まで張ったのだから、魔力は空に等しい。
最後に残した力で、自分達を恭輔達からも離れた陸地に飛ばした。
そして、力尽きて倒れた
『あ”あ”~・・・ガラじゃないことしたなぁ』
「いいじゃないですか。一生で一度の本気ってことで」
『はぁ~・・・ここまでやったんです。負けたら承知しませんよ?・・・恭輔さん』
「キィ?」
「ああオミちゃん・・・動けないんで連れてってもらえます?」
「・・・キィ」
『お願いしまーす』
滅霊の目の前に立っているのは、今まで立ち塞がったのは今までに比べて弱い存在だった。
魔力も何もかもが格下。
今まで戦った者たちも下の存在ではあったが、それぞれが特殊性を使って戦っていた。
故に、今回もそのような連中なのだろうと滅霊は判断した。
だからこそ、速攻で決めるために攻撃を仕掛けた。
自分の魔力速度が遅くなっても、それでもまだ魔力は膨大。
小細工などさせずに潰すために、空を覆い隠すほどの紫の槍を生み出し振り下ろした。
何故か海上に立っているコロちゃん達。
それを簡単に隠すように槍があたりを埋め尽くす。
終わったと、滅霊は思った。
自分の腕が切られた瞬間を認識するその時までは。
「■■■■■■!?!?」
人型に体を抉られた時より激しい痛み。そして喪失感が滅霊を襲う。
自分の中の、何かを奪われた。
それは分かったが、それが何かを考える暇はなかった。
雷が滅霊を打つ。炎が焼き尽くす。風が切り刻み。水が撃ち抜く。
何だ。何が起きている。
確かに倒したはずだ。
「倒されてないから、今こうして攻撃食らってるんでしょう?」
「■■!?」
一瞬攻撃が止んだと思ったら、何か透明な物質に押しつぶされる。
動きを止められた瞬間に、横から急に現れたユニちゃんに蹴り飛ばされる
「るる!」
「ニャ!!」
「グゥァ!!!」
命令を受けて、巨大な猫の手に捕まえられ、そこを強く殴り飛ばされる。
「上げてください!!」
「グォォォ!!」
滅霊の顎を、カルちゃんのアッパーが捉える。
その瞬間に、ふーりんちゃんが手を離すことで空中に飛ばされる。
高度が上がると、結界のルールで下に戻される。
そこを再び透明な何かが横から打ち付け吹き飛ばす。
その先にいたのは、青い光を纏い、目を赤く光らせた1匹の狼。
ただ待っているだけではない。
1歩踏み出す度に、加速する。
風を置き去りにし、音を越え、光すら切って加速し始める。
「ガァァァァァァァ!!!」
全身を一本の刃にし、すべてを切り裂いてコロちゃんは進む。
もはやその目には、1体の精霊しか映していない。
ここにきて、初めて滅霊は感じた。
目の前に迫った、死の恐怖を。
だが、その時には既に遅い。
すでに刃は、その身を切っていた。
「・・・ワフ」
光が霧散する。
コロちゃんを覆っていた『魔刃』が消えたのだ。
切ったと同時に、魔力を奪った。
だからこそ、滅霊は恐怖を感じたのだ。
魔力は、滅霊の命そのもの。それが奪われると言うことは、文字通り死に繋がる。
人型の強烈な一撃や、ハクコちゃん達の未知の攻撃ですら感じなかった死。
コロちゃんだからこそ出来たことだ。だからこそ、最後の一撃はコロちゃんと決まっていた。
相手がこちらの戦力を認識する前に、倒しきる。
人型や神獣も、当然倒す気で戦っていた。
だが、倒しきる手段を持っていなかったが故に、出来なかった。
それを、彼らは成し遂げた。
偉業だ。この時点で、未来の彼らを越えている。
「・・・魔力反応無し・・・私たちの勝ちです!!」
「クゥ!」
「ぴぴ~!!」
「きっき♪」
完全に魔力が消えた。
コロちゃんに力を奪われたことで、体を維持するだけの魔力も無くなったのだ。
勝利を喜ぶ皆。
その中で、コロちゃんだけがまだ滅霊のいた場所を睨んでいる。
「・・・グルルル」
「コロちゃん?どうしました?」
「ガウ」
「え?・・・まさか!?」
ポヨネも即座にそれに気が付き、全員の前に結界を張る。
次の瞬間、すべてを吹き飛ばす神力の暴風に襲われる。
ポヨネがそれに気が付けたのは偶然だった。
コロちゃんから流れてくる僅かな神力。
ヨミから受け継いだ才能とそれが合わさり、本来は感知出来ないはずの力を見ることが出来たのだ。
だからこそ、その一撃を・・・いや、ただあふれ出た神力を受け止められたのだ。
「・・・嫌な予感的中ですね」
「めぇ」
「!!」
滅霊が、神力に対応したのだ。
これは、想定はされていた自体だ。
元々の滅霊は、ただのものすごく強い精霊と言うだけだった。
それが、未来からの干渉や様々な要因で、より上の存在へと進化していたのだ。
そこに、神獣達などの強力な存在との戦い。
最後には自分自身の死を感じるという、この上ない経験を手に入れてしまった。
だが、今のまま戦ってもまた魔力を奪われて終わりになる。
そう判断したからこそ、滅霊は新たな力を・・・神力と言う力を手に入れることを選んだ。
地球に根を張ることで、疑似的なつながりを得ていた滅霊だからこそ出来た。
かつて暴走した恭輔が、フミも知らないような攻撃を行えたように。
地球から力を引き出したこと、そして今まであった未来を変える為の反動もありで、無理やり自分自身を変えたのだ。
「・・・ヨクモ」
「あら。知能まで手に入れましたか」
「オマエラ・・・コロス」
「ワフ」
「ぴぴ」
「ええ。まぁ知能面は気にしなくていいですね。所詮は生まれたてです」
問題は、神力を手に入れてしまったことだ。
「ワォォォォォン!!」
それでもやることは変わらない。
ただただ・・・戦うだけだ。
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