528話
人型とニホリ、そして滅霊の戦いは既に30分を越えていた。
これは、女神や未来の恭輔が予想していた時間をはるかに越える時間だ。
回復できるとは言え、自分自信を削りながら戦う方法は、効果的ではあった。
肉体面では、無限に戦える・・・肉体面では。
「ハァ・・・ハァ・・・」
「■■■■■!!」
「グッ」
ダメージを外からも中からもずっと食らい続けている人型。
肉体面では、確かにすぐに回復が出来る。
だが、痛みを常に感じている状態は、大きく精神をすり減らす。
そして、この長期間の戦いは滅霊が手を抜いているというのもある。
確かに始めは自分の脅威になると思っていたが、明らかに自分との出力に差があると分かってしまったのだ。
だからこそ滅霊は、この相手に対して手を抜き始めた。
何より、いつまでもその戦い方が出来るわけだないと判断したためだ。
自分がその気にならずとも、勝手に自滅していく。
事実、ニホリから体力を供給されているにもかかわらず、人型の動きは戦闘開始時と比べて精彩を欠いている。
今も滅霊の放った魔力の塊を躱せずに相殺するために迎え撃ってしまった。
そのさいの衝撃で、体は大きく後ろに下がってしまう。
追撃はない。ただその場から動かずに、まるで見下しているかのようにそこにいるだけだ。
いや、もはや追撃は不要であろう。
「・・・」
もはや腕も上がらない。
体は動くはずなのに、心がついてきていない。
痛い。ただただ痛い。
だがそれでも、人型は魔法を行使する。
「■」
「・・・」
声も出させなくなったのか。何も言わずに魔力球を撃ちつ続ける。
禄に狙いも定められず、滅霊も最低限の迎撃しかしていない。
もほや、この存在の脅威はなくなった。
その場を離れて、先に進もうとする滅霊。
そもそも、この存在はどこに行こうとしているのか。
本人に、自覚はない。だが、確かに滅霊は高いエネルギーに引かれる。
今狙っているのは、女神と恭輔だ。
ゆっくりと、その場を離れようと人型の隣を通り過ぎる。
その時、滅霊の空間が歪み、後方に吹き飛ばされた。
「■!?」
想定していなかった攻撃・・・攻撃?もはやその認識すら危うい。
誰が今こちらに干渉してきたか。
いま滅霊の近くには人型とニホリしかいない。
だが、あの人形は・・・ニホリは戦闘に参加していなかった。
故に、戦力でないと判断していたのだ。
「・・・問題・・・ない」
「・・・■■■」
動けなくなった人型が、再び動いた。
最後の力を振り絞り、ニホリに手を伸ばす。
狂ったニホリは、その手を見つめる。
彼女に残っているのは、自分の家族の幸せを奪った対象への復讐心。
それを果たすために、狂ったのだ。
正気を失っても、成し遂げたいと願ったから。
今のニホリは人型が滅霊と戦うための道具の一つにすぎないような状態だった。
故に、ニホリはその行動には反応しない・・・はずだった。
「ァァ・・・」
「ニホリ・・・」
手を伸ばし返す。
まるで、迷子の子供のように。
いや、ニホリは迷子そのものなのだろう。
恭輔がフミを殺したあの時から。
ありふれていたはずの幸せが、崩れ去ったあの日から。
人型にすべてを託しても、どこまで行っても1人だった。
人型は、自分の残った力をニホリに託そうとしていた。
残った力と、自分に出来る全ての技を。
それをすれば、人型は消えるだろう。
ニホリは、無限に肉体のダメージを回復して受け渡せる。
だが、昔にニホリは筋肉痛になったことがあった。
これは、ニホリの肉体的な疲労によるものではなく動いたことで疲れたと心が認識していたからだ。
それは、今も変わらない。
どれだけ回復出来ても、ニホリは戦いに向いていない女の子。
いつまでも戦えるわけだないのだ。
それに、既に心が壊れかけているニホリだが、辛うじて大事なことをまだ覚えている。
その残った心が、限界を生み出していた。
本当に壊れたのなら、そんなことを考えずに済んだのに。
お互いに分かっていた。
これ以上は壊れてしまうと。
心が、体が・・・魂が。何もかもが壊れてしまうと。
だけど、それでも止まれなかった。
壊れたとしても・・・戦うのだと。
滅霊は、無駄なあがきだともはや止めもしない。
人型とニホリ。両方を止めることのできるん存在はこの場にはいない。
手と手が触れる・・・寸前で何者かに腕を掴まれた。
「いやそれは駄目でしょう?」
『そうですよ。そんなことしたら、恭輔さんと女神様に怒られますよ?』
「・・・え?」
「・・・ァ?」
いないはずだった。
人型もニホリも滅霊も、自分達以外は何もいないと思っていた。
いや、確かにいなかったのだ。
人型は、神獣達の瞬間移動を疑うが、その様子すら存在しない。
「そらそうでしょ?結界の応用・・・空間の操作は私たちの十八番ですし」
『気が付けるはずないでしょ?子供と星に救う害虫風情が』
完全にキレている。
滅霊にもそうだが、それ以上にニホリ達にキレていた。
約束を破って、無茶をしようとしたからだ。
「さぁ。出番は終わりです。後はゆっくり休んでください」
『シュルちゃん。お願いしますね』
「シャ!」
巨大な鳥に、ヨミがニホリ達を乗せる。
結界を固定具の代わりにして、落ちないように。
「ま、待って」
「待ちません」
『今の状態でも結構危ないんですから。というか、それは使わないって話だったでしょう?」
「でも・・・!」
「魔力の吸収と特定部位の増幅。そして何より自分の特性を活かした自爆特攻。怒られる事しかないですね」
『全く良くもまぁここまでの無茶をと言いたいですが・・・よく頑張りましたね』
「全くです。おかげで張り切りたくなっちゃったじゃないですぁ」
『同意見ですねぇ・・・だから。後は任せてください』
「・・・わかった」
「ニホリちゃんもいいですね?」
「・・・ウ」
「お、戻ってきましたね。それは朗報」
「■■■!!」
いつまで話しているのかと、滅霊が攻撃を仕掛ける。
それを見ることもせずに、結界で受け止めるヨミ達。
その攻防を確認して、人型は違和感を覚えた。それは、滅霊も同じだった。
「あら?ようやく気が付いたんです?」
「・・・何を」
『ふっふー。無茶した子には教えません!帰って休みなさーい!』
「待って!?」
シュルちゃんが2人を乗せて高速でその場を離脱する。
その速度は、フミに言ったとおりの速度だ。
本気になったヨミやフミでも追いかけることが難しいほどの速度だ。
「■■■」
「おやおやぁ?何されたかわかってないんですかぁ?」
『ちょっと考えれば分かるででしょうに・・・あれ?そもそも言葉は通じるんですかね』
「知りませんよそんなこと」
『まぁ種明かしは続けるんですけど』
「■■■!!」
滅霊は海中から根を生やし、ヨミたちに叩きつけるがそれも防がれる。
「私たちがやったのは単純明快。結界を張っただけですよ」
『もちろんですよねぇ?だって私たちが一番得意なのはそれなんですもん』
「張った対象は当然貴方ですよ」
『ただし、貴方を・・・貴方の魔力の供給減であるあのバカでかい花事覆いました』
「貴方が星に張り巡らせた根全てを含めて・・・ね?」
何を言っているのかは、滅霊には理解できなかった。
だが、自分に何が起きているのかは分かった。
今まで繋がっていたはずの星との繋がりが、すべて切られている。
「結界の本質は、空間と空間を仕分けること」
『貴方と花を結ぶ繋がり。そして、花の持つ星に張った根っこ』
「それらすべてを、隔離したんですよ」
『だからあなたはこれ以上回復できません』
自分の魔力が一向に戻らない。
だから先ほども想定していた威力が出なかったのだ。
だがそれなら、再び繋ぎなおせばいい。
「・・・■■!?」
「驚いたでしょう?」
『だって・・・もう花がないんですもん』
突如として起きた超常現象。
それを確認するために、各国は衛星からの確認を行っていた。
驚いたことだろう。
太平洋上のあった巨大な花が、朽ちているのだから。
「あの花だって魔力が養分でしょう?」
『魔力を対象から抜き取るのって、もう経験したことあるんですよね~』
ヨミたちが時間を掛けて準備をしたのはこれだった。
花から伸びた根を全て把握し、それらすべてを結界で覆った。
そして、花から滅霊が出ていったタイミングを見計らって花から魔力を少しづつ抜いていったのだ。
本来は時間のかかることだが。何十何百に多重に結界を張ることで魔力を短時間で抜き取ったのだ。
そして、さらに一手ヨミたちは動く。
「・・・ニホリちゃん達、怒ってましたね」
『ええ・・・でもね?私も結構怒ってるんですよ』
ヨミの性格は、分かって言う通りに明るい。
悲しいとかのマイナス面の感情をあまり表に出さないのだ。
そして、感じにくいというのもある。
だが、そんなヨミだからこそ今の今まで自覚できなかったことがある。
『私・・・好きだったんです。皆を見るのが』
『雪ちゃんがいて。お姉さまがいて、恭輔さんがいて』
『ダンジョンにいたころとは比べ物にならないくらいの幸せがそこにあったんです』
『その幸せを見るのが。近くで感じるのがたまらなくいとおしい物だって』
『えぇえぇ。あなたは悪くないと思ってもいるんですよ』
『だって、あなたは生きたいと思っただけ』
『生物的な本能を従っただけで、悪意何てないんですから』
『でも・・・仕方ないですよね?』
『だって貴方は未来を奪う存在』
『私の大事な物を壊すモノ』
『手加減なんていらないですよね?』
『本気で・・・全力で・・・真剣に・・・』
『貴方に嫌がらせです☆ミ』
その瞬間、滅霊は海中に叩き落された。
よろしければ評価やブクマ登録お願いします




