表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
551/567

527話

「なぁ・・・なぁ!あれホンマに大丈夫何か!?」

「・・・何とも言えないのだわ」


フミと女神の前で、恭輔がもがいている。

体内から体を突き破ろうとする力の奔流に抗っているのだ。


だが、声は聞こえない。


「まぁお姉様も恭輔さんの悲鳴何て聞きたくないでしょうし」

「・・・」

「あらま聞いてない」

「貴方は心配じゃないの?」


今の時代のヨミが来て、音を遮断する防音結界を張ったのだ。


そして、ヨミは結界の中にいる恭輔をただ見ているだけだ。

心配しているわけでもない。ただ本当に見ているだけなのだ。


女神の問いに関しては、こう答えた。


「はい?心配ですか?」

「ええ。あなただって親しい間柄のはずでしょ?」

「まぁそうですけど・・・この程度ならねぇ」

「え?」

「星一つ。丸っと食べてくれないと困りますよ。なにせ、お姉さまの旦那様ですし」

「ヨミ・・・」

「あ、お姉さまはそのまま心配しててくださいね?こちら側の声は聞こえるようにしてますから」

「・・・う?」

「応援してってことですよ・・・む」

「ッ・・・早かったわね」

「ええ。もう抜かれましたか」

「え?」

「神獣組が負けました」

「な!?・・・大丈夫なんか?」

「ええ。何とかですけど。回収はシュルちゃんに任せてますので時期に戻ってくるはずです」

「シュルちゃん?」

「ちょっと力を貸しまして、離脱するだけなら天下一ですよ」


遠くの方で、力のぶつかり合いが終わった。

当然ながら、残るのは花の・・・いや、完全に出てきた精霊の魔力のみ。


この中で神力を感知出来る唯一の存在である女神は、急激に神獣達の神力が減っていくのが分かっていた。

幸い、回収が間に合ったようで命を失うことはなかったが。


「さて、そろそろ行きますね」

「行くんか」

「ええ。私も待ってますし・・・そうですね。上手く行けばコロちゃん達の前には出番ありそうですね」

「・・・無理せんといてな」

「当然です。だって私、まだ食べたいものありますもん」


そう言って、ヨミも戦いの場に向かった。

残るは、恭輔を見守る彼らのみ。


「・・・ニホリちゃんも、休んでていいのよ?」

「う?」

「貴方の出番はもう少し後だから」

「・・・うーうー」

「いいの?」

「う!」


ニホリは、フミと共にずっと恭輔を見守っている。

自分の家族は、既に戦っている者もいるのに、自分だけ休んではいられない。

応援しか出来なくても、やれることがあるならやりたい。

その決意と共に、恭輔を見守るのだ。


それに、今のフミを1人にしたらダメだと思う。

フミと一緒に、応援するのだ。



















海上で、人型は1人で佇んでいる。

空を見上げ、何も映していないようなその瞳は、唯々青い空を映している。


思い返すのは、自分と彼女達が初めて出会った時。

未来の自分は、あまり変わっていないと思った。

未来の彼女は、あまりにも変わりすぎていた。


自分に引きずられるように現れた彼女の目には、怒りしかなかった。

・・・似合わないと、素直に思った。

いつもみたいに笑って、幸せそうにしていてほしかった。

それが、自分の中の感情なのか、未来の自分の感情なのか。

感情と言う概念が希薄である人型にはそれがよく理解できなかった。


だが、それでいいと思っていた。

自分はそういう存在。それでも、友人と呼んでくれる存在が出来た。

だからこそ・・・今ここに至るまでの過程に後悔はない。


そして・・・今から起きる事は、出来るなら彼には見ないでほしい。


「・・・来たよ」

「・・・」


人型の隣には、人形があった。

その人形の目には、赤い、血の様な涙があった。


「悲しみがあった」

「・・・」

「悲劇だった」

「・・・」

「でも・・・大きいのは怒りだった」

「・・・ァァ」

「貴方はそのために。私はこのために」

「ァァァ」

「狂気に身を犯されても・・・必ず成し遂げて見せる」

「アアアアアアアアアアア!!!!」

「私たちの復讐を」

「■■■■ァァァァ!!!」


その瞬間、滅霊を含めたすべての物の動きが遅くなった。


「■!?」

「悪いけど」

「!?!?」

「一方的にやらせてもらう」


ニホリの持つスキルは、どれもこれも攻撃には向いていない。それどころか、戦いことすら向いていない。

本人の性格も相まって、戦うことなんて考えられないような存在。

それがニホリという、人形として生まれた彼女の性質だった。


そんな彼女が戦うにはどうしたらよいか。

簡単な話だ。誰かの力を使えばいい。

ニホリ達の人形の特徴・・・存在を問わずに周囲の力を吸収すること。

そしてその力を、自分の物として扱うことが出来る。


ニホリやアリシアは、その力を自分の体の維持にしか使っていない。

だが、それを全てスキルに回すとどうなるか。

しかも、長い時間をかけて吸収し、溜め込んだ力はどうなるか。

今まさに、目の前で人型に殴られている滅霊と同じような事を未来から来たニホリはしていた。

だが当然。ニホリにそれを受け止めるだけの器はない。

当然・・・正気を失う。


「■■!」

「うるさい」

「ァァァ!!」


自分を殴り続ける人型が鬱陶しくなったのか、今まで動きの遅さに戸惑っていた滅霊が反撃を行おうとした。

殴られながらも、人型の顔を滅霊の蹴りが捉える・・・寸前で空ぶった。


「■!?」

「無駄」


その隙を逃さず、魔力を高めた拳を逆に顔面に叩き込む。


何が起きたのか。滅霊はそれを全く理解出来ていない。

今確かに、自分の攻撃は当たっていたはずだった。

軌道もタイミングも完璧。回避はあり得なかったはずだった。だが、実際には外れた。


当然。原因はニホリだ。

人型より後方で、滅霊に対してスキルで干渉しているのだ。

正確には、滅霊の周囲の空間をだ。


滅霊は、それが持つ膨大な魔力のせいで周囲の空間ごと歪ませてくる。

それのせいで、フィニちゃん達の攻撃のほとんどが軽減または無効化されてしまっていた。


今ニホリはその空間を浮かせているのだ。

対象の存在がいる座標を指定。その部分にだけ『浮遊』を使う。

すると、そこを通った対象の動きがおかしくなるのだ。

ただ浮かすだけでは、こうはならない。ニホリは、僅か1ミリの範囲指定で相手の動きを狂わせていた。


正気を失ってなおこの芸当。

これにも当然訳がある。


「■ァ!!」

「ん」


人型が、滅霊の拳を受け止める。

受け止めた衝撃波、まるで綿毛のように軽い。


「ただで狂ったわけじゃない」

「■■■」

「お前には分からない」


人型が手のひらで拳を受け止める瞬間、ニホリは拳の通る座標全てに干渉した。


先ほど戦った神獣達。

あれらの用いる感知できない力は、確かに自分を傷つけるほどの脅威であった。

しかし、あれはその力の特殊性があってこそだと、滅霊は本能的に察していた。


だが、今目の前自分を一方的に攻撃してくるあれらはなんだ。

自分の攻撃がことごとく無効化される。


まるで、自分の攻撃から重さがなくなったようではないか。


「正解」

「■■■!?!?」

「逃がさない」


無属性を示す白い魔法光が、流星のように滅霊を追いかける。

それは滅霊に当たる寸前で、滅霊が放った衝撃波によって消されてしまった。

だが、それは囮だ。


「本命はこっち」

「■ギギャ!?!?」

「・・・喋れるなら叫ぶな」


がら空きになった背中に、連打連打連打。

ありったけの魔力と力を込めて殴り続ける。

徐々に周囲に巻かれていた魔力が削られていき、滅霊が無意識に出していたバリアを破る。

そしてついに、完全に拳が入り、滅霊の体をえぐった。


滅霊を吹き飛ばした人型の額を汗が流れる。

人間をはるかに超えた性能を持つ人型の体が、今の一連の攻撃で悲鳴を上げ始めていた。

人型の保有する魔力は、実際のところは無限に近い。

これは、女神が自分を補佐するために作り出した存在であるが故に、外部から魔力を吸収出来るように設計しているからだ。

これを、恭輔に教えたことで彼の強化にもなったのだ。


だが、そんな彼女の体が、限界を迎えている。

想定されている限界を超えた出力で戦っているのだ。

当然。吸収する魔力も普段とは比べ物にならない量だ。


しかし、そんなことは想定内だ。


「ニホリ」

「ァァァ!!」


ニホリが、人型に向かって手を差し伸べる。

それに人型が振れると、人型の限界を迎えていた体が回復していった。

これもニホリからしたら特別なことをしたわけではない。

恭輔達に魔力を受け渡すのと同様に、自分の体力を渡したのだ。


渡された体力は、あっという間に人型を回復させる。

そしてニホリは、自分で魔力を吸収して回復が出来る。

ニホリが健在な限り、彼女たちは無限に戦えるのだ


・・・だが、それは滅霊も同じだ。


「・・・■■■!!」

「チッ・・・まだまだ」


滅霊は、花から離れたことで魔力の吸収が止まった・・・わけではない。

恭輔とコロちゃん達のように、魔力のラインが繋がっている。

そして、滅霊の大元は精霊だ。

精霊は、その体を魔力で回復できる。

故に、滅霊は無限に回復が行える。


そして、自分の体を削り飛ばすという脅威を認識した滅霊は・・・さらに段階を上げていく。


滅霊の周囲に、無数の魔力球があらわれる。

その色は、滅霊の体色と同じ色をしている。

属性ではなく、ただ圧縮された魔力の暴力だ。


「・・・問題ない」


人型の周囲にも、同じように無数の白い魔力球があらわれる。

撃ち合うつもりなのだ。


「・・・負けない」

「■■■■■ァァァァァ!!!!」


両者の間で、光が弾けた

よろしければ評価やブクマ登録お願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ