526話
突如として突き刺さった腕。
だが、全く痛みはない・・・いや、それどころかこれは。
「何・・・何を」
『悪いわ。マジで時間ないんア。後は中で説明する』
「は・・・いやちょっと!?」
何と、刺さった腕の方にどんどん未来の俺が引き寄せられている。
最終的に、腕が開けた穴から全身が俺の中に入り込んでいった。
腕が刺さったはずの穴も何も残ってない。
「恭輔!大丈夫なんか!?」
「うー!!」
「あ、ああ・・・大丈夫。痛みはない」
それどころか、力が溢れてくる。
今のが一体化で・・・いいのか?様子が違ったが。
それに、中で話すって一体。
(こういうことだよ)
「おう!?」
「やっぱどっか痛いんか!?」
「ち、違う違う・・・え?どういうこと?」
(説明なしなのは謝る。だが、このまま説明するぞ)
中ってマジで俺の中ってことかよ。
いやどうなってんの俺の体。
「すまん女神フミ達に説明任せた」
「分かったのだわ。フミちゃん達こっち」
「・・・ほんまに大丈夫なんよな?」
「う」
「ええ。問題ないのだわ・・・まだね」
少し離れてもらい、集中する。
そうすると、確かに俺に中に何かいるのが分かる。
さっきまでなかった物だ・・・俺に似ているのに、本質部分が全く違う力がそこにある。
(いいか。今から融合を始めるぞ)
「始めるって・・・これでいいんじゃないのかよ」
(いやまだだ。今は単純に中に入っただけだ)
「・・・これから何か一緒にするのか?」
(正解だ。今からお前の器を俺を使って拡大する)
「・・・は?」
生物の受け止められる力を決めるのは、器だと教わった。
魂そのものの許容量とも言える。
それを大きくするための方法は基本的に存在しない。
結果的に大きくなるってことはあるが・・・それは危険を伴う。
自分の中に、無理やり大きなエネルギーを取り込んで、無理矢理広げていくのだ。
それしか方法がないから、俺自身の力を高めることが今は出来なかった。
(だが、俺とお前なら別だ。肉体の器も、魂も何もかもが同じである俺達なら)
「・・・そうか、魂が同じだからそのまま補強が出来る」
(そういうことだ・・・だが、問題がある)
「問題?」
(今俺の中に、星一つ分のエネルギーがある)
「・・・ッ!?お前ボロボロだったのってそのせいか!?」
(そういうことだ。その馬鹿デカい力が、お前の中を暴れまわることになる)
「・・・お前の中にある物が、お前の器から出てくると」
(俺自身を削ってお前を拡大するからな。恐らくだが・・・)
体から飛び出ようとするから、想像も出来ない程の痛みがくるってわけだ。
(暴走は俺の方で止められるが・・・それは止められない)
「そうか・・・」
(気を失っても駄目だ。俺とお前が、完全に一つになるまでずっと意識を保つ必要がある)
「・・・ちなみに1つ聞いておきたいんだけど」
(なんだ)
「お前、星を取り込んだ時って気絶した?」
(・・・ハハ!するわけないだろ?)
「じゃあ余裕だわ。始めてくれ」
(分かった。いくぞ)
その瞬間、体が内側から爆発したかのような衝撃が全身に奔った。
『あっちも始まったようじゃのぉ』
『じゃあ始める?』
『おう。可能な限り相手の力を削ぐぞ・・・お主らも良いな』
『当然でしょ?』
『ああ・・・ここで戦わなければ、彼らに合わせる顔がない』
巨大な花が、既に半分ほど開いている。
それを前にして、巨大な獣たちがそれぞれの思いを胸に立っている。
星を守らんとし、生まれた使命をなさんとする者。
ただ家族の為に、託された思いをここで果たすと決めた者。
その始まりは・・・紅き光から始まった。
『消しとべぇぇぇぇぇ!!!!』
フィニちゃんがその翼をはためかせ、紅き閃光の翼を無数に放つ。
1発1発が必殺の炎の羽根。
掠れただけで、ありとあらゆるものを焼き尽くすそれは、空間を燃やしながら大きく広がっていく。
それはまるで、巨大な鳥をかたどり花に向かっていく。
最初から全力全開。
そうでなければ1秒も戦えないとわかっているからだ。
神力という、魔力の上位互換とも取れる力を手に入れた彼ら。
だが、それでも、星一つを養分として成長する厄災に対してはまだ足りないのだ。
生物1匹が持てる力では、到底かなうことのない怪物。
花を目にして、改めてそれを実感した。
火の鳥は、まっすぐに花に直撃し爆発する。
それだけで、周囲の水分は残らず蒸発した。
煙に包まれ、姿が見えない・・・だが、そこにある巨大な魔力は依然変わりない。
『・・・ほっほ。化け物じゃの』
『分かってたことだ!!』
煙が晴れる。
花はまだ変化が起きていない。いや、先ほどより少しだけ花弁が開いている。
フィニちゃんの一撃が、何かしらの反応をださせたのか。
『地味にダメージゼロは傷つくんだけど?』
『周囲にある魔力の濃すぎて届いてないね。まぁその分魔力を削れてるからOKOK』
『ほれ!休まず行くぞ!!』
その光景を人が見たら、怪獣達の決戦であると思うだろう。
超常的な力を用いて、世界を揺るがしながら戦うそれは、今が世界の終わりの瀬戸際であることを理解させるだけの何かがある。
炎が舞い、大地が割れる。
水流が激しく踊り、金色の風がすべてを切り刻む。
彼らは時間稼ぎであることいは理解しているが、そんなことを考えて戦ってはいない。
ここで倒す。何かさせる前に。何かする前に完膚なきまでに。一瞬だって抵抗させずに倒す。
それだけを考えて、後を考えずに攻撃を繰り返す。
火の鳥が無数に増える。それらが花に向かって連続的にぶつかり続ける。
そこに竜が激流のブレスを叩き込む。
さらに金色の鎧を纏った風が、ドリルのように回転し花の中に侵入。
そのまま中を縦横無尽に暴れまわる。
『下がっとれい!!!』
亀の響く声を聴き、ハクコちゃんは一気に花の体内から離脱する。
それを確認した瞬間に・・・空から星が降ってきた。
『纏めて潰れてしまえ!!』
巨大な星・・・隕石が振ってきた。
亀の力を圧縮し、3匹が暴れまわっている間に上空でこれを作っていたのだ。
圧倒的な質量を伴い、加速しながら落ちてくる。
地球に当たれば、被害は大きいだろうが・・・そんなことを言っている余裕はない。
流石の花も、体内を壊された状態でそれは受け止められなかったのだろう。
天高く伸びていたそれが、質量に押されて曲がってきている。
『今じゃ!!』
『おう!!』
『これで!!』
『燃え尽きろ!!』
その隙を狙って放たれた一撃。
もはや特定の形を持たない。ただただ殺すことのみを考えたエネルギーの奔流。
直線状にある物全てを消失させながら進んだそれは・・・花から放たれた衝撃波でかき消された。
『なぁ!?』
光だけではない。
上から花を押さえつけていた隕石もかけらも残らずに消えている。
『何が・・・まさか!?』
『ほっほ・・・まぁ成功じゃのぉ』
花から、何かが出てくる。
それは、遠くから見たら人間に見えるだろう。
全身が、紫やピンクの様な色だ。
長い髪の様な触覚。何も映していないような白い瞳。
あれが、厄災の花の完全体。
『逃げ出す・・・て感じじゃないね』
『あの女神は成功したようじゃの』
『じゃあこっからが本番?』
『そうだね・・・まぁあちらも本気みたいだけど』
感じる圧が増えている。
完全に4匹の神獣達を敵と認識したらしい。
そう。彼らの目的は、何も時間稼ぎだけではなかった。
あの花に、自分達が脅威的な存在であると思わせることもあったのだ。
敵だと思われれば、排除の為に外に出てくる。
今の恭輔は、それを知らなかった。
何故か?
それは・・・下手をすれば死ぬからだ。
未来の大門恭輔が、暴走の果てに倒すことが出来た存在の強化体。
それと戦うことが、どれだけ危険な事か。
だが、そんなことは分かっていた。
分かっていたからこそ・・・この役目を買って出たのだ。
『さぁ。こっからは何も考えなくていいぞフィニ』
『えぇ~僕は変えることだけ考えてるからそういうのはちょっと』
『ふん!そんなことは考えなくても分かっていることだからいいんだよ』
『はぁ~・・・元気じゃの~』
『まぁビビられるより良いでしょ』
『全くじゃわい』
花から生まれたそれを恭輔が見れば、あれが精霊であることが分かるだろう。
未来では、特にそれは名前がなかったが・・・
『暫定的に、滅霊とでも呼んでおくかの』
『うわ単純』
『やかましいわ』
『ほらほら。来るよ!』
滅霊が彼らに視線を向ける。
何も感じさせない瞳を歪ませ、まるで怒っているような形相でこちらを見ている。
「■■■■■■■■■ォォォォォォォォォ!!!!」
『恭輔的に言うならさぁ!!』
『やかましいんだよクソ精霊!!』
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