49話
「来週からお世話になります」
「こちらこそ、よろしくお願いします。藤岡さん」
「はい。こちらで、精一杯やらせていただきます」
「ハハハ。そこまで気合を入れなくても大丈夫ですよ」
「そうですかね」
「ええ、一番働くのは恭輔ですし。皆さんの主な業務は魔石回収になりますから」
「さりげなく俺を筆頭に立たせてらっしゃる」
「うー!」
「恭輔君、ニホリちゃん」
「お久しぶりでっす」
「う!」
「はい。お久しぶりです」
他の研究員に頼まれたから、さっきの研究データを持ってくことになったので持っていったら。藤岡さんがいたでござる。
それ以上に俺に責任が来そうだったことに驚きを隠せない。
「いや、冒険者部門で言うなら。お前がトップだぞ」
「え」
「そうですね。私たちは最初は慣れることから始めなければいけないですし」
「なによりお前が一番強いからなぁ」
「責任者を強さで決めていいの?」
「この場合、強さでも、知識でも、だな」
「ここで沢山学ばせてもらいますよ」
「ナンテコッタイ」
確かに人員的にそうなるのはしょうがないのかもしれないがナンテコッタイ。
そういうのが嫌で俺は歩合制になっていたはずでは・・・。
「いや、別にそういう理由ではないんだが」
「そうだったの!?」
「なんでそう思ったんだ!?」
「え、俺が好き勝手にできるように気でも使ってくれたもんかと」
「そんなわけないだろ・・・」
「相変わらず、元気そうでよかったです」
「う?」
「あら。ニホリちゃん?」
「うーうー」
「え、えっと?どうしたらいいの?」
「あ、抱っこしてあげてください」
「うー!」
「じゃ、じゃあ」
珍し光景を見てる気がする。ニホリが他人に抱っこをねだるとは。今のところ、家族以外だと清掃で研究所に入っているトメさん(84歳)しか抱っこまでさせてないのだが。
「トメさんは一発だったな」
「う」
「・・・本当に、人形とは思えないですね」
「柔らかいですし。検査でもほとんど人間みたいですよ?」
「ほとんどといっても、わかる範囲ではほとんどって意味だがな」
「それって?」
「なんかレントゲンとか撮れないんすよね」
胃カメラもダメ。中が映らないのだ。ニホリの体内をどうにかして映そうとしてもことごとく失敗する。
しょうがないから、わかる範囲で調べたのだ。その結果がほとんど人間と言うことがわかった。
流石に血は流れてないんだが。何か血管のようなものがあるのは見えるのだ。
「ほら、腕とか見ると意外とわかるんですけど」
「う?」
「今のは、見る?って聞いてくれたんですか?」
「そうですね」
ニホリが藤岡さんに見せつけるように、目の前に腕を持ってくる。
何故かうれしそうなのだ。
「・・・本当ね。ちゃんと血が流れてるみたい」
「実際には目に見えないものが流れてるんですけど」
「目に見えない物?」
「魔力ですよ。俺たちが魔法を使う時に使ってる物です」
「これが・・・」
「まぁ、実際に見えてるわけじゃないですけど。あくまで、俺の感覚では魔力ってだけですし」
「確かにそうですね。私も何か流れてるのはわかるのだけれど・・・」
「すっごく集中しないとわからないでしょ?」
「ええ。普段意識してもわからないと思います」
「実際のところ、俺も見ながら意識しないとわからないですし」
「うーん。やっぱり魔力の感知には魔法スキルが必須か」
「どうだろ。母さんみたいに魔石の魔力を取り込み続ければ行けるかもしれないけど」
「どれくらい必要なんだそれ」
「全く見当がつかないけど。軽く100個くらいいるんじゃないの?」
母さんが魔力を取り込んだ魔石は10数個程度。それでも全く魔力はわからないそうだ。
俺はレベルアップやらだけで、魔石の魔力を取り込んでいないのに感知できる。
そこから考えられるに、魔石の魔力を取り込むだけでは魔力を感知する能力が育たないものと考えられる。
100くらいといった理由は、それくらい魔力に触れていればわかるんじゃね?という俺の推測だ。
「そういや、姉ちゃんたちは?」
「ああ、正式にここのメンバーになるのは来週だからな」
「皆は休暇です」
「え、じゃあ藤岡さん一人で来たの?」
「一応、異動組の代表ですからね」
「階級高いってやですねー」
「そうでもないですよ?」
「うー?」
「フフフ。ニホリちゃんにも会えたしね」
「う!」
「本当にかわいい」
「うちの子なんですよ」
「なぜ子供自慢?」
なんとなくしたくなったから・・・。
「あ、そうだ。恭輔どうせ暇だろ?」
「どうせってなんだ。暇だけど。あ、これさっきのやった実験のやつね」
「お、じゃあこっちの机に置いておいてくれ」
「オッケー」
「ってそれもそうなんだけど。暇なら藤岡さんを案内してやってくれよ」
「ああ、そういうね。全然いいよ」
「お、珍しい」
「人をなんだと思ってるの?」
案内くらいするわ。暇だし。
前回とか、前々回とか。俺らがダンジョン行った時とかに案内してもらったし。
それくらい普通に引き受けますよ。
「うー!」
「あ、案内したいみたいなんでおろしていいですよ」
「はーい。ゆっくりね」
「飛べるからそこで離してもいいですよ?」
「え?」
「うー!」(フヨフヨー
「え?。え!?」
流石に驚きますか。
この状態で俺も飛んだらどんな顔するのだろうか。今の顔も十分レアだけど。
普段クールな美人がこうやって驚くのっていいね。それでも絵になるのはさすがだと思うけど。
「うー!」
「じゃあ行きましょうか。あ、皆も拾ってくか」
「・・・いつもこうなんですか?」
「家だと流石に歩いてますけど。ここだとこうですね」
「う」
「お出かけ用って何よ」
「う~」
「自転車?。え、それってそういう扱いなのか・・・」
「まぁ、すぐに慣れますよ」
「そ、そうですか・・・」
ところでニホリちゃん。君、うー!って言うのはいいんだけど。藤岡さん置いてってるよ?
「大体こんなもんですね」
「やっぱり広いわね」
「大体使いませんけど。メインは、俺たちのデータを取る部屋と食堂ですかね」
「うー!」
「いや、あの部屋はお前ら専用でしょ」
「る~」
「ああ、そっか」
「えっと。なんて言ってるんですか?」
「ん?。あ!。すいません。ニホリが第二会議室もよく行くって言いまして。
ピッちゃんがこの人も着せ替え好きなの?って言いました」
「着せ替え・・・?」
「第二会議室はこいつら専用のドレスルームと化しているので」
「は、はぁ・・・」
そういう反応になりますよね。
きっとここの研究員のオフタイムに出くわせば理解しますよ。
・・・あれ?
「そういや、うちのけものーずは?」
「る!」
「もう食堂?早いなぁ・・・いやそうでもないな」
「う~」
「じゃあご飯にするか。藤岡さんもそれでいいですか?」
「え、ええ。大丈夫ですよ?」
「??じゃあ行きましょうか」
「・・・こう見ると。違和感すごいわね・・・」
なんだろうか。藤岡さんの視線が、前は普通だったのに、今はちょっと残念な物を見るような感じに変化したような・・・。
最近考え事しすぎて疲れてるのだろうか・・・?




