515話
最後の日だからこそ、いつも通りに過ごしたいんです
未来の俺は、お墓参りを一通りを済ませて消えていった。
なんとなく、帰ったって感じではなかったけど・・・まだやることがあるのだろう。
あの体でよくやるよとは思うが・・・止まる気がないのだから仕方ない。
ロラちゃんを連れて、こっそりと皆のところに戻り、皆を起こさないように元の位置に戻る。
ロラちゃんが俺の上に乗って抱き着いてきていること以外は元通りだ。
ただ、なんとなく眠気が覚めてしまっているから、すぐには寝れない。
横を見ると、すやすやと俺に蹴りをくれたニホリが寝ている。
なんとなく・・・人型の顔が浮かんだ。
正確には、あいつの中にいるニホリの事を考えた。
あの子は、未来から来てまだ起きていない・・・そう俺達は考えていた。
だが、本当にそうなのか?どうにも腑に落ちない。
人型の考えはともかく、俺の近くにいて・・・未来の俺もこの時代に反応がないのは考えにくい。
実は起きているのではないか?別の理由があって、俺に会わないのではないか・・・そう考えてしまう。
別に、それが悪いことでないのならいいのだ。
あの子が望んで、幸せであるのならそれで。
だが、そうじゃないのなら?理由は分からない。だが、何か良くない理由で俺に会えないのなら。
「・・・会いに行った方がいいのか?」
「ダメ」
「ッ・・・人型」
「音は消してる。普通に話していい」
「・・・器用だな」
「当然」
すっと、俺の頭上に人型が現れた。
他の子を潰さないように浮いている。
確かに、皆の寝息も聞こえなくなっている。結界の様な物だろうな。
こいつならそれくらいは出来るだろう。
でも・・・今浮かんでいるのは違うな。
「『浮遊』か」
「肯定」
「ニホリのだな・・・使えるのか」
「私と彼女。力を共有している」
「ニホリと?」
「彼女の意識は常にある」
「・・・じゃあなんで」
「会いたくない」
「・・・」
「わかってたはず」
・・・それは、考えないようにしていたことだ。
だから未来の俺は、未来のニホリをこの時代に置いていくなんてことを思い至ったのだろう。
「・・・まぁ考えのうちにはあった」
「・・・理由は」
「いや・・・いい」
理由を聞くことは、しない方がいいだろう。
恐らくだが・・・これを聞いたら、俺はニホリを止めないといけなくなる。
それをしたら、多分本当に嫌われる。
「嫌われてないのは分かってるから・・・それでいいよ」
「・・・そう」
「それにしても、ニホリにことになると少しお喋りになるな」
「??そう?」
「ああ。ちょっとだけな」
「・・・友人だった」
「・・・だった?」
「私は既に、未来の記憶を記録にしている」
「ああ。だから自分の事ではないってことか」
「肯定・・・私の友達はそこで寝ている」
「うー・・・zzz」
「・・・寝相悪い?」
「俺といる時だけ悪いらしいぞ」
今もしーちゃんに抱き着いてるからな。マジであれでどうやって寝てるんだ・・・?
人型のニホリを見る目は、知らない人から見ると無表情のままだろう。
だが、俺のそこそこ長い付き合いだ。本気で戦ったと言うのもあるのかもしれないが・・・楽しそうにしているのが分かる。
「いつから、未来の記録を持ってたんだ?」
「・・・ダンジョンを生み出してすぐに」
「速いな・・・それからずっとか?」
「否定」
「おん?」
「記録を確かなものにするのに時間が掛かった」
「そういうことか」
未来のニホリ達が、人型の中に来たのはそのタイミングだったのだろう。
だが、入った段階で記憶と記録の混乱が起きた。
それを完全に収めるのに時間が掛かったのだろうな。
恐らくは、ニホリがいたからだろう。自分でない異物が来たから、そこが問題になったのだろう。
「表面には出してない」
「そういう問題ではないと思うけどな?」
「・・・そう?」
「女神は心配しただろうよ」
「???問題ない」
「はい?」
「当時は別行動だった」
「・・・肝心な時に」
どうにも女神の言い方がはっきりしてなかったのはそのせいか。
時期が分からなかったから、最近になるまで確信が持てなかったというわけだ。
なんというか・・・間の悪いというか。
多分、昔からそういう感じなんだろうなあいつ。
「今は問題ないんだな?」
「ない」
「ならいい。ニホリの方もか?」
「ない」
「・・・ニホリは、大丈夫なんだよな?」
「問題ない」
「・・・ならいいや」
溜めることなく、すぐに言い切った。
なら、本当に問題はないんだろうな。
「じゃあ帰る」
「あ?もうか?」
「彼女の事を伝えに来ただけ」
「そうか。悪いなこんな時間に」
「気にしてない・・・しいて言うなら眠い」
「気にしてるなそれ。てか寝るのかお前・・・」
いやまぁ普通に食事はするんだからそりゃそうか。
・・・え、そういうもんか?うん分からん。
さっと人型も消えて、またみんなの寝息が聞こえてきた。
なんとなくニホリを撫でてみるとくすぐったそうに身をよじってしーちゃんの毛の中に消えていく。
・・・いやどこ行くねん。
時刻はそろそろ6時・・・2度寝するか。
「ニャー・・・ニャー!!」
「・・・おぅ」
「うぅ」
顔を柔らかいもので叩かれている。
なんだなんだと思ったら、猫・・・ケットシーだった。
ニホリも気が付いたら隣にいて、同じように叩かれてる。マジでどんな寝相してんだお前。
「ニャ」
「朝ごはん?起こしに来てくれたのか」
「ニャー」
姉ちゃんから頼まれたそうだ。猫目覚まし・・・この間のお返しか。
2度寝だから、若干体がだるいがまぁ仕方ない。
周りを見ると、既に数匹は起きているようで姿が見えない。代わりに外に気配がしている。
寝ているのは、ユニちゃんとロラちゃん。すらっぴとバトちゃんだけだ。
ニホリはケットシーに起こされて、しばらくぼけーっとしていたが、朝ごはんの一言を聞いて急に騒ぎ始めた。
「うー!!??」
「母さんがやってくれたんだろ」
「うーうー!」
「ん~?・・・フミも行ってるみたいだし大丈夫でしょ」
「うー!!」
だから行くんでしょ!と言ってふわっと浮いて飛んで行ってしまった。
家事は自分の物・・・というか、誰かの家事をするのが好きなんだろう。
「・・・俺もがんばるかぁ」
「ニャ?」
「・・・まぁ今は寝るんですけど」
「ニャ!」
「おっふ・・・二度寝は眠くなるんだよ・・・」
「フシャー!!!」
分かったわかった起きるよ。
だから爪立てんな。
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