509話
中にラム酒の入ったチョコを食べたら思ったより酔いそうになるっていう。
花の開花まで、後2日。
本当に、時が近づいてきたという感じがある。
遠くにあるはずの花の魔力が、だんだん落ち着いているのだ。
恐らく、本格的に花を開かせる準備に入ったのだろう。
「魔力の吸収も、一端止まったのだわ」
「ほう。ええことやん」
「でも、戦いが始まれば消費した分を回復しようとするだろうから・・・」
「あー・・・それがあったなぁ」
「まぁ今止まっているのは結構大事なのだわ。あちらも準備が最終局面に入ってきているってことだしね」
「・・・恭輔は間に合うんか??」
「心配?」
「うん・・・うちは、今回は戦えへんから」
「仕方ないわ。あなたが出たら、間違いなく世界はあなたを殺しに来るわ」
「・・・でも、恭輔が死ぬ可能性はあるんやろ?」
「大丈夫なのだわ」
「どうして?」
「恭輔ちゃんが負けたら、皆死ぬのだわ!!!」
「・・・いやなんやそれ」
「いいのよ。私たちは気楽に待っていればいいのだわ。だから、貴方は何があってもこの家で恭輔ちゃんを待ってないとね」
「・・・」
「出来れば笑顔が良いのだわ~」
「・・・へへ。せやな」
フミと女神は、今日は家にいる。
俺達は引き続きダンジョン内だ。最後の仕上げに取り掛かっている。
「俺たちの魔力共有?」
「貴方の吸収と組み合わせる」
「・・・コロちゃん達がやってたのはそれか」
「肯定。ニホリも関わっている」
「ニホリも?」
「う!」
俺が魔力を吸収して、それをニホリに流す。
ニホリに流れた魔力を、さらに皆に回すという方法を取るらしい。
「俺から直接は出来ないのか」
「やめておいた方がいい」
「どうしてだ?」
「貴方の力を受け止めきれない可能性が大きい」
「・・・そういうことか」
俺から直接魔力を流すより、ニホリを経由した方がいいのはそういうことらしい。
ニホリは長い間俺の魔力の供給を受けていた。
だから、その分だけ俺の力を受け取る為の器が出来上がっているそうだ。
どれだけ特殊な力でも問題ないらしい。俺のならという限定的な物にはなるが。
「地球レベルのは無理と」
「量が多すぎる」
器に入れる為に大事なのは、量より質らしい。
量は調整すればいいだけだ。だが、質はそうもいかない。
今の俺の状態だと、他の皆が使うにはやや難しいことになってしまうらしい。
だから、ニホリを経由するのだ。
ニホリは、俺から受け取るだけでなく俺に流すことも出来るとは前に説明を受けた。
これを、コロちゃんんが神力で形成したラインを使って魔力を受け渡す。
そうすることで、俺が魔力切れを起こさない限りは皆は無限に魔力を使うことが出来るようになるのだ。
「コロちゃんがやってたのはそれだったのか」
「・・・切り札もある」
「切り札?」
「ワン」
「・・・秘密」
「・・・まぁいいだだろう」
秘密なのは前からだ。今更聞かないよ。
「つまり、これからやるのはその魔力の受け渡しか」
「主にニホリの練習になる。あなたは魔力の運用を引き続き」
「・・・戦いながら?」
「当然」
「分かった」
「少ししたら、他の皆もやってもらう」
「ワフ?」
「戦いながら受け取り、使う練習」
「・・・ワン」
コロちゃん達も、皆覚悟を決めているようだ。
かなり難しいことだろうが・・・やらないという選択はない。
先ずは俺からだ。
人型から距離を取って構える。
昨日より、自分の体が軽いという感覚が強い・・・これの調整も、ここでやるか。
「吸収を止めない」
「わかってるよ」
「・・・そっちも」
「う!」
「ワン!!」
さて・・・始めるか。
目の前で、恭輔と人型の訓練・・・いや、戦いが始まった。
昨日とは比べ物にならないくらいに、2人とも本気だ。
拳が振られたと思ったら、魔法が発動している。
そしてそれと同時に、一気に魔力が流れ込んでくる。
「うっ」
「ワン」
「・・うーうー」
一瞬吐き出しそうになった。
なるほど、これは他の皆では受け止められないだろう。濃すぎる。
慣れているはずの自分ですら、あまりの量にこのありさまだ。
コロちゃんに心配をかけてしまったが、でもまだ大丈夫だ。
「う!」
声をかけ、魔力の受け渡しを開始する。
女神が言っていた。
自分達人形は、あらゆる魔力を受け取り、その性質を平均化させることに長けているのだと。
これは、人形という存在が魔力を吸収して生きることから備え付けられた能力だ。
これを利用して、恭輔の魔力を変える。
無色透明・・・何の色も付いていない魔力にしてから皆に譲渡する。
コロちゃんを中心に繋がっているラインに、魔力が乗る。
そのラインの構成上。初めにそれを受け取るのはコロちゃんだ。
「・・・ワフ」
「うー・・・?」
でもコロちゃん。何の問題もなさそうなの。どういうこと・・・?
質こそ自分が変えているとは言え、量が量だ。
なのにそれ全部体に入れて、特に表情が変わらないと言うのは何なのだろうか。
コロちゃんが神力で作った繋がり・・・ラインはあることに特化している。
それは、力の循環だ。
それの意味は、繋がっている全員の魔力を無限に回転させることにある。
こうすることで・・・ある切り札に意味があるのだが、それは今はいいだろう。
コロちゃんに流れた魔力が、ラインを通じて皆に流れていく。
「ぴ~」
「きき」
「う?」
「クゥ~」
皆はそれを感じて、余裕・・・とはいかないようだ。
いくら負担のほとんどを自分とコロちゃんが持っているとは言え、体内に異物を入れているのだから仕方ない。
・・・失敗すれば、誰かの体がはじけ飛ぶ可能性すらあったのだ。
恭輔に言わなかったのは、それが原因の1つだ。
いくら恭輔が信頼してくれているとはいえ、死ぬ可能性が高いと言うと却下される可能性は高いと思ったのだ。
まぁ今問題はないから、このまま秘密にしておこう。
「う!?」
「ワン」
「・・・うー」
少し集中が途切れた瞬間に、恭輔から来る魔力が増えた。
恐らく戦闘に集中して調整をミスったのだろう。
まぁ文句は言いにくいが・・・タイミングが悪い。
前にもこんなことあったなと、ニホリは思い出す。
「・・・うーうー」
「ワフ・・・」
スナネコの赤ちゃんの話をされた時、一気に偉い量の魔力が来たなぁと思い出した。
ああ、これあの感覚に似てるのか・・・なんでそれで今と同じ状況になれるのだろうか恭輔は。
「るる」
「・・・うー」
うん。その通りだ・・・それがいつも通りだったなって思う。
・・・ん?もしかして。
「うーうー?」
「・・・ワン」
珍しい動物を抱っこさせてあげるとかご褒美を決めたら、一気に強くなるのでは?と思ったけど、コロちゃんがいやな顔したからやめてあげよう。
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