434話
『ほっほっほ。聞いてた通りの反応じゃのぉ』
「声がでけぇ」
「サイズ感にはあっとる」
「うー」
デカい・・・それしか言えない大きさのそのモンスター。
え、いや。モンスターだよな?動物の変異種とかじゃないよなこれ。
とにかくわけのわからない存在。
目の前にいるのに、いない。今までずっと見ていたような感覚すら覚える。
地面の感覚・・・そうだ。これは俺が大地に干渉する時の感覚に似ているんだ。
そこにいてあたりまえ。あって当たり前な感じ。
でもいざ目の前に見るとデカい。物理的な大きさ、力、存在感。
ありとあらゆるものがデカい。
格が違うという言葉があるが、俺とこいつとを比べる時にふさわしい言葉はそれだろう。
『考え事はもうええかの?』
「んあ・・・あ、読める系?」
『いいやぁ。君から聞いてたからねぇ』
「俺から・・・未来の俺か」
『そう。そう言う意味で言うなら、君は僕の父親って言えるかもねぇ』
「こんな大きな子を持った覚えはありません」
『未来の子供だねぇ』
ゆっくりというか・・・おおらかなのか?
ふわっふわしてるんだよな・・・雰囲気が。
体とのミスマッチ感がすごいわ。
てか、未来の俺から聞いてたってもしかして。
「ここに俺を呼んだのってもしかして」
『うん。未来の君が頼んだんだ』
「なんでだ?」
『本当は僕たちの力・・・神力の使い方を教えるはずなだけど・・・使えるねぇ』
「ああ。ハクコちゃんの借りてな」
やっぱりそうだったか。
未来の俺に力を与えられた・・・育てられた?こいつらがなんで俺を呼ぶのかと思ったが。
『それなら話は早い。これを持って行ってね』
「うん?」
デカい亀の足元から、地面がこっちに向けてゆっくり伸びてくる。
ちょうど俺たちの前あたりまでで止まった。その上には、茶色に輝く球が乗っている。
これは・・・
「ガウ」
『そうそう。君は優秀だねぇ』
神力の塊だ。
時間を掛けて、ゆっくりと神力を物質化したもの。
高密度に凝縮された神力が、周囲に漏れないように固まっている。
恐らくこれを持てば、俺の中に神力が入ってくる。
『まだ直接触れちゃダメだよ?』
「わかってる。ハクコちゃんならいい感じ?」
『・・・うん。大丈夫だね。この子はもう自分の力を確定させているようだし』
「OK。頼むハクコちゃん」
「ガウ!」
「ポヨネ。ハクコちゃんにこれでネックレスみたいに括り付けてくれ」
「私は大丈夫なんですか?」
『ああ。恭輔君に、フミさん以外なら問題ないよ』
「???とりあえずわかりました」
恐らく、ある程度力を持っていると駄目なんだろう。
資格アリとみなされて、力が体に入ってくる。
俺は恐らく一瞬なら抵抗出来るが、フミは駄目だろう。ハクコちゃんの神力も使ったことないし。
まぁ格が違いすぎて文字通り一瞬しか抵抗出来ないだろうけど。
ポヨネに渡したのは、魔法で作った鉄線だ。
それを器用にハクコちゃんに括り付けていく。
その時のポヨネの顔が険しい。
「・・・なんですかこれ」
「神力」
「これは・・・こんなの使えるんですか?」
「実際使える子が君の目の前に」
「ガウ」
「えぇ・・・」
全く感知出来ない力だが、手に持てばそれが伝わる。
これは結界を使えて、鑑定も出来るポヨネだからこそわかることだろう。
その力の強大さと、異常なまでの密度が。
「・・・ガウ」
「帰ったら箱に入れるからそれまで頼む」
『長い間は嫌だよねぇ』
「他人の神力って嫌なもんなのか?」
『嫌って言うか・・・違和感がすごいんだよねぇ』
「ほへー・・・わからん」
『君と僕は似てるからねぇ。魔法で同じようなことが出来るから』
「ほほーん」
「じゃあうちはあかんのか?」
『ダメじゃないけど。彼ほどは使えないかなぁ』
顔がデカいから、今は真正面じゃなくて目の横にいる形になっているんだが、目だけで俺達よりでかい。
だがその目は優し気な印象を覚える目だ。
まるで、懐かしいものを見たような。
・・・はて、最近同じような目を見た気がするんだが。
まぁ目的は達した。
この球を受け取ること。それが目的だったのだろう。
そういえば、未来の俺はどうやって神力を使えるようになったんだ?
『未来の君かい?・・・多分、未来の僕だろうねぇ』
「お前が目覚めさせたって?」
『うん。彼は、出会った時に、お前らの誕生を速めたって言ってたからねぇ』
「そういうことか」
未来の俺は、恐らくフミを殺した後に神力に目覚めた・・・あるいは、使い方を知ったのだろう。
それまでは暴走と言う形でしか使えなかったと思われる。
だからこそ、過去の俺に今このタイミングで神力を使えるようにさせるようにこの亀に頼んだのだ。
だが、それはいい意味で裏切られた。俺は既に使える状態だったから。
そして、今渡された球・・・宝玉とでも呼ぶか。
これはもっと後に渡される予定だったんじゃないかな。
最低でも、ハクコちゃんの力を使えるようになるまでとか。
それなら、いつがタイムリミットか知っているはずだ。
だが、その予想は外れた。
『いいや。僕たちはいつその時が来るか知らないんだ』
「はい?」
『教えてもらわなかったんだ。自分が介入した以上、その結果には意味がないからって』
「マジかよ・・・」
確かに既に未来に続くまでの道のりは大きく変わっているが、それでもある程度は知っておきたかったんだけどな。
「まぁ知らんものは仕方ないか・・・この宝玉は、俺のタイミングで使えばいいのか?」
『そうだねぇ。言われてないから』
「なるほど、使うタイミングは俺に任せるってか」
何が起きるか、いつ起きるかに関係なく、問題の中心点は俺とフミだ。
だからこそ、俺がここぞと思ったタイミングで使えと・・・体に取り込めと言うことだろう。
ある意味で、これは切り札だ。そして、最終手段でもある。
使わないに越したことのない手札・・・使い方を間違ったら、未来より悲惨なことになる。
それだけは避けなければいけないが・・・
『それじゃぁ。次は2週間後に会いに行ってあげてね』
「会うって・・・あの鱗の?」
『そう。場所はもっと近い所に居てくれるはずだからね』
ふむ・・・それで問題ありそうだけど。近いのは楽だな。
また海の中とかだと、移動するのにも一苦労だし。
てか、この感じだとこれに似たような物をもう一個渡されるのか・・・危険物が増えるのか・・・
恭輔に亀と呼ばれていたその存在・・・それは、恭輔達が帰った後も地上に顔を出していた。
本来なら、用事が済んだらすぐに潜るつもりでいたのに。
『・・・急に頼むから、疲れたよぉ?』
『はは。悪いな。今のままだと足りないからな』
『何をしようとしているか知らないけど・・・ひどいことは駄目だよぉ?』
『わかってるよ。そんなことしたら、あの世でフミに怒られる』
『・・・ああ。君は後悔していたのか』
『・・・してないとでも?』
『それ以上に、怒りを感じだからねぇ』
亀と呼ばれた存在の頭の上に、未来の恭輔がいた。
『まぁ・・・色々あるんだよ』
『だろうねぇ。今の君に出会って、より鮮明に感じたよ』
『俺とはやっぱり違うか』
『それはもちろん。君は、少し擦れすぎているよ』
『・・・止めてくれるやつも、いなかったからな』
『だから、あんなこと考えたのかい?』
『当然だろ。それが、一番頭のいいやり方だからな』
『・・・でもそれじゃぁ』
『いいんだよ』
『・・・』
『それでいいんだ。きっと、フミも褒めてくれる』
『・・・』
今の恭輔に渡された宝玉。
あれは、当初予定されていたものではなかった。
未来の恭輔が、今の恭輔が来る数日前に現れて、突如として頼んで来たのだ。
今の恭輔は、宝玉を長い時間をかけて作成したと思っていたが違うのだ。
あれは、無理やり短期間で作られた代物だ。
そしてそれは、未来の恭輔のある目的の為に作られた、今の恭輔を強くするための物だ。
『僕は、君のいうフミさんには会ったことないけど・・・』
『ないけど?』
『今の君は・・・怒られるんじゃないかな?』
『・・・だろうなぁ』
『わかってるじゃないか』
『へへ。でも、やらなきゃダメなんだよ』
『それはどうしてだい?君は救われないじゃないか』
『いいんだよ俺は。・・・もう二度と、あんな思いはしたくないんだ。だったら、今の俺に掛けてもいいだろ』
『・・・』
『未来の大門恭輔は、今を生きる大門恭輔の過去になる。それが・・・俺が見つけた希望だよ』
それが、どう言う意味なのか。
それを、恭輔が知るのは・・・まだ先の話だ。
よろしければ評価などお願いします




