430話
「グギギャ!?」
「・・・あれー?」
「むむ?」
「・・・う?」
「いやなんでも・・・」
「せやな・・・」
「「うーん・・・???」」
悩んでいるわけではないのだが・・・俺達の能力がおかしいことになっている。
フミも俺も、強くなっている。
実は、この間の冒険者研修中に人型に言われた強くなっているというあれ。
まさかないよなぁとは思ったが、あれが言うんだからもしかして?と疑いティラノと戦いに来てみた。
結果は、確かに強くなっている。
今までティラノの首をこんなにあっさりねじ切ることは出来なかった。
フミも、自分の想定していたより威力が出ているようで、周囲の地形は元の形の見る影もないくらいにボコボコだ。
だが、それはあくまでも自分の出力が全体的に上がっているだけで、制御できないわけじゃない。
なんというか・・・燃費の良いようにパーツを取り換えたバイクって感じ?
元が同じだから制御は簡単だけど排気量が一気に倍くらいになった感じかな。
本来これはあり得ない。
レベルアップの時の能力上昇は、自分の体の成長に近いから、コントロールを誤ることはほとんどない。
一気に上がりすぎると大変なことになるんだが・・・
スキルでの強化の場合は、そうもいかない。
なにせ急に背中を押されているようなものだ。そら転びそうになるに決まっている。
だが、今回の俺たちの強化は何もしていない以上スキルにより強化に似ている・・・はずなんだ。
レベルアップはどうしても戦わなきゃいけないし、倒さないといけない。
それをしていない以上、俺達がこれを今回の能力アップをコントロール出来るのはおかしいんだけど・・・
「どうよ」
「・・・明らかに強くなっとるし、なんなら今までより戦いやすいわ」
「だよな・・・なんだこれ」
俺がすべて話すことで、心が軽くなってそれがフィジカル面にも影響が出ている・・・のか?
だけどなぁ・・・それだど、俺がフミが死ぬという事実を知るより前と知った後で強さが違うことになる。
それも、後の方は弱くなっているはずだ。それはなかった。俺の強さはそれで変わってはいない。
今回急に強くなったのだ・・・何か悪いことではないんだけどさ。
「急に来ると考えちゃうな」
「せやなぁ・・・でも、人型はわからんのやろ?」
「みたいだな。ということは、実質女神も知らんだろう」
「じゃあ前に恭輔に干渉してきた例の連中がまた何かしたんかな」
「フミにもか?」
「あーそれもそうやな。恭輔だけならまだしも」
「理由もそうだし、そもそもフミには干渉出来ないだろうさ」
干渉方法的に、俺以外にはつかえないって のが正しいかな。
なんせ地球を挟んでの能力干渉。その為にはまず対象の存在が地球に干渉できるって前提が必要だ。
それがないから、フミは駄目だ。
「・・・でもそうなるとお手上げなんやけど」
「まぁそうなんだけど・・・また知らん誰かのせいか?」
「うぇまたかいな」
こんな会話をしているが、一番怪しいのは俺たち自身なんだけど。
実は気がついていないだけで、何かやってたって可能性は否定できない。
あと・・・あるとすれば未来の俺か。
「恭輔が?」
「ああ、未来の俺は簡単にこっちに干渉出来ると思うぞ」
もちろん、俺達限定・・・というか、俺達だからこそ簡単に干渉出来るのだ。
なにせ、過去の自分だ。共通点しかないし、ちょうどいい地球と言う目印に干渉すれば必然的に俺に辿り着く。
そして俺まで来ればあとは簡単だ。『テイム』を通してフミ達にも干渉出来る。
これは、他人のスキルに自由に干渉出来るって能力が必要だけど。
いや、俺だから他人ではないのか。
「なにせ、未来まで呼び出してくるような奴だし」
「自分の事やろ?」
「まぁそうなんだけど・・・」
色々気になることはあるのだ。
ニホリが動かなくなったとか、ハクコちゃんとフィニちゃんの事もある。
隠し事はないんだろうけど・・・今の俺と決定的に何かが違ってしまっている感じだ。
神の力とか、色々あるんだろうけど。そうじゃなくて。もっと根本的な部分で違う感じだ。
なんだろうな、この違和感。
「うー!」
「うげ」
「おおう、ニホリダイナミックやな」
「う!」
「すまそ」
無視すんなと怒られた。いや本当にすまん・・・
「・・・んー?」
「・・・う?」
「どしたん?」
「いや・・・ちょっとな・・・」
フミが死んでから、ニホリが動かなくなった・・・妙だな。
フミの死で、ニホリがショックを受けた結果だとすればまぁ納得は出来る。
だがそういう感じじゃなかった。
そもそも、ニホリ達が動かなくなる現象とはどういうことか。
先ずは魔力の枯渇。
体を維持することも出来ないくらいに魔力を消費すれば、確かに動かなくなる。
人間の体もなくなって、人形に戻るってことだ。
もう一つは・・・これはあるのかわからないことだ。
ニホリは、俺がテンションが上がると魔力が急に大量に流れてきてびっくりすると言っていた。
つまりこれは、ニホリの許容量を超えそうになっているということだ。
なら、完全に超えた場合はどうなるのか。
器が完全に壊れてしまうのか、それとも・・・
或いは、魔力ではなく神力が流れた可能性もある。
魔力で動く前提のニホリ。急に違うエネルギーが来たら、壊れるか、それに対応するためにいったん動きを止めるか。
だが、この程度の事。今の俺でも思いつくのだから未来の俺が考えつかないわけがない。
または、考えついてもどうしようもないって問題なのか。
「うーん・・・???」
「うー♪」
「何で高くあげとるん?」
「喜ぶかなと」
「う!」
「楽しいそうです」
「何より・・・いや、ニホリそのくらいなら飛べるやろ」
「ううーうー」
それはそれ、これはこれ、だそうだ。
・・・まぁ原因を考えるより、今はフミと俺の問題を優先した方がいいか。
何が起きて俺がフミを殺してしまうのかはわからないが、まぁ何かと戦うのだろうと言うところまでは想定している。
俺が力を求めそうな場面何てそれくらいだ。
そして、それをなんとか出来れば、ニホリの未来も変えられる。
今のままずっと、元気なままでいられるのだから。
「・・・よし!頑張るか!!」
「う?」
「とりあえずは、今の最大を見んとな!」
「ちゅー・・・」
ねっさんは悩んでいる。
正確には、ねっさんだけが悩んでいるわけではない。
今、恭輔のテイムしている彼らは、皆同じような悩みを抱えている。
その悩みの内容は、恭輔とフミの事。
何かがあったらしく、今まで以上に仲が良くなった。
それはいいのだ。家族の仲がいいのは非常にいい事だ。自分たちまで嬉しくなる。
だが、フミがあれほど止めていた恭輔が強くなること・・・その制限が緩んでいる。
そしてそれにつれて、フミ自身も強くなっている。
まるで、何かに備えるように。
・・・自分達には何も聞かされていないが、なんとなくわかる。
彼らは、恐らく自分達より強大な何かと戦おうとしている。または、戦う可能性が高いと思っている。
コロちゃんとハクコちゃんは、恭輔の部屋の隣の部屋で籠って何かしているようだし。
ならば自分達も、彼らの役に立つために備えるべきだ・・・
そこまでは良かった。
問題はどうすればいいのかわからない事。
戦うのなら、強くなればいい。
だが現時点で、彼らの強さは実はある程度完成している。
弱点がないわけではないが、そこは全員がそれぞれの強みを生かして補える。
それに、自分達より強大な敵と戦うのなら、弱点を補強するのではなく強みをより伸ばすべきだろう。
・・・まぁその方法がわからなくて悩んでいるのだが。
特に、ねっさんは悩んでいる。
他の子達・・・特に魔法組は、自分達の魔法スキルを使い込むことで新たな魔法を作ろうとしている。
まだそこまで戦えない子・・・フィニちゃんやルミネと言った子達は、そんな彼らの邪魔にならないようにそれぞれでひっそりと鍛えている。
ねっさんは、元からそこまで強いモンスターではない。
なにせ元がただの大きなネズミ。
レベルも上がり、相性のいいスキルも手に入れたが、戦い方を変えることは出来ない。
スキルの構成上という問題もあるが、それ以前に身体能力の問題もある。
実のところ、速度面以外の能力を見ると、ねっさんは恭輔の家族の中で比べるとほぼ最低クラス。
普段から戦っている面子で見ると、一番低い耐久力なのだ。
バトちゃんではなく、ねっさんが低いのだ。これには訳がある。
バトちゃんの魔法は、周囲を巻き込む。場合によっては自分自身すらも。
だがねっさんは、どう戦っても自分自身がダメージを負うことが少ない。
その為の『分身』だし、そういう活用が一番強いから、結果的に防御面での能力が伸びなかったのだ。
その分、速度とスタミナ面ではトップクラスの能力を持つ。
だがこれではだめだ。
もし自分の『爆発』が通用しない敵がいた場合、ねっさんは何も出来なくなる。
ふーちゃんも時々炎が効かない敵に出会うと何も出来なくなるが、それをどうにか出来るだけのスキルは持っている。
自分にはそれがない。追跡などの、戦闘以外での方向ではいくらでも活躍できるのだが。
真正面からのごり押し戦法・・・どうしてもそれが苦手なのだ。
『爆発』の威力が自分の体力に依存する関係上、最大火力は決まっている。
何かしら感情が爆発して、威力が上がるような物じゃない・・・だからこそ、決め手に欠ける。
「ちゅ~・・・?」
走り込みとかする・・・?とか考えているねっさん。
そんな彼の元に、ふわりとピッちゃんが舞い降りる。
「るる~?」
「ちゅ~」
「るー・・・るる」
「ちゅ?・・・ちゅっちゅ」
「るー!」
「・・・ちゅ!」
何か決まったようだ。
ねっさんは、恭輔がダンジョンで手に入れた物を仕舞う部屋に入る。
中は一部を除いてごちゃごちゃだ、綺麗な場所は、ニホリが定期的に掃除をしているから。
そのごちゃごちゃした場所の中で、もっとも物が積まれている場所に潜り込む。
ごそごそと動くと、上から何かが落ちてくるが、ねっさんは気にしない。
そして、ようやくお目当ての物を見つけた。
「ちゅ!」
高らかに掲げるそれは、スキルスクロール。
『悪魔化』と書かれた、ほぼ一年以上放置され続けたスキルだ。
よろしければ評価などお願いします




