411話
「・・・これは」
「親父ー定期報告・・・おん?」
「ん?ああ、恭輔か。そこに置いておいてくれ」
「ういうい。何見てんの?」
「気にするな。ちょっと気になることがあってな」
「その言い方は気になるな~」
「大したことじゃないんだ。ほれ」
「どれ・・・漁獲量?」
「他にも色々あるぞ。地震の回数とか、作物の報告書とかな」
「なにこれ、うち関係なくね?」
「まぁそうなんだが。見てみろ、明らかに数値が減っているだろ?」
「・・・まぁ例年に比べたらな。でも、これくらいなら今までも似たような数値あるじゃんか」
「天候に恵まれない年とかだな。だから今年もそうだと思うんだが・・・何か引っかかるんだよな」
「ほー・・・俺の勘には何も来ないわ」
「・・・なら大丈夫か?」
「俺基準かよ」
てか、親父がなんでこれ見てたかの説明されてないぞ。
そこを聞いたら、何でもダンジョンが発生したことによって発生するかもしれない環境の変化について、細かいデータから何かわかるんじゃないかという研究が最近始まったらしい。
それ最近なのかって話はあるけど、今まで中の事ばっかりで外の事は手を付けていなかったのだ。
人の営みの中で、自然から得られる物を数値化する。
そうすることで、ダンジョン発生前と後での差を見比べる。
まぁ1年だけのデータじゃ比べてもって話はあるが、やらんよりはいい。
それに、大きな変化ならわかりやすいしな。
「なにこれ、火山の活動とかもあるの?」
「凡そ人に大きな影響を及ぼしそうなことは大体あるんじゃないか?」
「はぁーこれ大変そう・・・火山はむしろ止まってんの?」
「らしいな。活動が穏やかになっているってだけみたいだが」
「はぁー・・・そういや、今年台風なかったな」
「いやあるにはあったんだがな。日本に来なかっただけで」
「あ、そうなの」
いまいちニュースだとそういうのは日本に来ないと伝えてくれないからな。
調べればわかるんだろうけど、来ないなら調べてもな。
しかも俺の場合台風が来ても来なくても全く関係ないし。ダンジョン庭の倉庫だし。
なんなら室内(?)だし。
あ、でもニホリが洗濯物ーって言って荒ぶるかも。梅雨の時そうだったし。
「それで?お前の方はどうなんだ?」
「どうもこうもなー。あれがあったから未だにダンジョンの下には行かせてもらえてないし」
「ふむ。未だ原因不明と」
「きっかけはわかってるからそこに気を付ければ何も起きないってのはいいことかな」
実際今日まであの暴走以降、ダンジョンの深い所には行ってないが一度の暴走もない。
一度だけ、ルミネの特訓でダンジョンに付き添いという形で行ったけど、その時も何もなし。
やなり強敵戦い、俺自身が強くなろうとすると駄目のようだ。
簡単に倒せるモンスター。強くならなくても問題なく勝てるようなやつには一切何も起きなかった。
近いうち、もっと下に行けるようになるだろう。
「うん。まぁ焦らんでもいいぞ?」
「いや、体がなまるわ」
「今この国でお前に何か言えるようなやつはいないんだから休めばいいだろうに」
「親父だって研究しなくていいって言われてもするだろうに」
「そら好きなことだからな」
「俺もそう言うことだよ」
そもそも俺の興味で潜り始めたんだぞ。
逆に入れない今の現状の方がストレスたまっちゃうわ。
まぁその分はちゃんとフミも分かっているみたいで、狸になっていつもよりもふらせてくれたりなんなりはしてくれている。
・・・それで誤魔化せてるんだから俺安いな。
いやほら、すらっぴ達もいつもより俺に引っ付いてくれてるし・・・いや変わんねぇな。
「なんなら今のままでも問題なさそうだけどなお前」
「否定できねぇ」
そろそろルミネの子供達に囲まれながら寝たいなって。
「たでーまー」
「うーうー」
「おかえり~恭輔。何かあった?」
「なーんも、強いて言うなら親父が変わったもの見てたくらいだな」
「ほぉー・・・それ聞いて理解できるタイプ?」
「無理」
「なら聞かんわ」
少しは興味を示せよ。
「う?」
「ああ、ニホリには関係あるかも。魚が高くなるかもって」
「う!?」
「何か獲れないんだってさー」
「うー?」
「さぁ。親父たちはそれがダンジョンのせいなんじゃないかって考えてるみたいだけど」
「あ、それが変なものやな」
「そそ。マジで色々見ててな。そういや、地震の回数とかもまとめてあったな」
「ほー・・・関係あるん?」
「それを調べてるんだよ。俺の考えではないけど」
「お、なんでや?」
「えっとな・・・」
先ず、ダンジョンが発生したのは去年の8月。
そこから1年以上が経ったわけだ。
そして、今までダンジョンが近くに発生したことで建物などが崩壊したという話は一切聞いていない。
場所によっては、本当にビルの隣とかに出来たものもあるというのに。
だから考えたのだ、恐らくダンジョンは外の物体に対する影響が一切ない。
例え建物の地下に発生したとしても、それが原因で建物が倒壊すると言ったことは起きないだろう。
まぁそういう風に、何にも被害を出さないような場所に作ったって話だとこの考えは意味がなくなるのだが。
「ある種、ダンジョンは異空間って考えだな」
「うーうー」
「下に広がっとるのに、実際は下がってないってことやな」
「そうそう」
だってダンジョンは100層あるらしいじゃないか。
100も下に下がってたら、普通何かしらの影響が出るだろう。
確か、地球の中心に近づくほど重力が強くなるんだったか。
だけど、今までそれを感じたことは一切ない。重力を感じるより早く俺たちが強くなっているってことはあり得そうだが。
だが、ニホリもそういった違和感は感じてないらしいし、実際に計測してみてもそこらへんは変わらないそうだ。
「はぁー・・・それわかるとどうなるん?」
「・・・俺たちが楽しい!」
「ええことやなー」
「うー」
「はーい」
「はいな~」
研究何て大体そんなものだぞフミ・・・
世の為人の為ってのはそらあるけど、研究を始める第一の理由って研究する本人が楽しいからだし。
そうじゃなきゃ研究何て続かないよなー。楽が出来ることなんてほぼないし、そもそも研究結果が世に認められるとも限らない。
それでも研究を続ける人はいるんだが・・・意地か興味か。そこは人次第だな。
ハクコちゃんとフィニちゃん。
『神威』と『天啓』を持つ彼らは、恭輔のテイムメンバーの中でも特に変わっている。
生まれもそうだが、明らかに遠いどこかから何かを感じ取っていると思われる時が多いのだ。
特にハクコちゃん。彼はそういうのに敏感なようだ。
逆にフィニちゃんは疎い。ふわっとしているからだろうか。
『神威』も『天啓』も、どういった効果か判明していない。
一部応用で、『神威』は時間を越えられると言うことは判明したが、あれは例外的な技だろう。時間を越えることは、大きなデメリットがある。
ダンジョンの人型は、それを反動といった。
時を超え、過去を変えた結果が、今の事態にどういった形で現れるのか。それは女神ですらも分からない。
だが、これだけは言える。
その反動は、何もない所から起きることはない。
何かしら、予兆があるのだ。それは小さな物だ。だが過去を変えた結果は、その小さな物を大きくしてしまう。
良くも悪くも。
だから、それに気がついてはいたが、何も思わなかった。
余りにも小さく、脅威足りえないと思ったから。思ってしまったから。
ハクコちゃんとフィニちゃんは、その何かを見過ごした。
「ガウ?」
「チュン?」
「おん?どったのお二人さん」
「・・・ガウ」
「チュンチュン!」
「はい?弱いから気にするな?何の話だ・・・?」
今はまだ、誰にも気がつかない。
海に沈む者と、地に隠れる者を。
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