395話
急展開
あの後もう何回か同じ魔法を使って貰い、感覚を掴んでもらった。
おかげで最初よりはかなりマシになっただろう。スライムとか、コウモリくらいなら倒せるんじゃないだろうか。
ただ当てればの話だ。命中率はマジで想像力・・・まっすぐ飛ぶとか、誘導されるとかはもっときちんとイメージしないと見当違いな方に飛ぶ。
こればっかりは練習だ。
俺は俺で、自分のレベルが足りてない事。
正確には、ハクコちゃんやフィニちゃん。そしてもう何匹か同じような子がいるのに備えるため。
その為にレベル上げを行うことにした。
今までもしてなかったわけではないが、正直『真化』込みで考えると、今の階層は効率が良くない。
悪くもないが、正直微妙だ。
感覚的にはこのままだと微妙に間に合わないというか。今日明日の話ではないんだけどさ。
だから、ちょっとズルをする。
本当はちゃんと探索して、一から発見するってのが俺の好み・・・楽しみでもある。
だけど、そういうこと言ってられない事情。うちの子達に関わるのだ。
ならば、その程度のこだわりは捨てて見せよう。
何をするか。
とっても簡単だ。
フミに、下の階層まで連れてってもらうのだ。
「着いたで!」
「相変わらずひどい環境ですね~」
「そらうちだってこんなとこぉ来たないわってレベルやし、恭輔大丈夫?」
「ああ、まだ問題ない」
俺達が探索で回ったのは60台の階層。
そして、フミに連れてきてもらったここは80層。
フミの生まれた階層を超えて、さらに下に。フミの知る中で、戦う上で最も苦戦し、強くなれる階層だ。
「正直、お勧めはせんよ?」
「ここ本当に無限沸きですからねぇ」
「それに厄介やし・・・ほんまにやるん?」
「やるよ」
「ああ、ダメや目がマジや」
「こうなると止まりませんね・・・結界だけしっかり張っときます」
「頼むわ。うちも手ぬけんなぁ」
連れてきたのはフミとポヨネだけだ。他の子達は無理だと判断した。
コロちゃんでも、ここは無理・・・てか、普通に危ないし、やらなくていい事だしな。
これをやるのは俺だけでいい。
フミは自分の生まれてた階層から下に向かった経験がある。
100層までは向かってないが、自分が苦戦しない範囲では下に向かっているのだ。
そのフミが、他の階層を差し置いてここが一番と言ったのには訳がある。
「お、もう来よったわ」
「うわぁ・・・多い・・・」
「やってくるわ」
「気を付けてな!」
「わかってるよ」
単純な数、そして質。
その2つが綺麗にバランスがいい場所がここなのだ。
階層の環境は、アリの巣穴の様に入り組んでいる。
そして、奥から来るのは黒い体色の人型。
ポヨネ曰く、エンドデーモン。そしてデスストーカーと呼ばれる死神のようなモンスターの2種類が存在する。
ガタイの良い、まさに悪魔と言わんばかりの見た目のエンドデーモン。
複数種類の魔法を使いこなし、さらには近接戦もこなす。
何より数が多い。気を抜くと囲まれるのは間違いない。
デスストーカーはさらに質が悪い。
なにせ普段は姿が見えず、攻撃の瞬間のみ姿を現す。
しかもこちらの背後に出てくる。その時まで気配も感じれないから、感知は不可能。
倒すにはサイズの一撃を食らう寸前でのカウンターのみ。
そして大前提として、こいつらは単体でもティラノくらいなら軽く狩れるということ。
普通なら、こんなところは来ないな。てか来たくないな。
ただ、それだけで辞める理由はない。
エンドデーモンの群れに向かって鉄の槍を放つ。
いくらかは迎撃されるが、それでも数本は頭を貫通することに成功する。
するとエンドデーモンから魔法が放たれる。
いくつもの属性の魔法が飛んでくる。道が一瞬で光で塞がれた。
それを、壁を張る・・・ことは出来ないので狙って撃ち落とす。壁を張ると、完全に視界がふさがれてしまうので出来ないのだ。
自分に当たる軌道の物を狙って槍を当てる。自分の手にも剣を生み出して、躱しながら切る。
その途中で剣が壊れるが、壊れた傍から生み出して強引に隙間を作る。
魔法の弾幕を抜けたら、次は拳が迫ってくる。
籠手を作り、拳をいなす。
エンドデーモンが姿勢を崩した、いなすのと同時に、足元を凹ませたのだ。
その瞬間を逃さずにパイルバンカーで頭を打ち抜く。
それと同時に、背後からの気配に備えて体を硬質化させる。
「クッ!?」
デスストーカーだ。
パイルバンカーは威力の分反動も大きい。隙が出来るのを、こいつは待ってたんだ。
ダメだな、これは使えない。
俺を切りつけてきたデスストーカーは、俺の体を両断する気で振ったのだろうが、結果はジャケットを切り裂いただけに終わった。
体には傷一つついていないが、それでも衝撃が強い。
背後を確認しないで、背中から蔓を生み出してデスストーカーを拘束。
離脱される前に絞め殺す。感覚での判断だが、蔓に付いている棘が深く突き刺さりねじ切ることに成功。
再び、前方にエンドデーモン。魔法の弾幕が放たれる。
「・・・今の恭輔じゃ、どうやっても5分もたんはずなんやけど」
「かれこれ15分戦ってますね。しかも、動きが鋭くなってますし」
「戦いの中で強くなるー!・・・をホンマにやっとるんやな」
最初の動きやと、無駄が多い。
止め刺すんに、バンカーみたいな火力は要らん。
いるんは確実に弱点を・・・頭を打ち抜けるだけの火力や。正直槍撃ちだすだけでもええ。
一回その隙で切られとるわけやし・・・めっちゃひやひやするわ。
『硬質化』なしやととっくに切られとる。
回避の方法はまだいい。全部を迎撃していたら間に合わん。
魔法の後に襲ってくるエンドデーモン自体をどうにかせないかんから、無理やり弾幕に穴開けないかん。
それを武器を振り回すことで成し遂げるんわ才能やな。あれは勘が鋭いとか、運がええとかで出来ることやない。
「早なっとるんよなんぁ」
「それに、魔力の上がり方おかしくありませんか?」
「レベルの急上昇・・・だけやないかな。多分『真化』が悪さしとるわ」
「悪さ?」
「勝手に体を最適化しとるんやろ。尽きることのないモンスターを、一切休まずに倒し続けるために」
「・・・それはある意味で恭輔さんの狙い通りですね」
「だから嫌なんよ・・・下手せんでも人間離れが進むだけやであれ」
人間には・・・いや、生物にには限界がある。
それはうちも変わらない。どこかしらに限界はある。
ポヨネも、コロちゃんんも、強くなるのには限界がある。
だけど、恭輔はそれがない。それを無くせる。
『真化』はその大幅な能力の上昇に目を奪われがちやけど、あれの本質はスキル保持者を変えることにある。
感情のままに強くなり、思う通りに越えてくる。
それは、もはや生物の範疇を超えている。
あってはならない。無限に進化する存在は。
今、また一段階壁を越えた。恭輔から感じる魔力の質が変わった。
「『土魔法』と『植物魔法』が変わったんやな」
「え?・・・本当だ。また上の魔法に」
「魔法てか、あれはそれそのものなんやろうけど」
「はい?」
魔法の枠を超えるんわ元からやったけど、統合までされるんか。
「・・・なんですかこれ。見えないんですけど」
「うん?・・・多分『鑑定』の限界を超えたんやな。そらそうなるわ」
「掠れてて・・・うん?『深・・・こ・・・』?」
「読まない方がええで。多分やけど」
あかんな。恭輔はレベルが足りてへん言うとったけど、急に上げるのもアカンのやないんか?これ。
明らかに様子がおかしい。恭輔の気配がだんだん薄くなっとる。
なのに感じる魔力や威圧感だけ膨れ上がっとる。
それに、使っとる魔法がおかしいような・・・?何か、熱くなっとる?
次の瞬間。恭輔の腕から火が放たれた。
「はい!?」
「ちょ、流石におかしいやろ!?」
持ってない魔法を使うんは流石におかしい。
どんな理屈やそれ。強くなるってレベルやないやろ!
アカン止めなだめや!これ以上は戻ってこれなくなる・・・??
「今何思たん?うち・・・」
「お姉さま!そんなことより止めないと!」
「あ、ああ。せやな」
ポヨネが結界を恭輔の前に張り、うちがその前に飛び出して一気にエンドデーモンの群れを一気に爆発させる。
その隙を狙って、後ろにストーカーが来るが、それを裏拳で消滅させる。
そして有無を言わさず恭輔とポヨネを担いで一気に80層を離脱する。
「恭輔さん!恭輔さん!!」
「・・・おあ?」
集中しすぎと使いすぎ、そして近づきすぎや。
そのせいで視点が戻っとらん。
ああもうまたや!これが恭輔の言っとったやつか!?こら厄介やわ。
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